コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第21回 
いきづまったら周囲を疑え

うまくいかないのは私のせい……と自分を責める前に、ちょっと周りを見渡してみてください。原因はあなたではないのかもしれません。

心理的安全性が確保されている?

成績が振るわない、アイデアが浮かばない、勘が働かない、やりたいことがわからない、楽しいことがない、惰性で生きている――そんな、人生が止まってしまったような気持ちになったら、自分の能力を嘆く前に、上司や同僚、家族に、あなたの脳を止めてしまう「犯人」がいないかどうか、確認してほしい。
昨今、企業の人事部門で、心理的安全性ということばがささやかれている。数年前、グーグルが世に出した言葉だ。グーグルが、4年にも及ぶ社内調査の結果、成果が出せるチームとそうでないチームの差はたった一つ、心理的安全性が確保されているか否かだ、と言い切ったのである。
心理的安全性(Psychological Safety)とは、「なんでもない、ちょっとした気づきを無邪気に口にできる安心感」のこと。戦略力でもなく、調査力でもなく、ちょっとしたことをしゃべれる安心感!?天下のグーグルの提言に、意表を突かれた企業人も多かったはず。けれど、脳科学的に、この提言は、非常に深くて、意味があるのである。
思いついたことを上司や同僚に告げて、頭ごなしに否定されたり、バカにされたりすると、人は、思いついたことを口にしなくなる。そしてほどなく、脳は発想そのものも止めてしまうのである。脳は一秒たりとも無駄なことをしない装置なので、出力しないものを演算なんかしやしない。すなわち、「頭ごなし」の上司は、部下の発想力を奪い、危機回避力を低下させてしまうのである。
グーグルは、時代に先んずる発想力を最大の武器にして、世界的大企業にのし上がり、今も邁進している21世紀型ビジネスの覇者である。そのグーグルの提言は重い。部下や同僚の話を気持ちよく聞くチームだけが、グーグル基準の高い発想力を保っているってことでしょう?
このことを、この国の企業も、もっと重く受け止めたほうがいい。

「頭ごなし」は、家族の笑顔と生きる気力を奪っていく

もちろん、親たちも、このことを知るべきである。上司の「頭ごなし」よりも、親たちの「頭ごなし」のほうが、罪が重いような気がする。だって、生きることに戸惑っている人たちには、70になっても80になっても、子どもにダメ出しをする親がついていたりするんだもの。もちろん、配偶者の「頭ごなし」も罪が深い。夫が、頭ごなしに決めつける人だと、妻は口数が少なくなり、笑顔が消え、暮らしのアイデアが消える。結果、暮らすことが楽しくなくなって、義務と惰性で暮らしているような気分になるに違いない。
第21回 いきづまったら周囲を疑え/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

悪いのはあなたじゃない

なんだかいきづまっている――そんなふうに感じているとしたら、周囲に、頭ごなしの上司や皮肉屋の同僚がいないかどうか、確かめてみてほしい。あるいはそんな親とか、そんな夫、そんな友人が。もしも、いたとしたら、あなたの心理的安全性が確保されていない。あなたは、一目散に、その相手から逃げるべきだ。
もしも、にわかには逃げられないとしたら、その人を、心から軽蔑してしまったほうがいい。「頭ごなし」の上司(夫)(親)なんて、時代遅れもいいとこ。すなわち、センスが悪い。だから、頭ごなしに否定されても、センスの悪い奴の否定である。否定された事実があっても、その否定に気持ちが負けなければ、脳は止まらない。「こいつ、バカじゃないの?」と思っていいのである。自分の脳を止めないために。

気持ちを受け止める会話

そして、心理的安全性を担保してくれる仲間や友人を、どうか一人でも確保してほしい。どんな些細なことでも、どんなにバカバカしくても、あなた自身が素直に感じたことを、まずは大切に受け止めてくれる人。結果、否定することになっても、「わかるよ~、その気持ち」「いいよねぇ、それ」と気持ちだけは受け止めて、「でもさ、こう考えてみてもよくない?」と言ってくれる人。
どうやって、そんな友人を手に入れるか、って?実は、手に入れる方法は、ただ一つ。自らがそういう口の利き方をする人になることだ。相手の言ったことを「いいね」か「わかる」で受けると、相手もそういう口を利くようになる。これ、家族にもけっこう効く。どうぞ、お試しあれ。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)に続き、最新刊は『女女問題のトリセツ』(SB新書)。
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