コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第26回 
結婚は女の人生のマストなのか?

独身者も既婚者も、「結婚って……」とそれぞれに思い悩むことがあります。人工知能の見地から、黒川先生の話を聞いてみましょう。

「夫婦」の正体

もう10数年も前のこと。スパイ映画を見ていて、やがてスパイもAIにとって代わられると気づき、スパイロボットの設計を妄想してみたことがある。
スパイロボットは、遠くから跳んでくるドローンも、目の前のトラップ(罠)も素早く認知しなければならない。つまり、遠近全方位を感知するセンサーを搭載する必要がある。しかしながら、遠くの動くものに瞬時に照準が合うセンサーと、近くを満遍なく感知するセンサーを同じ優先順位で稼働させると、行動判断に支障が生じてしまう。ドローンとトラップを同時に感知したら、どちらに対応すべきか、とっさに選べずフリーズしてしまうからだ。
このため、全機能搭載型でありながら、とっさの優先側は、どちらかに決めておかなければ危ない。そして、片方しか使えない以上、死角をなくすために、とっさの優先側が違う者同士がペアでミッションに就くしかないのである。

「遠く」と「近く」を分け合うふたり

これって実は、人類の男女の組み合わせと一緒なのである。男性の多くが「遠く&動くもの」派。とっさに、目の前の止まっているものが目に入らない。
トイレに立ったついでに、飲み終わったビールのコップを片付けてくれれば、すごく楽なのに、何度言ってもビールのコップは置きっぱなし。理由は、まったく見えないから。なにせ、何万年も狩りをしながら進化してきた脳なので、「遠くの目標に照準を合わせてしまったら、目の前のものは一切目に入らないように、脳が制御している」のである。「あの獲物を仕留めよう」と目論んだその瞬間は、目の前のイチゴに気を取られるわけにはいかないからだ。たとえ、野イチゴが、妻の好物であっても。
一方、多くの女性は、目の前をつぶさに感知して、次々と処理していく。このふたり、平和なときには、めちゃムカつきあう。とはいえ、もしも、小さき愛しき者に危険がせまったなら、片方は、向こうから飛んでくるものをいち早く迎撃し、片方は、一瞬たりとも大切な者から意識を離さず守り抜く。夫婦は、そういう「生き残るためのセット」なのだった。「平和に愛し合うためのセット」なんかじゃなくて。

「憎み合う」のも重要なセキュリティシステム

話をスパイロボットに戻そう。
さて、二体の判断が「右に行く」と「左に行く」に分かれたときは、どうするのか。
こういうときのために、互いに「惚れ合っている」という状態にし、それぞれに「自分が正しくて、相手が愚かだ」と思い込ませておく必要がある。そうすれば、意見が真逆になったとき、惚れた相手を正しいほう(自分の選択)に連れ込もうとして、激しく言い争うことになるから。そうして、意志が強いほう、または情報量(経験値)の多いほうが勝つ。
しかしながら、それらが拮抗して折り合いがつかない場合もある。当然、喧嘩が長引くと危ないので、スパイロボットには最後の仕掛けが要る。「憎み合う」プログラムである。
喧嘩のボルテージがある程度以上になるか長引くかしたら、憎み合って、弾けるように右と左に分かれることが次善策だ。そうすれば、どちらかが生き残って、残りのミッションが果たせるからだ。一体の完全体よりも、二体の「違うもの」ペアのほうがはるかに秀逸なのが、わかっていただけたと思う。
感性真逆の二体がペアになり、惚れ合いながらも喧嘩しながらミッションをクリアして、折り合いがつかなくなったら、憎み合って別れる。そう、これこそが、命がけの迷路で、ミッションをクリアするための最高のプログラムなのである。どんなに考えても、それ以上の仕組みを、私は考え付くことができなかった。
そして、まさに、そのシステムを、人類は長いこと遂行してきたことになる。
第26回 結婚は女の人生のマストなのか?/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

人生の目的に合っているのか、いないのか

多くの男女が、結婚をしたとき、「理解しあえる、かけがえのない相手」を手に入れたと信じる。確かにかけがえのない相手だが、「とっさの感性」的には、まったく理解不能な相手なのである。コミュニケーション能力の高いカップルなら、そのすれ違いを理解に変えられるが、たいていは、そうもいかない。
惚れあった男女は、生殖という観点においては、鉄壁のゴールデンペアだが、「人生を楽しむ」とか「自らの才能を伸ばす」という目的においては、足手まといになることも多い。
こんな相棒を手に入れるのか、不要なのか。女の生き方が多様化した今、それは、クールに選んだらいいのではないだろうか。
というわけで、結婚も出産も、したけりゃすればいいだけのもの。女の人生の戦利品ではなく、ましてや目標でもない。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)『女女問題のトリセツ』(SB新書)に続き、最新刊は『夫婦のトリセツ 決定版』(講談社)。
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