大塚製薬株式会社

医療関連事業
2013年11月25日

多剤耐性結核の治療薬として開発中の「デラマニド」
欧州医薬品委員会が販売承認を推奨

  • 欧州の医薬品委員会(CHMP※1)は、大塚製薬の再審査要請に応じ、多剤耐性結核の治療薬として「デラマニド」の販売承認を推奨することを発表した。正式に承認されれば、欧州では抗結核薬として約40年ぶりの新薬となる。欧州では、多剤耐性結核は希少疾病として指定されている
  • 臨床第II相試験では、多剤耐性結核の標準治療に上乗せしてデラマニドを2カ月間服用することで、プラセボ群と比較して53%も多くの被験者で結核菌の消失を確認
  • 結核はWHOが指定する3大感染症のひとつ。世界の人口の約1/3が結核菌に感染し、860万人が毎年新たに発症、年間130万人が死亡している。多剤耐性結核の推定患者数は45万人で、年間約17万人が命を落としていると言われている※2

大塚製薬株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:岩本太郎、以下、「大塚製薬」)は、自社創製の多剤耐性結核の治療薬として開発中の「デラマニド」(一般名)について、多剤耐性結核の標準治療(OBR※3)との併用療法として、欧州医薬品庁(EMA※4)の医薬品委員会(CHMP)より販売の承認推奨を得ました。このCHMPの承認推奨をもとに、来年初旬に欧州委員会(EC※5)で販売承認について最終的に判断されます。

染色された結核菌(電子顕微鏡写真)大塚S.A 提供

本年7月のCHMPでは、「デラマニド」の販売承認に対して否定的な意見があげられましたが、大塚製薬は再審査を要求し、次の内容について協議を重ねたことで販売承認の推奨を得るに至りました:

  • 申請時のデータに関して「デラマニド」の治療効果の持続性を裏付ける追加解析を行い、その解析結果を提示
  • 現在進行中の臨床第III相試験(本年11月に全症例組み入れ完了)に加えて、用法・用量をより適切なものにするための新たな臨床試験の実施

大塚製薬の抗結核薬グローバルプロジェクトリーダーである吉武益広専務執行役員は、今回の承認推奨について 「多剤耐性結核は、過去20年間に結核治療の第一選択薬に対する耐性菌が著しく増加していることから世界の公衆衛生上の脅威となっています。多剤耐性結核の新しい治療選択肢を必要とする欧州の患者さんにもうすぐ『デラマニド』をお届けできる日が近づいたことは大変嬉しく、弊社の結核事業も一層推進してまいります」と述べています。

現在、多剤耐性結核患者さんを対象とした「デラマニド」のグローバル臨床第III相試験が進行中です。本試験にはHIV感染症例の多剤耐性患者さんも参加しており、OBRへの上乗せによる「デラマニド」の6カ月間の治療効果を検証しています。現在、エストニア、ラトビア、リトアニア、モルドバ、ペル-、フィリピン、南アフリカの国々で症例登録を完了しています。また、本試験とは別に、小児の多剤耐性結核患者さんを対象とした臨床試験も症例登録が開始されており、小児・乳児に使用可能な「デラマニド」の崩壊錠の生物学的同等性試験も開始予定です。

大塚製薬は結核の研究に30年以上取り組んでおり、結核治療薬の研究開発のみならず、結核の蔓延する国々での治験実施にあたり各国の治験実施施設と協力して治療のための様々な環境整備を行っています。新薬の提供だけでは多剤耐性結核や超多剤耐性結核の広がりの原因となっている抗結核薬の不適切な使用という問題の解決にはなりません。そのため、最適な治療アクセス計画(RAP※6)の提案もあわせて当局へ提出することで、抗結核薬への耐性を抑えつつ、真に多剤耐性結核の治療を必要とする患者さんへの提供を第一に考えた承認に向けての活動を行ってきました。

日本では、2013年3月に製造販売承認の申請を行いました。大塚製薬は、多剤耐性結核の問題を抱える国々の患者さんにより早く適切な治療薬を届けるために、結核への包括的な取り組みを今後も推進していきます。

  • ※1 CHMP = Committee for Medicinal Products for Human Use
  • ※2 WHOによるGlobal TB Report 2013より
  • ※3 OBR = optimized background regimen
  • ※4 EMA = European Medicines Agency
  • ※5 EC = European Commission
  • ※6 RAP = Responsible Access Plan

参考資料

臨床第II相試験について

「デラマニド」のEMAへの承認申請は、世界9カ国・17施設において実施された多剤耐性結核患者481名を対象として臨床第II相試験(204試験)と、2つの長期試験(208試験および116試験)の解析結果を基に行われました。204試験では、喀痰を培養し結核菌を検出することによる評価(SCC※7)を行っています。SCCは、その患者さんの喀痰から結核菌が消失し、結核の感染性がなくなったことを示す指標です。治療開始から2カ月時点でのSCCは、結核患者さんの予後や死亡率に密接に関係することから、その結果は重要視されます。204試験では、WHOの多剤耐性結核治療ガイドラインによる標準治療でのみ治療された患者群では2カ月間治療を行った時点のSCCが29.6%であったのに対して、標準治療に加えデラマニド100mgを1日2回併用した患者群でのSCCは45.4%であったことから、標準治療にデラマニドを上乗せすることによって統計学上有意に53%の向上※8が認められました。204試験に参加した481名のうち464名(96.5%)について2年間の追跡調査を行いました。追跡調査期間中、プラセボまたはデラマニドを2カ月間だけ投与されていた268名のうち28名(10.8%)の死亡が確認されました。しかし、204試験の後208試験に参加することによってデラマニドを少なくとも6カ月間投与されていた213名における死亡は6名(2.9%)のみであり、デラマニドを服用することで73%の統計学的に有意な死亡率の抑制がみられ※9、この薬剤の臨床的有用性が認められました。また、標準治療にデラマニドを上乗せする治療を6カ月間続けることで、多剤耐性結核のみならず超多剤耐性結核においても死亡率の低下と予後の改善がみられました。解析結果からは、デラマニドの併用治療を受けた超多剤耐性結核の患者群でも約7倍の死亡率低下がみられました。臨床後期第II相試験(204試験および208試験)では、多剤耐性結核患者さんのデラマニド100mg 1日2回または200mg 1日2回のどちらの投与群でも忍容性は優れていました。204試験では、デラマニド投与群の有害事象発生頻度(100mg群では91.3%、200mg群では94.4%)はプラセボ群(94.4%)と同様であり、ほとんどの有害事象は軽度から中等度でした。デラマニド投与群では心電図QTの延長が若干多くみられましたが、立ちくらみや不整脈は認められませんでした。

  • ※7 SCC = sputum culture conversion
  • ※8 Gler MT, Skripconoka V, Sanchez-Garavito E, Xiao H, Cabrera-Rivero JL, Vargas-Vasquez DE, et al. Delamanid for multidrug-resistant pulmonary tuberculosis, N Engl J Med. 2012 Jun 7; 366(23):2151-60
  • ※9 大塚製薬、未発表データ (10.8-2.9/10.8=0.731)

デラマニドについて

大塚製薬が創製した「デラマニド」は、ニトロ-ジヒドロ-イミダゾオキサゾールに分類され、結核菌の細胞壁を構成するミコール酸の生成を阻害することで効果を示す、新しい作用メカニズムを有する化合物です。

結核および多剤耐性結核について

結核は、感染力の高い、空気感染する感染症です。全世界の人口の約1/3が結核菌に感染していると推計されています。WHOの最新のレポートによると、2012年には世界で約860万人が結核を発症し、約130万人が結核を原因として亡くなっています。結核対策に対しては、多大な努力が行われていますが、依然として結核は公衆衛生上の大きな課題であり、過去20年の間には、これまでの第一選択薬が効果を示さない多剤耐性結核という新しい問題も生じています。薬剤の不足、品質、さらには服薬を途中で中断してしまうといった、結核の治療上の問題が、これらの耐性菌の出現に大きな影響を及ぼしています。多剤耐性結核は、毎年、約45万人の患者さんが発症し、17万人がこの疾患のために亡くなっていると推計されています*2。多剤耐性結核の86%は、世界の27カ国で起こっています。