

トルコ



歴史と文化が息づくトルコ。
アジアとヨーロッパの架け橋へ。
WORLD GO My WAY. 第8弾。今回の旅の舞台は、アジアとヨーロッパにまたがる国、トルコ。2025年現在、22もの史跡などが世界遺産に登録され、歴史的・文化的価値の高いスポットが数多く点在し、世界中から多くの観光客が訪れる国です。世界遺産の他にも、伝統工芸品であるトルコ絨毯なども名を馳せ、その品質は世界トップクラスと言われ、長い歴史を持つとされています。現在そのトルコ絨毯の生産は、効率性などの観点から機械織りが大多数を占めています。そんな中、トルコ絨毯の生産地で有名なブイヤン村には、近年ほとんどいなくなっている手織り専門の絨毯職人さんがいるという話を聞きつけ、その工房へ足を運ぶことにしました。


変化をつづける時代の中で、
トルコ絨毯とともに生きる。
世界遺産カッパドキアの玄関口とされる都市カイセリから、農園の中を車で走ること1時間弱、ブイヤン村は見えてきました。村の入り口には織物をする人物のオブジェがあり、この村と織物の関係性がひと目でわかりました。工房へ入ると数人は機械で絨毯を織り、2人の女性だけが床に直接座り、トントントンと心地いい音を立てながら木製の手織り機を使い作業をしていました。その内のひとり、この道45年の手織り職人の女性は、10歳の頃から母親に教えられ織物を始めたそうです。この村の女性は代々、手織りでトルコ絨毯を作ることを生業にしてきたらしいのですが、時代の変化と共に機械で織る人が増え、この村でも今はもう4人しか手織り職人は残っていないと話をしてくれました。


「トントントン」という、
音に秘められた思い出。
「昔はどの家からもトントントンという織物をする音が聞こえてきたけれど、今はその音は聞こえなくなった。」そう話す女性の表情は少し寂しそうにも見えました。先進機器の進化により、手作り製品は世の中から少しずつ減少しています。その流れはどの世界でも起こっている現実です。そんな中で、なぜ手織りを続けるのですかと尋ねたところ、その女性は織物を作る手を止めずに「好きだから」とつぶやきました。「このトントントンという音を聞いていると、まだ自分が子供だった頃のお母さんとの記憶やかつての村の情景が蘇ってくる。」と懐かしそうに語ってくれました。昔を懐かしむ表情はずっと大切にしつづけている宝物を見つめているような素敵なものでした。


「好きだから」という思い。
つづけていくための覚悟。
幼い頃から朝6時から日が暮れるまで、織り機の前にじっと座って作業をする。大きな絨毯を織る時は数人との共同作業になるので小さいころは遅れを取らないようにトイレにも行けず、必死に織っていたそうです。年齢と共に足腰が痛むようになったり、指には大きなタコもできてしまう。それでも、そう言って指のタコを見せてくれたその顔はどこか誇らしそうでした。この素敵な女性に限ったことではなく、「好きだから」一つのことを続けてきた人は、覚悟の持ち方がかっこいいなといつも思わせてくれます。決して簡単ではないことを、人のため、自分のために。愛しているからこそ、続ける。その姿勢は、表現者として僕の背筋を伸ばしてくれるものでした。


変化を受け入れてでも、
守っていきたいものがある。
全盛期には年間約一億枚も生産されていた、手織りのトルコ絨毯。その数は年々減少し、今のままでは作り手は消え、その技術は途絶えてしまうと言われています。手織りと機械織りの絨毯を拝見し、機械織りには機械ならではの精密さや美しさがある。しかし僕は、手織りによる、ぬくもりや温かみにとても魅力を感じました。手織り歴45年のベテラン女性は、手織りの絨毯を、良い物をこの先も残していきたい。そんな思いで今は伝統的な模様以外の織物も作っているのよと話し、この地方でよく編まれる花の模様でもなく、見慣れない文字が書かれた織物なども見せてくれました。この先の可能性を少しでも信じて、できることやる。その姿にとても心を打たれました。この体験は、写真家としての僕の人生の中で、大きな糧となっていくと思います。