コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第15回 
「とやかく言われて、キレる」をなくす方法

家事のこなし方に口出しされて、猛烈に頭にきた経験はありませんか? その怒りにはちゃんと理由があると黒川さんは言います。

キレる理由

あるとき、生産管理(工場のライン設計)の専門家が、こんな話をしてくれた。
――妻がやかんに水を入れながら、あれこれ別の用事をするのだけど、水を全開にしておくので、溢れてしまっていた。そこで「あれこれするのなら、その時間を目論んで、水を細めに出しておけばいいのに」とアドバイスしたら、妻がキレた。珍しいほど激しいキレ方だった。
「僕が言ってること、間違っていませんよね? 理にかなっているでしょう?」と彼は言った。この話、他人事として聞けば、「この人の言うことももっともだ」と思えるのではないかしら。しかしながら、実際に自分の夫にこれを言われたら、ほとんどの主婦は、ムカつくと思う。女が感情的だから? いやいや、とんでもない。脳科学的には、ムカつくのは正解なのである。なぜなら、このアドバイスは、彼女の脳の存在意義を揺るがす「横やり」だからだ。
なのに、この喧嘩を傍から見たら、「その場の正論」を言っている夫が正しくて、キレた妻がヒステリックでアンフェアに見えてしまう。脳の原理を知っている私には、それが悔しすぎる。女性たちよ、ここは理論武装して、理には理で返そうよ。

「そういえば」がキーワード

ここで理解しておかなければならないのは、家事をするときの脳の使い方。家事は、とりとめのない多重タスク。これをガンガン回していくキーワードは「そういえば」だ。洗濯機を回しながら、洗面台の汚れに気づいてそれを拭き、ついでにハンドソープの残りが1/3になっていることに気づき、「そういえば、詰め替え在庫あったかな。あ、そういえば、トイレットペーパーもあと2巻き」なんてことに思い至る。逆に、スーパーマーケットで、ケチャップが特売価格になっているのを見て、「そういえば、ケチャップがもう少しだった気が…」と気づいて、それをかごに入れたりもする。日々の買い物を、完璧に在庫チェックをしてからこなす、なんてこと、とうてい無理である。キッチン周りの洗剤類だけだって、スポンジ用、食洗器用、シンク用、ガス台用、クエン酸、重曹、漂白剤、スポンジ類(我が家の場合)3種、ふきん類……と10種類を超える。他の洗剤類、食材、衛生備品、化粧品と数え上げたら、まじ200~300は行くだろう。
主婦じゃない人たちは、そのことも知らないんだよね。
だから、「ケチャップの買い置きあるのに、また買ったのか。在庫チェックしてから買い物に行けばいいのに」なんて「その場の正論」を平気で言うのである。その発言が、どれだけ主婦を絶望させるかも知らないで。

家事は、まるでジャグリング

家事は、まるでジャグリング=腕の数以上(3つ以上)のボトルや球を空中に投げ上げながら、落とさずに回す芸。私たち主婦は、常に自分のキャパ以上のタスクを片づけるために、気づいたタスクをガンガン重ねて、ぶん回す。たまに、球が一個落ちたから何?って感じよね。主婦以外の方は、「主婦の超ギリギリのジャグリング」のおかげで、家がなんとか片付いて、なんとかご飯も食べているってことを、ほんっと、知ってほしい。
企業の基幹業務のように、事前計画して、無駄なく動くには、家事は備品もタスクも多すぎる。溢れるようなタスクを何とかこなすには、「気づいたことから、ガンガン回す」しかない。つまり、すべては主婦たちの「そういえば」力にかかっているのである。
第15回 「とやかく言われて、キレる」をなくす方法/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

「想定内リスク」だと言い返そう

台所でも、同じように「そういえば」を使いまくる。やかんの水を入れている間に、「そうだ、あれしとこう」となって、ちょっとその場を離れる。それを片づけているうちに、もう一つ「そういえば」を思いつく。そうこうするうちに思ったより時間がかかって、水が溢れてしまうこともある…そうやって、ごくたまに溢れさせてしまうのは、想定内リスクだ。
なぜなら、行動に出る前に完璧な準備なんてしてたら時間がかかりすぎるし、脳のストレスで発想力が阻害されるので、「気づき」が起こらなくなる。そう、脳から、大事な「そういえば」が消えてしまうのだ。
ちょっとした失敗に「こうしなよ。その方が理にかなってるだろ」と夫に言われてムカついたら、冷静に「これは想定内リスク。その場の正論でかき回さないで」と言えばいい。意味を問われて、うまく説明できなかったら、この記事を見せるか、黒川伊保子著『定年夫婦のトリセツ』(SB新書)の115ページを読ませてあげて。
まぁ、たとえ夫が理解しなくても、周りから見れば、妻のほうが理にかなっているように見える。それだけでも、気持ちよくない?
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。2021年11月には『母のトリセツ』(扶桑社新書)を刊行。母の「言わんでもいいこと」「余計なお世話」を優しく止める秘術。最新刊、『仕事のトリセツ』(時事通信社)も話題。
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