コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第27回 
20代の恋を引きずらない

結婚も出産も人それぞれ。どう生きたいかで変わります。今回も、黒川先生の脳科学の知見からたくさんのヒントをもらいました。

子どもを持たない人生も祝福

政府の「異次元の少子化対策」ということばを聞く度に、いや~な気持ちになる。私は、少子化対策ということばが大っ嫌いなのだ。
出産は、交通事故に遭ったくらいの「怪我」なのだという。骨盤が音を立てるほど開き、胎盤がはがれるんだものね。そもそも、その前に、胎児と羊水の入った大きなおなかが背中や腰に相当のダメージを与えているし、血液状態もひどいことになっている。それなのに、出産後は、毎日400~600mlの血液を母乳に換えて、子どもに与えているのだ。毎日、最大量を超えた献血をしているようなもの。
そんな女たちの命を削る営みを、「少子化対策」なんて一言でくくる政治家の神経がわからない。そもそも私は、「女は子どもを産んで一人前」みたいな考え方、したこともない。

もちろん、「子どもが欲しい」という本能は、とても素敵なことだ。私自身、実際に産んでみたら、子どもは何にも代えがたい人生最大のギフトだった。
でもね、産むも産まないも、女たちが「自然な気持ち」で選ぶべきこと。命の勘に照らして決することだ。命が決したことなのだから、「子どもを持たない」という選択も(たとえ、それが余儀なくされたことだったとしても)、「子どもを持つ」という選択と同じくらいに、祝福され、尊重されていいと、私は思う。
動物行動学の竹内久美子先生によれば、「姉妹の中に、子どもを持たない者がいたほうが、姉妹全体の子育ての質が上がり、全員で産んだのと遜色ない子どもの数にもなる」という考え方があるという。子どもを持たない姉妹が、その人生資源(時間、意識、手間、お金)を、甥や姪に分配してくれるからだそうで、それぞれに個別の子育てをするより合理的なのだとか。社会全体に視線を広げてみても、人生資源を社会や自分のために使う人がいてこそ、経済も回るように思える。子どもを持たない人を、「するべきことをしていない人」みたいに言うのはもうやめない?
その立場を表明したうえで、女の出産戦略について語ろうと思う。

20代半ばの恋は「運命の恋」

脳科学上、恋の正体は、「異性の体臭(フェロモンと呼ばれる匂い物質)から遺伝子情報を嗅ぎ当てて、生殖にふさわしい遺伝子の持ち主に発情すること」である。フェロモンを感知するセンサーは、25歳の女性が最大に働くと言われている。
この年頃の女性なら、この世は、たくさんの「馴れ馴れしくされたら不快な男」と、たった一人の「触れたい男」でできている。日々すれ違う何千人の男子の中のたったひとり――脳は、そのことをよく知っているから、25歳の恋は「運命の恋」だと感じやすい。
ちなみに、オリンピック金メダリストたちの母たちの出産時の年齢は平均27歳だそうで、運命の恋の流れに乗った結果なのかも。20代半ば、運命の恋の勢いに任せて結婚し、恋の魔法が切れないうちに妊娠するのが、脳科学的には、もっともスムーズな道と言える。
ところが、現代のキャリアウーマンたちは、こんなところで結婚出産なんてしてはいられない。「運命の恋」適齢期を逃してしまう人が多いはず。
だから、女性たちに言っておきたいのだ。25歳前後の恋を、その後の人生で、恋の指標にしないこと。
25歳のフェロモンセンサーは厳しくて、ほとんどの男をふるいにかけてしまう。そのままだと一生生殖に至れない場合があるので、何事もなく30歳を過ぎれば、フェロモンセンサーの精度を下げていくのが脳の作戦だ。気持ち悪い男子が減ると同時に、「運命の人」感も減ってくる。だから、20代の恋を指標にしてしまうと、30代は「ピンとくる人がいない」と言いつつ過ぎてしまうことになる。
第27回 20代の恋を引きずらない/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

30代は友だち婚がよし

というわけで、30過ぎて「とんといい男に出逢えない」と思っている方。「結婚も子どもも、いつかは」と思っているのなら、考え方を変えてみよう。「いい人ね。傍にいても、嫌じゃない。一緒に暮らせる感じ」で、もうよしとする考え方だ。
子どもがマストじゃないのなら、じっくり構えるという手もある。40代に入って、脳が生殖から離れ始めると、想念で恋するようになる。なんと40代、プラトニックラブ適齢期なのである(もちろん大人だから触れ合うことも楽しめるけど)。初恋の時のような瑞々しさで、誰かを愛せるかも。
結婚も出産も、自分の気持ちの赴くままでいい。ただ、自分の脳の変化とはうまく付き合わなきゃね。
なお、ここで語った脳の推移は、ホルモンの分泌特性上、多くの人に起こると予想されることだけど、けっして「すべての人に起こる」ことじゃない。あくまでも、参考までに。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)『女女問題のトリセツ』(SB新書)に続き、最新刊は『夫婦のトリセツ 決定版』(講談社)。
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