コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第22回 
あなたの自己肯定感、大丈夫?

「理想の自分」と「現実の自分」を比べて落ち込むことはありませんか?黒川さんが、理想の自分を手放す方法を紹介します。

自信が持てないのはなぜ?

自己肯定感が低い。そう自覚する人が増えている。自信が持てない。自分には何もない、取り柄なんかない――そんなことを、人も羨む(少なくとも私は十分に素敵だと思っている)、美人で経済的にもゆとりがあり、子どもたちも立派に育っている女性たちが口にするので、びっくりしてしまう。
いつからだろう。この国の教育が、「素敵な個人」を目指すようになったのは。私は、1983年入社である。私たちの世代は、「素敵な自分になるために」社員教育を受けたことはなかった。「きみたちは、会社という大きなシステムを回す歯車の一つだ。一つひとつはちっぽけだけど、歯車が一つ止まってしまうと会社ひいては社会が止まってしまう。その責任を忘れるな」と言われて、滅私奉公を期待された世代だ。この時代の社員教育を絶賛するわけじゃないが、私は、1990年代から始まった「理想の自分を思い描く」社員教育を、「なんて残酷な教育だろう」と思ってきた。それに比べれば、あの時代に社会に出て、本当に良かった、と。
20代の若手に、「将来、どんな自分になりたいか」と問い、「きみたちのキャリアプランを応援する」と言う。一見、ヒューマニティ溢れる、未来型の社員教育のように見えるけど、これって、脳にはとても残酷なのである。

人生の目標が「自分」の人

成長していく脳は、「自分」にスポットライトを当ててはいけない。素敵な自分になるために頑張ってはいけないのだ。なぜなら、脳の世界観が自分でいっぱいになってしまうから。「自分」が生きる目的であり、「自分」が興味の対象になってしまう。そうすると、たとえば、自分の失敗で、脳の世界観が崩壊してしまうのである。
一方、「おまえなんて、ちっぽけな歯車だ」と言われた私には、自分の失敗なんて、本当に些細なことだった。上司に叱られたって、まったく落ち込まない。「社会を止めてしまう前に叱ってもらって、ほんとよかったよ」と本気で思っていたから。脳の中の自分が小さいので、自分に起こった事件なんかで世界観は何ら揺るがない。ひいてはそれが、自信や信念になっていく。
人生の目標が「自分」の人は、本当にかわいそう。失敗すれば、「世界」の大事件になっちゃう。自分の頬のシミ一つ、首筋のシワ一つまでが大事件になっちゃう。人よりよっぽど秀でなければ、自分を認めることもできないから、「日々を穏便に、賢く生きている」くらいでは自己肯定感を持ちえないのである。
今では、社員教育のみならず、子どもたちへの教育も「社会の役に立つように」ではなく「理想の人生を生きるために」に変わってしまった。一人一人を大切に————。一見、素敵な社会だが、脳の中を覗けば、「理想を生きられる人」以外には残酷である。
第22回 あなたの自己肯定感、大丈夫?/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

「理想の自分」を捨てよ

もしも、あなたが、自己肯定感が低いと自覚しているとするならば、「自分」を見つめすぎているのかもしれない。常に「理想の自分」と「現実の自分」の差を見つめて、無駄な劣等感を抱いている可能性が高い。人から見て素晴らしい「理想の自分」を思い描き、人の反応で、それが達成したかどうかを測っていないだろうか。
「理想の自分」を生きる必要なんて、そもそもはなっからないのである。脳は、よりよく生きる方法を知っている。自分の直感に従って、都度判断すれば、脳は、最も生きやすい場所に、あなたを連れて行ってくれるのに。その場所にいるとき、人は、最も自己肯定感が高くなる。あなたにしか見えないものが見え、あなたにしかできないことができて、それが収入につながったり、大切な人たちの幸福につながったりするからだ。

好きなものに夢中になる

自分ではないものを見つめてみませんか。好きでたまらないもの。あるいは、あなたがいなければ生きていけない弱い存在とか、あなたがいなければ存続していけない小さな文化とか。うんと些細なことでいい。他人が羨むものかどうかは、この際、いっさい感知しないことが大事だ。
——自分から目線を外す。なりふりかまわず、手を伸ばしたい何かに気づく。それが、人生を豊かにする大事なポイントなのだと、私は心底そう思う。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)『女女問題のトリセツ』(SB新書)に続き、最新刊は『夫婦のトリセツ 決定版』(講談社)。
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