コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第24回 
「わかる、わかる」が鼻につく理由

女友だちに悩みを相談したとき、わかってもらえるとうれしいけど、それだけだとさみしい。「私って多くを求めすぎ?」――その気持ちには理由がありました。

群れの接着剤

人の話に同意ばかりして、自分の意見を言わない同僚にイラつきます――あるとき、そんな質問を受けた。「そうよね」「わかる」と言うけれど、特に、こちらの見解を深めてくれるわけでもない。「あなたの意見は?」と聞いてもはぐらかす。
女同士の付き合いでは、共感が欠かせない。なのに、共感が過ぎると、腹が立つ。こう書くと、女ってわがままな生き物だなと思う方もいるかもしれないが、これこそが、生存本能のなせる業。生き残るための大事な脳のプログラムなのである。

人類の子育ては、太古の昔から、女同士のコミュニティによって支えられている。人類の子育ては、動物界最大リスク&最大コストの子育てなので(生まれて一年も歩けないなんて人類だけ)、オオカミやカルガモみたいな単独の子育ては難しい。女同士の群れの中で、子持ち同士はおっぱいを融通し合い、子育ての知恵を出し合い、子どもを持たない女性の手も借りて、やっと成り立っている。
この群れを形成する“接着剤”が「共感」なのである。共感されると、群れへの参加を許容されたことになるから、自分と子どもの生存可能性が上がったことになるので、女性脳は安心する。ストレス信号も、みるみる減衰するのである。「こんなつらいことがあったの」に「わかるわ~。むかつくわよね」を返されるとほっとするでしょう?
だから、女性は、共感を希求する。共感してくれる相手に好感度が上がり、気持ちいい共感の相手を手放せない。それを知っているから、自らも積極的に共感するのである。

共感しすぎは仇になる

このため、群れに許容されていないと感じると、つまり不安が強いと、女性は、過剰に共感することになり、これが、かえってひんしゅくを買うことになる。
過剰な共感に、なぜ、私たちはイラつくのだろうか。それは、群れの役立たずだからだ。女の群れは、共感でつながるが、群れとしての成果を挙げるためには、別々の視点を持ち寄る必要がある。みんなが同じものを見て、同じことしか感じられないとしたら、全方位の危険から群れを守ることができない。誰かが、風の匂いの変化に気づき、誰かが川の音の変化に気づく。誰かが木の上の実に気づき、誰かが足元のキノコに気づく。一人じゃないことの意味は、複数の視点が持つことにあるはず。
「わかる、わかる」しか返ってこない、こちらの見解をアシストするような深い見解や、類似事例を挙げてくれるわけでもない。意見を聞いても、はぐらかす(あるいは言わない)。これでは、群れに「その人なりの視点」を提供しておらず、群れのにぎやかしにしかすぎない。発想や気づきが必要な現場では、足手まといになることも。女たちは、それを知っていて、過剰な共感の女子にイラつき、遠ざけようとするのである。
第24回 「わかる、わかる」が鼻につく理由/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

共感の後には、独自の目線を

女同士の話の輪の中にうまく入れない、友だちができない。そんな悩みがあるのなら、「わかる、わかる」だけでやり過ごしていないか、考えてみてほしい。
「わかるわ~、それって、本当に悲しいよね。だって、それ、思いやりがないってことじゃない?ことばを間違っただけの話じゃないもん」のように見解を深めるか、「わかる~、私も、こんな経験があるから」のように類似事例を挙げるか。大人の女同士の共感は、何回かに一回は、「わかる」の後に、独自の目線を添えてあげるのが常識なのである。

本当の友に出逢うために

不安の強い女性脳は、過去に、自分の見解を添えて叱られた経験がけっこうあるんだと思う。たぶん、不安の強い母親に育てられたか、完璧主義の母親に「素直に返事をすること」を強いられてきたんじゃないかしら。あるいは、職場で先輩から。もしくは、その両方から。そういう女性に翼をあげたい。最近、私はそう思うようになった。
もしも、周囲にそんな女性がいたら、その不安を取り除くことから始めてあげないと、なかなか共感過剰からは抜け出せない。一度でいいから「わかる、わかるだけじゃ、本当の友だち(同僚)にはなれないよ。何でもいいから、怖がらずに何か言ってみて」と水を向けてあげてほしい、そして、自分の意見が言えたら、笑顔で受け止めてあげること。
イラつく相手と無理して付き合う義理はないが、一度くらい、手を差し伸べてあげてもいいんじゃないかな。そういう女性が翼を手にしたときは、本当に感動するから。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)『女女問題のトリセツ』(SB新書)に続き、最新刊は『夫婦のトリセツ 決定版』(講談社)。
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