コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第20回 
現場の質問力

仕事中に「これって、どうしたらいい?」と悩むとき、先輩や上司にどんなふうに相談していますか? 優秀だと思われる聞き方があるそうです。

現場の質問はYES/NO型で

あるとき、若い保育士の方から質問を受けた。
――保育の現場は忙しくて、先輩に質問をするタイミングが難しい。あるとき、どうにもしょうがなくて、忙しそうにしている先輩に「これ、どうしたらいいですか」と質問したら、「自分で考えて!」と言われた。そこで、自分で考えて適当に処理したら、後でその先輩から「なんで、勝手にやるの!?」と叱られた。これって、罠ですよね? 「自分で」って言ったのに「勝手にやった」っていちゃもんつけるなんて。「いやいや」と、私は答えた。「先輩は、自分で考えて、と言っただけで、勝手にやっていいとは言ってない。間違ったのは、あなたよ」

結論から言おう。現場の質問は、YES/NO型でするのが基本だ。つまり、「これって、こうしていいですか?」と質問する。そう質問すれば、忙しい先輩の回答時間が劇的に短縮できる。正解のときは「そうよ」で済むし、不正解のときでも“間違っているところだけ”指摘すればいい。説明に時間がかかることでも「後で説明するから、とりあえず、○○だけしておいて」などと、今できることだけに特化した短い返事もできる。仕事の現場では、ベテランの手を止めないことが、新人の最大の貢献である。

「どうしたらいいですか?」は女性脳の癖

この連載では、何度か言ってきたが、女性は、プロセス指向の回路を活性化している人が多い。プロセス指向とは、「ことのいきさつ」に光を当てること。結果よりもプロセスに意識を向ける脳の使い方のことだ。たとえば、子どもの具合が悪くなったとき、「そう言えば、夕べ……」「そう言えば、前にも……」などと、ここまでのプロセスの中に回答を得ようとするセンスだ。この回路は、未来に向けても使える。「そう言えば、ケチャップ、1/3切ってたよね。安くなってるから買っていこう」「そう言えば、干しシイタケ、水につけて出かけよう。帰ってすぐ、筑前煮作れるし」みたいに。
そう、このセンスは、子どもを無事に育て上げ、日々の家事タスクを合理的に片づけるために必要不可欠なのである。女性には、生まれつき、この回路を優先して使っている人が多い。ままごとや、お人形遊びをするのも、このセンスがあるからこそ。おそらく、何万年にもわたって、このセンスの持ち主が、多めに子どもを残して来た結果に違いない。だって、「そう言えば」がなかったら、子どもなんて、絶対無事に育てられないもの。
実は、この“プロセスを大事にする脳”が質問をするときには、自然に「どうしたらいいですか?」が浮かんでしまうのである。結果より、手順のほうが、ずっと大事に思えるからだ。
第20回 現場の質問力/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

ベテランは、ゴール指向

脳には、ゴール指向の回路もある。結果重視。プロセス軽視と言ってもいいくらいだ。たとえば、プロセス重視の人は、きれいな美容室で、スタッフに大切にされながら髪をカットしたい。ゴール重視の人は、さっさと切ってくれればいいから、腕さえよければ、髪をバキュームしながら切っておしまい、みたいな千円カットでかまわない。仕事で戸惑ったときも、脳に浮かぶのは結果、すなわち「こうすれば、いいよね?」である。
ベテランたちは、仕事の現場で、基本、ゴール指向の回路を使っている。このため、先輩の脳に浮かぶ質問形式は、「こうしていいですか?」しかありえない。「どうしたらいいですか」なんて、使えないヤツのくだらない質問にしか思えないのである。

プロセス指向は優秀すぎるのかも

プロセス指向の人たちは、使えないわけじゃない。というか、ゴール指向の人たちよりも、本当は優秀なのである。たいてい「こうしたらいい」が複数浮かぶので、かえって選べず、「どうしたらいいですか」となってしまうのである。たくさんのことが瞬時に浮かぶから、かえって「使えない」と烙印を押されるなんて、同じ女性脳の持ち主として、私には悔しすぎる。
どうか、現場の質問は、YES/NO型、すなわち「これって、こうしていいですか?」と尋ねてほしい。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)に続き、最新刊は『女女問題のトリセツ』(SB新書)。
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