コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第5回 
沈黙をあげられる女

男性が悩んでいるとき、女性はどう接したらいいのでしょうか。二人の関係をよりよくする方法があります。

悩んでいるのはなぜ?

ときどき、とても女らしい女性から、思いつめたような相談を受けることがある。「彼が何か仕事で悩んでいるらしくて、話を聞いてあげたいんです。なのに、何も話してくれない。私は愛されていないのでしょうか」と。ときには、「同僚の女性の方が、彼の悩みを聞いているらしくて、彼女が私にそれを匂わせてくる。彼にとって、私って何なんでしょう?」とも。私は、こう答える。「間違いなく、あなたを一番愛してる。彼を本気で癒してあげたいの? だったら、黙っていなさいね」

共感したい女性

女性脳は、ストレスを感じたとき、共感を求める。共感されれば、脳のストレス信号が減衰するからだ。なぜならば、女性脳は、何万年も「おしゃべりと共感」で、生存可能性を上げてきたから。
人類は、動物界最長の育児時間を有する。幼体が自立するまで少なくとも十数年はかかり、子育ての知恵も多岐にわたる。授乳期間も長く、ときには2~3年にも及ぶ。こうなると、単独の子育ては危ない。女性たちのコミュニケーションの中で、察し合い、おっぱいを融通し合い、日々の出来事をさんざめくように語り合って互いの知恵を増やしていかなければ、子育てを完遂できないのである。
つまり、共感力が高い女性ほど、生存可能性が高く、子孫も多く残せたのだ。21世紀の女性たちの大多数が、共感力高めで生まれてくるのも不思議ではない。
共感さえしてもらえば、脳が「生存可能性が上がった」と判断して、無条件にストレスが減衰する。ストレスが減衰すれば、深い気づきが起こり、おのずと扉が開かれる。それが、多くの女性の問題解決法なのである。つまり、共感されれば、問題解決したのも同じ。当然、大切な人が悩んでいるようなら、話を聞いてあげたいと、せつに思うことになる。

寡黙でいたい男性

しかし、男性たちはそう簡単には口を割らない。「何かあったの」「ああ」「だったら、私に話してよ」「う~ん」みたいな歯切れの悪い展開になって、女性たちを不信感の海に沈めてしまうのである。
なぜだと思う?
答えは簡単だ。男性脳は、何万年も「沈黙」で生存可能性を上げてきたからだ。
森や荒野を歩き、狩りをして成果をあげて、無事に帰ってこられる男性だけが、子孫を増やしてこられたのである。21世紀の男性たちの大多数が、〝狩人〟仕様の脳を持っていても不思議ではない。
狩人は寡黙だ。水や風の音のかすかな変化で、先の地形の変化を知る。獣に気配を感じさせず、逆に獣の気配を感じ取らなくてはならない。そんな狩人の隣にベラベラベラベラしゃべる人がいたら、どうなる? 
著しく生存可能性が下がる行為「おしゃべり」は、男性脳の敵。おしゃべりこそが、彼らの脳のストレスを増幅させてしまうのである。パーティーの帰り道、恋人が寡黙なのは、何か不満があるからではない。沈黙を許してくれる女性を心から信頼して、身をゆだねているのだ。パーティーの帰り道、ことさら饒舌になる女性とは、真逆の愛情表現である。
第5回 沈黙をあげられる女/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

黙ってそばにいる

若かったころ、大好きだったボーイフレンドに「私のどこが好き?」と尋ねたら、「一緒にいて、黙っていられるところ」と答えた。なんだそりゃ?と、心底がっかりしたのを覚えている。でも、今ならわかる。理系のクールな彼にとってあれば、精いっぱいの誉め言葉だったに違いない。
安寧な沈黙(刺々しいそれではなく)をあげられる女性。男性を長く惹きつけておける女性の必須条件といっても過言ではないかもしれない。
私が男性に沈黙をあげられたのは、なにも、男心を理解しているいい女だったからじゃない。実は、私が、それほど女性らしい脳の持ち主ではないからだ。物理学を好んで学び、人工知能の研究室に身を置いたバリバリの理系脳なので、常に空間認知の回路が優先される。空間認知の回路も「おしゃべり」とは相性が悪い。このため、私にも沈黙が必要なのである。バーのスツールに座って飲み物を注文すれば、気づくと15分くらい時計の針が進んでいる。このため、サービス精神旺盛で饒舌な男性とはうまく行ったためしがない。沈黙の時間がないと、情が湧かないからだ。だから、男性たちのその気持ちがわかるのである。
男性たちに、ほどよい沈黙をあげること。恋人であれ、夫であれ、幼い息子であれ、一緒に、ぽ~っとしていてあげること。気働きの利く大人の女性脳は、常に先へ先へやることが浮かび、言葉がぐるぐる回っているので、とても難しいことだけど、お試しください。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
女性脳と男性脳の違いを黒川伊保子さんが解説します。
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社+α新書)はベストセラーに。新刊『息子のトリセツ』(扶桑社新書)、『家族のトリセツ』(NHK出版新書)、『娘のトリセツ』(小学館新書)も話題。
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