コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第18回 
心残しの術

愚痴りたかっただけなのに説教された。相談していないのに慰められた……というような会話のすれ違い経験。「あの人とは合わない」となる前に、会話術、試してみてください。

この世には二つの対話方式がある

たとえば、「いろいろあって、もう、やってられない。今日は早く帰る」、そんなとき。心を癒されたい人と、身体を休めたい人がいる。心を優先する人は「共感型」、身体を優先する人は「問題解決型」というしゃべり方をする。それぞれに以下のようになる。

◆共感型同士の優しい会話

共感型A「あんなことがあって」
共感型B「あ~、それ、ムカつくよねぇ」
共感型A「こんなこともあって」
共感型B「うわ、そんなことまで……めげたでしょ」
共感型A「ひどいと思わない?」
共感型B「わかる。なにもかもうまく行かない日って、あるんだよね。今日は早く帰って、寝なよ」

◆問題解決型同士のツーカーな会話

問題解決型A「今日は帰るね。明日、早出でリカバるわ」
問題解決型B「了解。私は、これをやり終えてから帰るね」
問題解決型A「何かあったら電話して。9時までなら出られるはず」
問題解決型B「OK。9時までに進捗報告しとく」
問題解決型A「サンキュー。お先!」

どちらも、いい会話でしょう?
話し始めた人が、気持ちよく帰っていくのが見えるようだ。
共感型対話の特徴は、「ことのいきさつを語る」「気持ちを話す」である。共感してもらって、できれば結論は相手に言ってもらいたい。察してもらいたいのである。
問題解決型の特徴は、「結論を言う」「やるべきことを話す」。できるだけ早くゴールにたどり着きたい一心なのである。相手もそうだと信じている。
――あなたは、どちらのタイプ?

混ぜるな、危険!

さて、対話の目的が違うので、共感型と問題解決型は、見事にすれ違ってしまう。

◆共感型に、問題解決型で返す

共感型「あんなことがあって」
問題解決型「あなたもNOって言えばよかったのよ」
共感型「こんなこともあって」
問題解決型「言ってくれれば、手伝ってあげたのに」
共感型「ひどいと思わない?」
問題解決型「愚痴を言っても、仕事は終わらないよ。さっさとやろう」
共感型「……(帰るって言えなかった)(泣)」

◆問題解決型に、共感型で返す

問題解決型「今日は帰るね。明日、早出でリカバるわ」
共感型「わかるわぁ。こんなこと、やってられないよね」
問題解決型「……」
共感型「あんなこともあったし、こんなこともあったし。私もさぁ」
問題解決型「悪いけど、お先」
共感型「あ、うん……気をつけてね(私、あの人に、嫌われてる?)」

こうならないための方法はたった一つ。自分の話は問題解決型でして、相手の話は共感型で受け止める。ただそれだけだ。先ほどの例で言えば、こんな感じ。

◆達人同士のハイブリッドトーク

対話の達人A「今日は帰るね。明日、早出でリカバるわ」←《問題解決型》
対話の達人B「いろいろあったものね、ゆっくり休んで」
対話の達人A「あなたもね。お昼、ちゃんと食べてなかったでしょ。夕飯は、しっかり食べてね」←《共感で返してくれたから、共感型で受ける》
第18回 心残しの術/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

「心残し」の術

なお、「話を聞いてもらいたい真正共感型」につかまったときは、同じ共感でも、「わかるわ」「そうよね」と受けずに(こう受けると話が長くなる)、「あなたも」と「大丈夫?」を使う。

◆対話の達人 VS 真正共感型

対話の達人「今日は帰るね。明日、早出でリカバるわ」
真正共感型「わかるわぁ。こんなこと、やってられないよね」
対話の達人「あなたも早く帰らない?」(と言いつつ席を立つ)
真正共感型「私はまだ……」
対話の達人「大丈夫?」(と言いつつ歩き出す)
真正共感型「うん。私はまだ頑張れる。ゆっくり休んで」
対話の達人「ありがとう。また明日」(と手を振る)

万が一、「大丈夫じゃない」が返ってきたら、「あなたも早く帰らなきゃだめよ。また、明日頑張ろうよ」で〆ればいい。「大丈夫?」の代わりに、「手伝ってあげられなくてごめん」「話を聞いてあげられなくてごめん」という手もある。要は、心残りを知らせればいいのだ。
本当はもっともっとしてあげたい――そんな気持ちをことばにしてくれるだけで、実際にしてもらった時より、なぜか嬉しいのが人情なのである。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)に続き、最新刊は『女女問題のトリセツ』(SB新書)。
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