1958年福岡県生まれ。疼痛生理学・環境生理学を学んだのち、名古屋大学教授を経て、2005年より愛知医科大学病院で日本初の「気象病外来・天気痛外来」を開設。東京竹橋クリニックでも気象病・天気痛外来医として診療を手掛ける。
天気痛研究・診療の第一人者として様々な著書を持ち、メディア出演も多数。2020年には株式会社ウェザーニュースと共同開発した「天気痛予報」をリリースし、注目を集めている。
日本慢性疼痛学会
認定専門医、日本医師会 認定産業医、日本疼痛学会 名誉会員、日本運動器疼痛学会 理事、日本生気象学会 理事など関連学会の要職を兼任。
天気の変化で起こる不調に~酸素を上手に使う新しい視点~
天気の変化によるコンディションのゆらぎを感じる人は少なくありません。
そこで注目したいのが、全身の隅々でエネルギーを生み出すために欠かせない「酸素を上手に使う力」です。
天気の変化でコンディションが乱れやすい理由と、日常生活に取り入れやすいセルフケアについて、
愛知医科大学客員教授の佐藤純先生にお話を伺いました。
天気の変化による不調は
なぜ起こる?
佐藤先生: 天気には、気温・湿度・気圧といった要素があります。このうち気温や湿度の変化は感じやすい一方で、気圧の変化は日常では気づきにくいもの。近年の研究では、その変化を感じ取るセンサーのひとつとして、耳の奥にある「内耳」が注目されています。
内耳が気圧の変化を察知すると、その情報が脳へ伝わり、自律神経のバランスに影響を及ぼすと考えられています。自律神経は、体温や血流、呼吸などを無意識にコントロールする重要な仕組み。そのバランスがゆらぐと、いつも通りの調子を保ちにくくなることがあるのです。
天気の変化による不調の例
- 頭痛
- だるさ
- 首肩こり、腰痛、関節痛
- 不安感・無気力感
- 疲労感
- 気分の落ち込み・イライラ感
- 調子の悪さ
気圧は台風のような大きな変動だけでなく、日々の小さな生活のなかでも変化しています。
加えて、低気圧が発生するときには、ごくわずかな気圧の「振動」が起こります。
微細な振動ですが、内耳が敏感な方は反応しやすい場合があるのです。
雨の前や季節の変わり目に、「なんとなく頭が重い」「だるい」「すっきりしない」といった不調を覚える人がいるのは、こうしたメカニズムが関係していると考えられます。
気圧と酸素の関係
佐藤先生:
私たちの体は、呼吸で取り込んだ“酸素”を、細胞のミトコンドリアが利用することで、毎日の活動に必要なエネルギーを生み出しています。しかし、気圧の変化がストレスとなって自律神経のバランスが乱れると、血管が収縮し血流が滞りやすくなることがあります。
その結果、体のすみずみまで“酸素”が届きにくくなり、さまざまな不調が起こりやすくなるのです。
酸素不足になりやすい
酸素は肺から血液に取り込まれ、大部分はヘモグロビンと結合し、一部は血漿に溶け込んだ状態で存在します。こうして酸素は血液にのって末梢組織に運ばれますが、ヘモグロビンはその大きさから、細い血管の末端にまでは到達しにくくなります。そのため、末梢組織は酸素が不足しやすく、わずかな気圧変化や低酸素状態の影響を受けやすくなります。
天候の変化によるコンディションのゆらぎは、単なる気分の問題ではなく、内耳や自律神経、血流、そして細胞のミトコンドリアによるエネルギー産生が複雑に関わることで起こる可能性があります。
毎日をすこやかに過ごすためには、天気の変化そのものを避けるのではなく、環境の変化にゆらぎにくい体の土台を整えること。毎日の生活習慣を見直し、血流や酸素のめぐりを意識することが、安定したコンディションを支える鍵になります。
天気の変化に負けにくい体をつくる生活習慣
佐藤先生:天気の変化に負けにくい体づくりの基本は、自律神経のバランスを整えることです。
特別なことよりも、まずは日々の生活習慣を見直し、整えていくことから始めましょう。
習慣1. 起床・就寝時間を
なるべく一定にする
起床・就寝時間をなるべく一定にし、生活リズムを整えましょう。
まずは十分な睡眠を確保し、毎日をなるべく同じリズムで過ごすことを意識してみてください。
習慣2. ウォーキングなどの軽い運動を取り入れる
ウォーキングや軽いランニングなど、無理のない運動を取り入れて足腰の筋力を
保つことも自律神経を整える助けになります。適度に体を動かすことは血流を促し、
心身のバランスを整えるうえでも役立ちます。
習慣3. 栄養バランスのよい
食事を意識する
食事では、健康維持に不可欠なタンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルの5つの5大栄養素をバランスよく摂取することが重要です。そのために、主食・主菜・副菜を揃え、偏りの少ない食事を心がけることが、日々のコンディションを支えるポイントです。
自律神経のバランスを整えるには、
3食決まった時間に取ることが基本ですが、特に朝食は重要です。
朝食を食べない人は栄養バランスが偏るだけでなく、
1日の食生活のリズムが不規則になり、太りやすさ、
そして生活習慣病にもつながると言われています。
そして朝は睡眠時の副交感神経から、活動するために
交感神経が優位に切り替わるタイミング。
朝食でエネルギー摂取をすることで、就寝中に下がった体温が上昇し、
体をスムーズに活動させる状態へ切り替えることができます。
酸素を上手に使うために
意識したい食品成分
佐藤先生:私たちの体の隅々にある末梢の組織は、自律神経のバランスの影響を受けやすいと考えられます。
だからこそ、血流や酸素のめぐり、そして酸素を利用してエネルギーを生み出すミトコンドリアの機能に目を向け、
日々のコンディション管理や食品成分を意識することが重要です。
筋肉を動かす原動力になるエネルギー(ATP)は糖質、脂質、タンパク質から作られるが、 そのエネルギー産生に欠かせない補酵素として作用する。
食事から摂った栄養素を細胞内でエネルギーに変換する酵素の構成成分。
皮膚や粘膜の健康維持を助け、タンパク質・核酸の代謝に関与している。
骨の成長や強化、維持に重要なミネラル。
多くの体内酵素の正常な働きとエネルギー産生を助けるとともに、血液循環を正常に保つ。
赤血球の材料になり、全身に酸素を運ぶ役割を担うミネラルで、不足すると貧血になる。
植物に含まれるポリフェノールの一種。
細胞のミトコンドリアに働きかけ、
酸素の利用効率を向上させ、エネルギー産生を助ける。
植物由来の成分
「ケンフェロール」
佐藤先生:近年は、ミトコンドリアとの関わりに着目した研究も進んでいます。
そこで注目されているのが、植物由来のポリフェノール成分「ケンフェロール」です。
「ケンフェロール」とは
抗酸化や抗炎症作用をはじめ、
抗不安、鎮痛、抗アレルギー作用も報告されている
苦味や辛味の食品成分です。
ブロッコリー、ケール、キャベツなどのアブラナ科の植物、
豆類や茶葉などに多く含まれることが知られていますが、
特に多くのケンフェロールを含む食品が西洋わさびの葉です。
研究では、ケンフェロールがミトコンドリアに影響を与えることが示されておりますし、実際に天気の変化によって頭痛を伴う方々を対象にケンフェロールを摂取してもらった試験で、体調変化の頻度、持続時間、つらさが軽減したという報告もあります。
ケンフェロールが細胞のミトコンドリアに作用することで、取り込んだ酸素を効率よく使えるようになれば、自律神経のバランスを整える一助になるかもしれません。
- 中等度の頭痛を伴う天気痛保持者387名(女性344名、男性43名)を対象に、オープンラベル前後比較試験を実施。ケンフェロール(10mg)を1日1回、4週間、朝食後に毎日摂取させ、摂取前4週間と摂取期間4週間の天気痛の症状について、それぞれ摂取初日と摂取最終日にアンケートで記録させた。アンケート項目は天気痛の諸症状(頭痛、肩首コリ、疲労感、だるさ、全体的な調子の悪さ、気分の落ち込み、頭が働かない感、イライラ感、無気力感、不安感、腰痛、関節痛)の頻度、持続時間、程度、改善度(最終日のみ)。
- 出典:Ikeda Y. et al., International Journal of Biometeorology. 2025;69(10):2697–2709
環境は健康に深いかかわりがあり、見過ごすことはできません。天気の変化によるゆらぎは、なくそうとするのではなく、毎日の暮らしの中で上手につき合っていくことが大切です。生活リズムを整えること、体を冷やしすぎないこと、軽く体を動かすこと、そして酸素を上手に使う力に目を向けること。そうした小さな心がけの積み重ねが、健やかな毎日へとつながっていくことでしょう。
- ※本ページは特定の疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。