コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第19回 
できる女のビジネストーク

今回は職場での会話術。無理難題を押しつけられたとき、相手を不快な気持ちにさせない返し方があるといいます。

女性は「できない理由」から頭に浮かぶ

10年ほど前だったか、ある男性雑誌が、男性600人にアンケートを取った。「女にムカつく瞬間(職場編)」という衝撃的なアンケートだ。
その第一位は、「仕事を断る理由に、プライベートなことを口にする」だった。なんと、600点獲得。つまり、全員の男性がこれを苦々しく思っているのである。

女性は、プロセス指向の回路を活性化している人が多い。
プロセス指向とは、「ことのいきさつ」に光を当てること。何かことが起こると、記憶や想像を駆使して、「ことがスムーズに進むかどうか」をとっさに確認する脳神経回路である。危機回避能力を担保する大事な機能だ。
このため、たとえば、「急で申し訳ないが、今日、残業してくれないか」と言われたら、即座に「勘弁してよ。なかなか予約が取れないエステが入ってるんですけど。明日デートだから、譲れない~」が浮かぶわけ。このため口が滑って「無理ですよ。銀座のエステが入ってるんで」と言ってしまうことがある。これが、男性たちの不興を買うのである。

男性は「今できること」を反射神経で最優先してしまう

男性は、ゴール指向の回路を活性化している人が多い。
ゴール指向とは、「今できること」に光を当てること。何かことが起こると、今できることを最優先してしまう脳神経回路である。危機対応力を担保する大事な機能だ。
このため、急な残業をオファーされたときも、反射神経でOKしてしまい、後で先約の妻や恋人にこっぴどく叱られる羽目に陥る。
頭の回転がいいゴール指向型は、うっかりOKはしないまでも、「今日は無理ですが、明日は早出します」のように、“できること”から話す。理由を話す時間を惜しんで、できることを伝えたい一心なのだ。
このように、男たちは、自分が「今できること」に反射的にスイッチが入ってしまうので、それこそが「職場のマナー」だと信じ込み、プライベートな理由で仕事のオファーを断る女性に、あんぐりと口を開けてしまうわけ。
第19回 できる女のビジネストーク/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

職場は、どっちの戦場?

プロセス指向の私からしてみれば、反射神経で「今できること」を最優先してしまうだけなのに(しかも大事な人を傷つけるリスクまで犯して)、危機回避能力の高い私たちを批判するわけ!?という感じだけど……ただ、男性脳の言い分も、わからなくもない。狩りや戦場など、「一刻の猶予もなく、命を守る現場」では、たしかにゴール指向が優先されるべきだからだ。男性たちは、職場を戦場か狩場だと思っているのである。
もちろん、私たち女性にも言い分はある。私たちは、子育てという戦場の戦士だ(たとえ子どもを持たなくても、その能力を生来持っている)。この戦場では、プロセス指向がなにより大事な命を守る手段なのである。
さて、あなたの職場は、どっちの戦場なのだろう。

「できること」から言おう

成果を出すことが目標の職場では、ここは狩り場だと観念するしかないと思う。
かつて私はシステムエンジニアだったので、職場は成果主義の極み。1000時間働いたって、プログラムが動かなければ無意味な現場なので、当然、上司たちは、性別にかかわらずゴール指向である。
このため、できることから言う、を徹底していた。たとえば、「このプログラムテスト、来週の火曜日までに終わらせてよ」と無理を押し付けられたときも、「来週の火曜まででしたら、8割がた済ませられます。経過レポート書きますよ。すべて終わらせるには、後2日要ります」と答える。
「無理ですよ。だって私、あっちの仕事もしてるし、週末は保育園の運動会だし」と頭に浮かんだことをそのまま言うことはけっしてない。
面白いもので、前者の方がきっぱりと断ったにもかかわらず、「デキる」「誠実」という印象を残すのである。
プライベートな理由をいったん呑み込んで、できることから言う。必ずや、「デキる女」と一目置かれることになる。お試しあれ。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)に続き、最新刊は『女女問題のトリセツ』(SB新書)。
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