コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第10回 
いい女は、取り付く島を作らない

母親の「よけいなお世話」に、反論せずともスカッとする切り返しを紹介します。

母のトリセツ

ここへきて、コロナ感染は、やっと一応の鎮静を見せている。今度の年末は、2年ぶりに実家に帰れそうなのでは? けど、手放しで喜べないなぁ、という女性の皆さま。帰省前の、緊急「母のトリセツ」をお贈りしよう。
まず、母の何が厄介って、言わんでいいことを言うところである。「そろそろ本気で結婚を考えないと。子どもを産むのにはタイムリミットがあるでしょうに」とか、「そんな高そうなバッグ買って、貯金しとるの?」とか。言わんでいいことは、たいてい、言われて痛いことである。カチンと来て、必死に反論しがちだが、いくら正論で返したところで、母親はびくともしない。こういうときは、「お母さんの言うとおりね」と受け流してしまうのである。そう言いながら、言うことを聞かない子どもに、母親は、なすすべがない。からむチャンスがないものね。

女性脳が味方に

それに、調子がいいなぁと思いながらも、母親は案外、見逃してくれる。母親という生き物は、「気持ち」さえ受け止めてもらえば、「事実」は案外、見逃してしまうのである。
実は、子育て中の女性の脳は、本能的にプロセス重視の神経回路を重点的に使っていて、結果重視の回路は二の次になっている。このため、思ったより結果にこだわらない脳なのだ。子育てなんか、一朝一夕で結果の出る営みじゃない。「結果を急ぐ」回路を使っていたら、毎日毎日おむつを替えて、夜泣きの子を抱いて当惑しながら、やっと立って歩くまでの一年をどうやってすごしたらいいのだろう。それに、子どもの体調変化を見逃さないためには、「ことのいきさつ(プロセス)」を反すうする癖がないと難しい。「そういえば、今朝から、なんとなく……」という気づきが、子どもを守っているのである。

たった2つのことば

それでも、「どうしてやらないの」「口ばっかりなんだから」と責められたら、「心配かけてごめんね」と謝ろう。「ありがとう」と「ごめんね」のサンドイッチは、無敵だ。
実際、誰かを責めたとき、責められた相手に「ありがとう」と「ごめんね」でサンドイッチされてしまうと、責める側は手も足も出ない。たとえば、部下に小言を言ったとき、「勉強になります。ありがとうございます」と返され、「どうせ、また繰り返すんだよね」と釘を刺しても、「ほんっと、心配かけてすみません」と頭を下げられたら、それ以上、何が言えるだろうか。
わが家は一人息子なのだが、一時期よく「二人目は早いほうがいいわよ」と声をかけられた。仕事のタイミングやらなにやら、私にも理由があるのだが、それを言ったところで火に油を注ぐだけ。私は、「ほんと、そうですよね」と受け流して、しつこく言ってくる親戚のおばさんには、「心配かけてすみません」と謝ってさえあげた。自分が悪いわけじゃないのに謝るなんて……と、腹が立つ? いやいや、一度、やってみて。やってみれば、そんなに腹が立たないのがわかる。だって、相手はぐうの音も出ないのだもの。機関銃みたいにしゃべりまくるおばさんが、しばらく二の句が継げない。あれは、けっこう爽快である。
第10回 いい女は、取り付く島を作らない/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

素直になるコツ

母親の言ったことに腹が立つのは、母親の支配下にいる証拠。母親に「いい娘」だと思っていてほしいから、母の承認が欲しいから、傷ついて、もやもやしてしまう。母を「上」に見ないで、「下」に見てみたらどうだろう。子どもにあげた人生を手放せないんて、ケチだわ、と。そう。言わんでいいことを言われたときは、心の中で「ケチ」と言ってみよう。「私の人生を、そろそろ手放してよ」と。下に見ると、案外、母親が不憫になって、少しでも慰めてあげたくて、「お母さんの言うとおりね」が素直に言えるのではないだろうか。

返しことばを決めておく

うちのおよめちゃんは、結婚して最初に田舎に帰ったとき、会う人会う人に「子どもはまだなの?」と聞かれまくって、辟易して帰ってきた。彼女だって望んでいるのに、なかなかできにくかったときなので、つらかっただろう。翌年帰省するとき、彼女は「お母さん、いい手を思いついた」とほほ笑んだ。「赤ちゃんは?って聞かれたら、『都会では、みんなゆっくりなの』(わざと東京弁)って、答えるけん」都会派の自分をほんのちょっとひけらかして、取り付く島もない状態にする。なかなか、オシャレな作戦では。
年末年始に会う人たちは、親戚も旧友も、なぜか言わんでいいことを言ってくる。触れられたくない話題には、テッパンの返しことばを用意しておくといいかもしれない。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社+α新書)はベストセラーに。新刊『息子のトリセツ』(扶桑社新書)、『家族のトリセツ』(NHK出版新書)、『娘のトリセツ』(小学館新書)も話題。
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