コラム vol.5column

ジェルブレと楽しむ
フランス映画
『パリの恋人』

Bonjour!フランスが恋しくてたまらないみなさんに、
フランス在住の日本人ふたり組、トリコロル・パリが今回おすすめするのは、
オードリー・ヘプバーン主演のミュージカル映画『パリの恋人』です。
お家にいながらフランス気分を楽しみましょう。

Story

ニューヨークのファッション誌「クオリティ」のカメラマン、ディックは表紙を知的にするため撮影場所を本屋に決め、とある書店で仕事を始めた時に店員のジョーと出会う。編集長マギーの新人モデル発掘の企画にディックはジョーを推薦、パリへ行けると言われた彼女はモデルになることを承知する。パリで撮影が進むうちにふたりは恋をしている自分に気づくが……。

あぁ、パリが恋しくて仕方ない、でも今すぐ行けない(涙)・・・という方に今回おすすめしたい1本は、1957年のアメリカ映画『パリの恋人』です。カラフルな衣装を身にまとい、愛らしく歌って踊るオードリー・ヘプバーンを見るだけでもパッと晴れやかな気持ちになりますが、お気に入りのジェルブレを食べながら、劇中にたっぷり登場するパリの景色を眺めれば、パリ気分もぐんと盛り上がります!半世紀以上経った今も、ミュージカル映画の名作として愛され続ける『パリの恋人』の見どころを3つのポイントに分けて紹介します。

シテ島の花市場での撮影は、何度見てもうっとりする美しさ。

この映画をひと言で表すなら、ずばり「冴えない女の子のシンデレラ物語」。オードリー演じる主人公のジョーがひょんなことから有名ファッション誌のモデルに抜擢され、撮影のために嫌々ながらパリへ行くも、瞬く間に洗練された大人の女性に大変身してゆくというストーリーは、絵に描いたような夢物語とは分かっていてもやっぱり憧れてしまいます。少しの間現実を忘れて、私もカメラマンのディックに出会ってパリに行けたら・・・なんて、そんな甘い世界にどっぷりと浸れるのが『パリの恋人』のひとつ目のおすすめポイントです。

こうしたシンデレラ物語は、『マイ・フェア・レディ』(これもオードリー主演)や『プリティ・ウーマン』など、時代ごとに形を変えながら作られ続ける普遍的なテーマでもあります。世界的に大ヒットした『プラダを着た悪魔』も、公開当時は「現代版パリの恋人」と話題になりましたが、この作品では男性の存在がほぼ皆無で、ダサいインターンのアンディが完璧かつ冷血な編集長ミランダによってビシバシ磨かれていくという、2006年ならではのアップデートがなされていましたね。ちなみに、ミランダの登場シーンや編集長室の机の配置など、『パリの恋人』へのオマージュと思われるところがいくつかありますので、両作を続けて見比べてみると新たな発見があって面白いかもしれません。

「ボンジュール パリ」を歌うシーンでのジョーやマギーのコートの着こなしは、気軽に真似できそう。

ふたつ目のポイントはなんと言ってもため息がでるほど美しいファッションの数々!モード雑誌を思わせるスタイリッシュで斬新な見せ方のオープニングからはじまり、場面ごとに登場する色鮮やかな衣装が本当に素晴らしく、一時停止ボタンを押してひとつずつじっくり眺めていたいほど。パリの各所で行われる撮影シーンで、ジョーが次々と着こなす最先端のファッションは小物使いも含めてどれも素敵ですが、特に、シックな黒のワンピース姿で、カラフルな風船をたくさん手に持って走るスタイリングは、今も数々の雑誌や映画などで真似される名場面です。劇中でジョーが着る多くの衣装は、オードリーたっての希望であのジバンシィがデザインしました。おしゃれに無頓着だったジョーが生き生きと変化してゆく様は、圧倒的な魅力を持つジバンシィのデザインがあったからこそ、自然に描けたのかもしれません。

この映画がさらにすごいのは、撮影やファッションショー以外のシーンでも、衣装が完璧なところ。メインキャラクターのジョー、編集長マギー、カメラマンのディックはもちろんこと、出版社のアシスタントやホテルのドアボーイ、パリの酒場に集うパリジャン、パリジェンヌ、パーティーの招待客といった、ちらっとしか映らない人物の着こなしもカラフルでおしゃれ!さすがはアカデミー衣装デザイン賞を何度も獲得したイーディス・ヘッド、映画の隅々まで彼女のセンスが行き届いているのがよく分かります。普段着のシーンでは、ベージュのスウィングコートの襟元から赤いタートルネックをのぞかせたり、全身黒のスリムな着こなしに白い靴下とローファーを合わせたりと、簡単に真似できそうなヒントがたくさん詰まっているのも魅力です。

登場するパリの名所、いくつ分かりますか?

そして、最後にして最大のおすすめポイントは、家にいながらにしてパリの空気を満喫できるということ!パリを舞台にした映画は数々ありますが、それぞれのスポットの魅力を存分に引き出して、これほどまでにワクワクさせてくれる作品はそれほど多くありません(以前紹介したウディ・アレン監督の 『ミッドナイト・イン・パリ』はおすすめ!)。中でも、フランスに到着したジョーとディック、マギーの3人が別々にパリ観光を楽しむシーンは圧巻で、陽気な「ボンジュール・パリ」の歌に合わせて、色んなモニュメントをバックにノンストップで5分間歌い踊ります。ディックは凱旋門を見ながらシャンゼリゼ大通りを歩き、編集長のマギーはオペラ・ガルニエを背にラ・ぺ通りを曲り、その先のヴァンドーム広場にあるホテル・リッツへ。一方ジョーはサクレクール寺院が奥にのぞくモンマルトルの小道を散歩。アヴァリッド、マドレーヌ寺院、セーヌ河岸、コンコルド広場、アレクサンドル三世橋などを巡って、最後3人はエッフェル塔のエレベーターの中で鉢合わせます。パリ観光の締めはやっぱりエッフェル塔ですね!アップテンポな曲調やキュートなダンスも相まって、たった5分でパリに飛び立ったような幸せな気分になれるから不思議です。

そして映画の中盤、ジョーがモデルとしてカルーゼル凱旋門シテ島の花市、北駅、オペラ・ガルニエ、セーヌ川を走る船上と、様々な場所で撮影をするシーンもゴージャスのひと言。セットではなく実際のパリのモニュメントでロケされているので迫力が違います。特に、ルーヴル美術館のサモトラケのニケを背に、大階段を深紅のドレス姿で降りてくるジョーの美しさには息をのみます。オードリー・ヘプバーンの気品とジバンシィの優雅な衣装、そして歴史あるパリの街並みという最強のマリアージュを満喫してください。

映画の中でもパリ観光の締めくくりは、このエッフェル塔の展望台。

ファッション、ダンス、音楽、そしてパリ!『パリの恋人』は、この究極の組み合わせが実現した奇跡のような作品です。フランス旅行が今すぐ叶わなくても、ジェルブレを味わいつつこの映画を見れば、恋しいパリとの距離がほんの少し縮まるかもしれません。

著者情報

トリコロル・パリ

フランス在住の荻野雅代と桜井道子からなるユニット。
サイトや書籍、SNSを通じてパリの最新情報をはじめ、毎日の天気を服装で伝える「お天気カレンダー」など、独自の目線でフランスの素顔を届けている。
NHK出版『まいにちフランス語』他の連載、著書に『フランスの小さくて温かな暮らし365日』、『パリでしたい100のこと』などがある。

作品情報

原題
FUNNY FACE
制作年
1956年
監督
スタンリー・ドーネン
出演
オードリー・ヘプバーン、
フレッド・アステア
発売元
NBCユニバーサル・エンターテイメント
価格
Blu-ray:¥2,075(税込)
DVD:¥1,572(税込)
※2021年12月現在

Ⓒ 1956 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.
TM, Ⓡ & Ⓒ 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.