結核 - 古くて新しい病気

結核の予防

「予防に勝る治療なし」といいますが、結核の予防にはどんな方法があるのでしょうか。次の3つに分けて考えます。

BCG接種(予防接種)

BCG接種とは、結核菌の感染を受けていない人に結核菌の仲間で毒力のごくごく弱い菌をあらかじめ刺して、結核に対する抵抗力(免疫)をつけるワクチンです。日本では生後1歳になるまでに受けることになっています(実際には5~7カ月に受けるのがお勧めです)。スタンプ式の方法で接種しますが、接種後6カ月くらいしますとその部位に18個の小さな針痕が残ります。
これを行うとたとえ感染を受けても発病の危険性は接種しないときの1/5くらいになります。ちいさな赤ちゃんでは感染を受けるとかなりの確率で髄膜炎のような重症の病気を起こすことがありますが、BCG接種はその予防に特に有効です。
接種の効果は10~15年持続すると考えられています。

潜在性結核感染症治療(化学予防)

最近結核の感染を受けた人は、その後1~2年のうちに結核を発病するおそれがかなりあります。またそれ以前に感染を受けた人でもいろいろな原因から結核発病のリスクが高まることがあります(「結核の症状」参照)。とくにいろいろな病気の治療のために免疫を抑える薬を使うときなどにそのような問題があります。このような状態を「潜在性結核感染症」とよび、体内に潜んでいる結核菌が発病準備状態にあると考えられています。そのような人にはあらかじめ結核の治療薬を飲んでもらい、結核菌をやっつけることが行われます。この予防的な治療を以前は「化学予防」とか「予防内服」と呼びましたが、このような治療をすると発病のリスクは半分~5分の1くらいに下げられるといわれています。
潜在性結核感染症の診断は赤ちゃんではツベルクリン反応検査、それ以上の年齢では血液検査(インターフェロンガンマ遊離試験;クォンティフェロンあるいはTスポット)で行います。
治療にはイソニアジドを6~9カ月飲むのが普通です

  • 結核医療の基準(平成21年厚生労働省告示第16号、令和3年10月18日改正)

接触者健診

だれかが結核を発病し、とくに結核菌を出している場合(「感染性結核」)には、その周囲の人に結核をうつしている(感染している)おそれがあります。また発病した人が子どもや若者の場合には最近だれかから感染したにちがいありません。このように、結核患者さんの発生に際して、感染を受けた人や感染源になった人を見つけることが必要になります。このための調査や検査を「接触者健診」といい、保健所が行う重要な結核対策の仕事です。これが きちんと行われないと、集団発生にまで発展したり、乳幼児の重大な病気が発生するおそれもあります。

初発患者さんの側から見た接触者健診がとくに必要な人

  1. 1大量に菌を出している(とくに塗抹陽性)患者さん
  2. 2長期間診断がつかなかった患者さん
  3. 3幼児や若者の患者さん(とくに複数)
  4. 4接客業や教師、医療職員など(多くの人に接する機会の多い職種)
  5. 5まれな病型(例.髄膜炎、中耳炎など)の患者さん

接触者の側から見た接触者健診がとくに必要な人

  1. 1乳幼児や病気(エイズや腎不全など)や治療(副腎皮質ホルモン剤や生物学的製剤治療など)のため免疫が落ちている人
  2. 2初発患者さんと濃厚に接触のあった人(家族や親友など)

健診で行われる調査や検査

  1. 1調査:患者さんが発病してから(咳をするようになってから)話をしたり、同じ部屋で仕事や勉強をしたことがあるかどうか、それはどの程度か、を調べます。このような『接触の場』としては家族生活、職場・学校、サークル、趣味やレジャー活動の場などにわたります。
  2. 2血液検査(クォンティフェロンあるいはTスポット)・ツベルクリン反応検査による免疫診断法:結核の感染の有無をみます。『感染がある』と判定された場合には潜在性結核感染症の治療(化学予防)が必要です。
  3. 3胸部X線検査:感染して既に発病しているかどうか、をみます。とくに初期の結核では症状のない人が大半なので、この段階で発見し、治療することが大事です。この検査は感染のおそれの大きい場合には初発患者さんとの接触があってから2年間くらいは繰り返し行う必要があります。
結核に対する日本の取り組みはどうなっているの?

結核は公衆衛生の重要な課題です

日本では、「感染症法」という法律で様々な結核対策の仕組みが規定されています。
日本の結核対策に関する施策には以下のようなものがあります。

  • BCG接種
    法令によりすべての乳児に接種を受けるよう努力することが義務付けられており、最近では全国で97%以上の子どもたちが接種を受けています。
  • 潜在性結核感染症治療
    かつては若い人に限って行われていましたが、今はすべての年齢の人を対象に行われます。治療の費用は通常の結核と同様、公費負担で行われます。
  • 患者発見
    健康診断で発見される場合、症状のために受診することによって発見される場合があります。発病した患者さんの周囲にいる人に対して健康診断を行い、感染・発病した人を発見するのが「接触者健診」(定期外健診)です。最近の肺結核患者の発見方法の内訳は以下のとおりです(図11)。
図11 結核患者の発見方法
(2021年新登録肺結核患者8,413人)
  • 患者支援

    患者さんが確実に治療を受けて治療できるよう主治医と保健所がいっしょに患者さんを支援します。

    • 公的補助

      結核の学会が推奨する最も強力な方式を含む治療の医療費の支払いに対して健康保険のほか公費による補助がどの患者さんにも行われます。これは患者さんの経済的状況によって治療が継続できなくなるような事態を避け、同時に治療の質に行政が責任を持つためです。

    • 日本版DOTS(ドッツ)

      患者さんが主治医から指示された治療を規則的に継続するために、入院・外来治療の全期間にわたって、主治医と保健所が連携して患者さんの受療を支援します。

    • 隔離

      周りの人々に感染をおよぼすおそれのある患者さんには感染防止のため入院隔離が勧告されます。

  • サーベイランス(流行監視)

    結核患者発生の動向や対策・個々の患者さんに対する医療の状況に関する情報を、保健所が常時収集、保健所、都道府県・政令市、国が分析して対策計画に役立てます。

  • 結核予防会とストップ結核パートナーシップ日本

    結核予防会をはじめ民間の関連機関や個人が協同して「ストップ結核パートナーシップ日本」が2007年11月に設立されました。世界と日本の結核に対して国や自治体、民間団体や国民一人ひとりが、しっかりと関わりを維持・強化しようという運動体です。