コラム vol.3column

ジェルブレと楽しむ
フランス映画
『最強のふたり』

みなさん、Bonjour!
パリの最新情報をお届けしているフランス在住の2人組、トリコロル・パリです。
フランス映画が大好きな私たちが、お家にいながらフランス気分を楽しめる名作を紹介するこらちのコラム。
第3回は世界的な大ヒットを記録した『最強のふたり』をピックアップします。
観た後にあたたかい気持ちになれる、笑いと涙に包まれた作品です。

Story

不慮の事故により車椅子の生活を送る大富豪のフィリップ。世話係の面接にやってきた移民の若者ドリスに興味をひかれた彼は、周囲の心配をよそに、看護の経験どころかまともな職にすら就いたことのないドリスを採用する。国籍も立場も年齢も異なる2人だったが、ぶつかり合いながらも心を通わせてゆく。

あらすじを読んでシリアスなお話かなと身構えてしまった人はいませんか?
でも、実はこの映画、コメディーなんです。くすっとさせられたり、声が出るほど笑わされたり、時には笑いすぎて自然と涙がこぼれたり・・・映画全体に軽やかな空気が漂っていて肩ひじはらずに楽しめるフランス映画なので、観たことがある人もない人も、ぜひこの機会に(もう一度)ご覧いただきたい!もちろん、鑑賞のおともには、温かい飲み物とジェルブレのビスケットを忘れずに。

フィリップの親友がドリスについて忠告するシーンで登場するリュクサンブール公園内のカフェ。

バディ映画の傑作は数々ありますが、この『最強のふたり』も大きなジャンルで分けるならば男2人の友情を描いたバディものと言えるでしょう。性格は正反対、2人のでこぼこ具合が大きいほど面白くなるのがバディ映画のお約束ですが、この作品の主人公たちの間には、「気が合わない」だけではくくることのできない大きな隔たりがあります。体に障害を持つフィリップは貴族出身のフランス人で白人。パリ一等地にある大邸宅で秘書や助手、使用人たちと共に住んでいる大富豪。一方、彼の世話係として雇われるドリスはパリ郊外で移民として暮らすセネガル出身の黒人。豪華な調度品や高価な絵画で飾られたお城のようなフィリップの邸宅に対し、ドリスの住まいは低所得者層を対象にした狭い公団住宅。同居する兄弟の人数は分からないけれど、明らかに定員オーバーで決して快適とは言えない暮らしぶり。華やかなパリとは対照的なドリスの生活は、普段あまり見ることのないフランスのもう1つの顔です。

普通であれば、絶対に出会うはずない天と地ほどの格差のある2人でしたが、フィリップの世話係の面接にドリスが訪れることで運命が交差します。ドリスの目的は失業手当のために不採用の証明書にサインをもらうこと。働かずにお金をもらおうという態度に眉をしかめる人もいるかもしれませんが、彼のやる気が足りないという以前に、移民はなかなか雇われづらいというフランス社会が抱える問題が根底にあります。そんな辛い状況にも関わらず、ドリスはいたって能天気(ある意味、変わらない現実にあきらめているのかもしれませんが)。雇ってもらう気なんてさらさらないので、フィリップに対して失礼な返事をしたり、秘書をナンパしたりと怖いもの知らず。そんなあけすけな物言いをする若者を面白いと思ったのか、フィリップは翌日また来いと言い渡します。

フィリップが今までの人生をドリスに語る夜更けのシーンは、パリ左岸のカフェ「ドゥ・マゴ」にて撮影。
チキンや半生ガトーショコラがおいしそう。

どんな世話係も1週間もたないというほど気難し屋のフィリップでしたが、障害者だからといって同情も遠慮も一切しないドリスと共に過ごすうちに凍っていた心が溶けていきます。ドリスは宝石店強盗の前科者で危険だと忠告する友人に対して、「彼だけは私を対等に扱ってくれる」と言い放つフィリップ。脚に熱湯をかけて本当に麻痺しているのか確かめたり、下ネタや障害者をからかうような発言もおかまいなしの破茶滅茶なドリスですが、フィリップにとって、お金目当てに近づく人や、体が動かないというだけで赤ちゃんのように接してくる人とは違う、裏表のない真の友達として唯一無二の存在となっていきます。ドリスにとってのフィリップも同じく、今まで出会ったことのない教養のある文化的な人間。500万円以上もする意味不明な抽象画を買うフィリップを非難しながらも、ある日突然絵画セットを揃えて絵を描き始めたり、嫌だと言いつつ苦手な飛行機やパラグライダーに挑戦したりと、ドリスも少しずつ変化していきます。

オペラ観劇中に大笑いしたり、ひとつのピアスを買って(なんとブシュロンで購入!)片方ずつ付けたり、車椅子を改造してスピードアップしたり、ドリスが描いた謎の抽象画を友人に100万円以上で売りつけたり・・・君たちは悪ガキか!と突っ込まずにはいられない、彼らの楽しげないたずらは何度見ても笑えるし、これからもずっとそんな2人を見続けたいという気持ちにさせられます。フィリップの誕生パーティーで、クラシックの名曲を無理やり聴かされたドリスのとんちんかんなコメントも爆笑ものです。大好きなソウルミュージックに合わせて思いっきりダンスするドリスは、全身麻痺の人を前にして配慮のない人間にも映りますが、その遠慮のなさこそがフィリップが求めていたものなのでしょう。一度もフィリップの前で踊ることがなかったであろう使用人たちも、ドリスのペースに乗せられて踊り始める場面は、周囲の人すらも巻き込み、変えてしまうパワーに満ち溢れている彼の魅力が全開のシーンです。そして、ドリスが体いっぱいで表現する「生」を全身で感じているかのようなフィリップの表情も忘れられません。

ダイヤモンドのピアスを購入した1858年創業の「ブシュロン」はヴァンドーム広場26番地にある。

この物語は実話に基づいています。実際の世話係だったアブデル・ヤスミン・セルーさんは、アルジェリア出身のアラブ系移民でしたが、オマール・シーにドリス役を演じて欲しいという監督たっての願いから、映画ではセネガル出身の黒人に置き換えられました。底抜けに明るく、裏表のないはっきりとした性格、真っ白な歯を見せて大笑いするドリスはオマール・シーが演じたからこそ生まれた魅力的なキャラクターでしょう。元々、「オマール&フレッド」というお笑いコンビとして活躍していましたが、この映画の大ヒットを受け、俳優としての地位を確立しました。今はハリウッド映画にも出演するフランスを代表する人気俳優の一人となっています。ちなみに、フィリップのモデルであり原作となった本を執筆したフィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴさんはほぼそのまま。コルシカ島貴族の大富豪で、世界有数のシャンパン製造会社である「シャンパーニュ・ポメリー」の重役として世界中を忙しく駆けまわるビジネスマンでした。パワフルなオマール・シーの魅力もさることながら、一切体を動かさず顔の表情や目の動きだけですべてを表現するフランソワ・クリュゼの演技力にも改めて感服しました。この2人以外は考えられないほど完璧なバディです。

フランス語の原題は「Intouchables(アントゥシャーブル)」で直訳すると「触れられない人やもの」。この言葉は、物理的に触れることができない別世界に生きていたフィリップとドリスの関係性だけでなく、2人の社会的な立場も表していると思います。複雑な問題としてタブー視されがちな移民であるドリス。大富豪の重役というだけでも近寄りがたく、その上障害を持つことでますます腫れ物に触るような存在になってしまったフィリップ。似ても似つかない環境にいる2人ですが、社会的マイノリティーであり、関わることにためらいを感じさせる人々であるという点においては似た者同志だったのです。そんな2人が出会い、孤独を分かち合い、お互いに足りない部分を補い合って強さを増していく姿は、私たちに生きる勇気を与えてくれます。邦題の『最強のふたり』は原題とは全く違うけれど、この映画にぴったりなタイトルだと思います。

車椅子で疾走するシーンが印象的なレオポール・セダール・サンゴール橋は
ドリスの生まれ故郷であるセネガルのサンゴール大統領から名付けられた。

使い古されて陳腐にさえ感じる「友情に国籍や年齢や立場は関係ない」という言葉も、フィリップとドリスの楽しそうな笑い声を聞いていると、本当のことなのかもしれない、と思えてくるから不思議です。日常では触れることのない場所にいる人たちに目を向け、相手を知り、心を開いて対話することで、ひょっとしたらこんな素敵な関係が私たちの周りにも隠れているのかもしれません。そんな「最強のふたり」が増えていけば、みんながもっと楽に生きられる世界が待っているんじゃないか・・・と、小さな希望すら生まれてくるようです。

この映画にはパリの豪奢なお屋敷や劇場、カフェなどきらびやかな場所だけでなく、ドリスが暮らすパリ郊外、フランス中南部のオーヴェルニュの山々や北西部のノルマンディーの海辺なども登場します。なかなかフランス旅行が難しい今、地方の美しい風景に癒されるようです。そして、自由に人と会っておしゃべりしたり、笑いあったりできない厳しいご時世だからこそ、より響くメッセージがあると思います。おいしいジェルブレのビスケットを食べながら観れば、心もお腹もほっこり温まります。

著者情報

トリコロル・パリ

フランス在住の荻野雅代と桜井道子からなるユニット。
サイトや書籍、SNSを通じてパリの最新情報をはじめ、毎日の天気を服装で伝える「お天気カレンダー」など、独自の目線でフランスの素顔を届けている。
NHK出版『まいにちフランス語』他の連載、著書に『曜日別パリ案内』、『パリでしたい100のこと』などがある。

作品情報

原題
INTOUCHABLES
制作年
2011年
監督
エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
出演
フランソワ・クリュゼ、オマール・シー
発売元・販売元
ギャガ
価格
DVD¥1,143(税抜) ※2020年11月現在
DVDリリース日 2019年2月2日
※2012年9月1日発売『最強のふたり』ブルーレイ&DVDの廉価版商品です。

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