旭川市生まれ。旭川医科大学卒業後、北海道大学医学部循環病態内科学講座にて医師としての研鑽を積む。
総合内科専門医、循環器専門医として心臓病患者の診療に従事しつつ、各種疾患の骨格筋における酸素利用障害に着目した運動生理学的研究および運動療法の研究に携わる。
また、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会認定健康スポーツ医としてジュニア・トップアスリートの育成に関わり、現職に至っている。代表的著書「心不全と骨格筋機能障害」(文光堂)。
ONもOFFも、健やかな毎日に欠かせない酸素を利用する力とは?
日々をいきいきと過ごすためには、「いかに効率よくエネルギーを生み出せるか」が重要です。
そのカギを握るのが「酸素を利用する力」。
酸素を効率よく使うためには、どうしたらよいのでしょうか。
循環器専門医でもあり、酸素とエネルギー産生の関係に詳しい北翔大学大学院の沖田孝一先生にお話を伺いました。
全身のエネルギー、
ATPをつくるしくみ
生命活動とミトコンドリアの
酸素利用の深い関係
沖田先生:
エネルギー(ATP)は、呼吸をするときも、歩くときも、ソファで休んでいるときでさえも、欠くことのできない「生命活動の源」。その生命活動の源であるエネルギーをつくり出すために必要なのが水、栄養、そして酸素です。
呼吸で取り入れた酸素は、血液に乗って全身に運ばれ、細胞のミトコンドリアが利用し、エネルギー(ATP)をつくり出します。
私たちの体は、酸素を利用しなくてもエネルギー(ATP)をつくることができますが、その量はごくわずか。
一方、ミトコンドリアが酸素を利用してつくり出すエネルギー(ATP)は、その約17倍にもなります。
この多量のエネルギーがあるからこそ、私たちは生命活動を維持することができ、そのために細胞のミトコンドリアは24時間365日、
休むことなく酸素を利用してエネルギーをつくり出しているのです。
細胞のミトコンドリアの
酸素利用能力が
低下すると?
体と心に起こるさまざまなサイン
ミトコンドリアの
酸素利用能力が低下する主な原因
- 加齢
- 運動不足
- 生活習慣病(特に糖尿病・肥満)
- 喫煙
- 過度な飲酒
- 睡眠不足
- 栄養バランスの乱れ
沖田先生:健康な状態では、酸素を「取り込み、全身へ届ける力(酸素供給力)」と、「届いた酸素を細胞のミトコンドリアが使ってエネルギー(ATP)をつくる能力(ミトコンドリアの酸素利用能力)」は、おおよそバランスが取れています。
しかし、加齢や運動不足などの影響でミトコンドリアの酸素利用能力が低下すると、
つくられるエネルギー(ATP)の量が減り、心身にさまざまな影響が出やすくなります。
体への影響
強度の高い運動をすると、酸素を使わず瞬発的にエネルギー(ATP)をつくりだすための経路も働くことがありますが、その経路の回復には酸素が必要です。ミトコンドリアの量や質が低下していると、その回復に時間がかかることがあります。
睡眠中もエネルギー(ATP)はつくられています。ミトコンドリアの酸素利用能力が落ちると、より多くの酸素が必要になるため睡眠中も呼吸や心拍数が上がりやすく、結果として「疲れが残る睡眠」につながる可能性があります。
心(脳)への影響
脳は多くのエネルギー(ATP)を消費する臓器です。
エネルギー(ATP)の供給が追いつきにくい状態では、集中力や判断力など、パフォーマンスに影響が出る可能性があります。
- ・記憶力の低下
- ・意欲・活力の低下
- ・注意力の低下
- ・判断力の低下
- ・頭が回らない感覚
今日からできる!
酸素を味方にする
生活習慣
沖田先生:エネルギー(ATP)をつくる力が高まると、睡眠の質が整い、行動意欲や活動量も自然と増えやすくなります。
そのためにも、取り込んだ酸素をミトコンドリアでいかに有効活用し、エネルギー(ATP)産生を維持・向上させるかが重要です。酸素利用能力を保つためには、日常の小さな習慣の積み重ねが欠かせません。
習慣1. バランスの良い食事
五大栄養素(糖質・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラル)を意識した食事が基本。
- ・炭水化物
- :体と脳のエネルギー源
- ・脂質
- :エネルギー源、細胞膜やホルモンの材料
- ・タンパク質
- :筋肉・臓器の構成成分、エネルギー代謝酵素の材料
- ・ビタミンB群
- :エネルギー代謝を助ける
- ・鉄・マグネシウムなど
- :酸素運搬やエネルギー(ATP)産生をサポート
偏りなく、いろいろな食品から摂ることが、ミトコンドリアを支える土台になります。
サポートする栄養成分
沖田先生:ミトコンドリア」は、体を動かすための“エネルギー発電所”。
その働きを支える栄養成分には、次のようなものがあります。
- ・鉄
- :酸素を運ぶヘモグロビンの材料、電子伝達系*の機能を支える
*ミトコンドリア内にあるATPを作るための発電システム
- ・ビタミンC/E
- :抗酸化作用
- ・食事性硝酸塩
- :酸素利用効率をサポートするとされる
- ・コエンザイムQ10
- :電子伝達系でエネルギー(ATP)合成を助ける
- ・L-カルニチン
- :脂肪酸をミトコンドリアへ運ぶ
※過剰摂取は避け、バランスよく摂ることが大切です。
習慣2. 適度な運動
持久力をつける有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、サイクリングなど)は、
ミトコンドリアの量や機能に良い影響が期待できます。
また、インターバルトレーニングのように有酸素運動と筋トレを組み合わせる方法もおすすめです。
バランスよく取り入れることで、ミトコンドリアの酸素利用能力の向上が期待できます。
習慣3. 質の良い睡眠
睡眠は心身をリセットする大切な時間。細胞の修復が進み、代謝のバランスも整いやすくなります。
日中に強い眠気がある場合は、その人にとって必要な睡眠が足りていないサイン。
質のよい睡眠のため、朝は一定の時間に起床して日光を浴びる、就寝前のスマホ・PCを控える、
寝室の明るさ・静けさ・温度を整えるなど、日々の生活習慣を見直しと工夫が重要です。
ケンフェロールとは?
ミトコンドリアの酸素利用効率に
着目した植物由来成分
沖田先生:ここまでご紹介した栄養成分に加え、近年注目されているのが「ケンフェロール」です。ケンフェロールはポリフェノールの一種で、ブロッコリー、ケール、キャベツなどのアブラナ科野菜、豆類、茶葉などに含まれます。中でも、特に多くのケンフェロールが含まれているのが西洋わさびの葉の部分です。
ケンフェロールが多い食品
| 食品 | 西洋わさび | サフラン | 紅茶 | ケール | プロポリス | ルッコラ | 柿の葉茶 | 緑茶 | キヌア | ブロッコリー |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ケンフェロール含量 (mg/100g) ※食品100g(乾燥重量)あたり |
3550.2 | 454.0 | 256.7 | 173.9 | 141.0 | 122.6 | 114.6 | 109.1 | 65.6 | 64.7 |
- 出典:Mizokami, T. et al., J Funct Foods. 2021; 85: 104510.
ケンフェロールは
体の“酸素利用効率”を高める
ケンフェロールは、細胞内にあるミトコンドリアの酸素利用効率を高め、エネルギー(ATP)産生をサポートする植物由来成分として注目されています。また、抗酸化・抗炎症作用をはじめ、抗不安、鎮痛、抗アレルギー作用なども報告されています。
ケンフェロールが注目されるきっかけになったのは、標高の高い場所で暮らす民族の食事でした。足が速く、長く走るメキシコ高原で暮らすタラウマラ族や、トップクラスのマラソンランナーを多く輩出するケニア高原に住むカレンジン族。この2つの民族の主食である雑穀と豆類から314種類もの関与成分を集めて調査し、たどり着いたのが、「ケンフェロール」です。
ケンフェロールは、細胞での酸素を利用したエネルギー(ATP)産生を助けることで、日常の様々な生活シーンや身体活動、アスリートの高強度運動などをサポートすることが報告されています。
しかし、植物に含まれるケンフェロールは「配糖体」という形で存在しています。配糖体は一般に、そのままでは吸収されにくいことがあり、体内での利用には個人差があります。
ケンフェロール本来の力を引き出すには、吸収されやすい「アグリコン型」という形に変換することが重要です。
酸素を
効率的に利用して、
健やかな日々を
沖田先生:私たちの体は、細胞内のミトコンドリアが酸素を使ってエネルギー(ATP)をつくることで動いています。酸素を十分に使う機会が少ない生活が続くと、この働きは落ちやすく、体力の低下や疲れやすさにつながることがあります。
一方で、日常の中で少しでも体を動かし、酸素をしっかり使う習慣を整えることで、ミトコンドリアは働きやすい状態へ近づき、健康維持の土台づくりにつながります。
人生100年時代。健康寿命をのばし、いきいきと過ごすために大切なのは、「できることを、無理なく続ける」ことです。
「最近、疲れやすい」「なんとなくやる気が出ない」
そんなときこそ、“酸素を上手く使えているか”という視点で、生活を見直してみましょう。
酸素とミトコンドリアを意識すると、毎日の過ごし方は少しずつ変わるのではないでしょうか。
その変化が、これからのあなたを支える“エネルギー”になっていくはずです。