コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第29回 
表情が人生を決める

なぜかあの人に会うと元気になる、この人だと疲れる……その理由がわかりました。黒川先生に教えてもらいましょう。

鏡の脳細胞

単身でアフリカ大陸を巡って、美しい風景写真を撮ってきた写真家の知人が、あるとき、「黒川さん、リーダーの条件ってなんだと思う?」と尋ねてきた。私が答えあぐねていると、彼女はこう続けた。「私はアフリカで、行く先々でごちそうになった。そのとき、紹介してもらう前に、トップリーダーが誰だかわかったの。百発百中だった。なんで、わかったと思う?」
女の答えは「みんなを笑顔にする人」。「その人が入ってくると、その場にいる人がみな、輝くような嬉し気な表情になるの。だから、すぐにわかる」と、彼女は微笑んだ。
私は即座に、その〝からくり〟がわかった。ミラーニューロンである。

私たちの脳の中には、ミラーニューロンと呼ばれる細胞がある。ミラーは鏡、ニューロンは脳神経細胞のこと。その名のとおり、目の前の人の表情や所作を、まるで鏡に映すように、そっくりそのまま神経系に移しとる能力を持っている。
目の前の人が満面の笑みを浮かべたら、つられて笑顔になるでしょう?逆に、目の前の人が、とても悲しい表情になったら、こちらも笑みが消えて、眉をひそめることになる。相手に合わせようとして、わざわざそうするのではなく、自然にそうなる。「あっち向いてホイ」でついつられるのは、誰でも経験済みのはず。そう、表情や所作は伝染するのである。
トップリーダーが、確実に周囲を笑顔にするのだとしたら、それは、彼(彼女)自身が、好奇心に満ちた嬉し気な表情をしているからだ。
そして、そのことには深い意味がある。

表情のスパイラル

表情は、出力だけど、入力にもなる。
ヒトは嬉しいから嬉しい表情になるわけだけど、目の前の人につられて「嬉しい表情」になったとき、脳では、その表情をするときの神経信号が誘発される。つまり、表情に誘発されて、気分が変わるのである。
「前向きで嬉し気な表情」をしている人は、周囲の人々に、その表情をプレゼントすることになる。すると、周囲の人々に「前向きで嬉し気な気分」が宿る。
つまり、いい表情の持ち主は、やる気のある朗らかな人材に囲まれることになるわけ。周囲の表情の照り返しで、本人もますますいい表情になり、もっと前向きになれる。そんな「やる気のスパイラル」が上昇気流を創り出し、いつの間にか優秀なチームが出来上がり、やがて大組織のトップリーダーになるという幸福な仕組み。人類の脳の中にある、非常にプリミティブ(原初的)な可能性の一つだ。アフリカの大自然の中で、そのことが、こんなふうに証明されるなんて、私は胸がいっぱいになった。
第29回 表情が人生を決める/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

表情で勝負が決まる

逆に言えば、表情は、負のスパイラルだって創り出す。
不安そうで不満そうな表情の人は、周囲の人々の口角を下げ、それらの脳に不安と不満を渦巻かせることになる。そんな人の言うことを誰が聞くのだろう。だって、その人が何をしゃべろうとも、不安で不満なのだから。そう、ことばを発する前に、表情で勝負が決まっているのである。
というわけで、たとえ不満を表明するときでも、相手に理解してもらおうと思うのであれば、不満そうな顔をしてはいけない。プレゼンするときに、不安であっても、それを表情に出すわけにはいかない。プレゼンが通らなくなるから。
まぁ、とはいえ、表情は感情の発露だからね、いつなんどきでもいい表情をしてはいられないが、大人の女は、可能な限り、表情も意識の統制下に置かなければならない。

始めの表情で、気分のトーンが決まる

その意識の統制下に、「人に会う最初の瞬間」を入れよう。
たとえば、職場の仲間との朝の挨拶、クライアントに会った瞬間、デートの待ち合わせの瞬間。最初に会うときの表情が、会っている間の「気分のトーン」を決めてしまうから。
家を出る家族を、前向きの嬉し気な表情で送りだせば、家族にやる気をあげられる。成長期の子どもたちなら、学習効率が格段に上がる。帰ってきた家族に、安らぎの笑顔をあげれば、彼らの共感の脳神経回路を活性化できる。いたわりあう会話が展開する可能性が上がる。
実家の親御さんに久しぶりに会ったときも、とびきりの笑顔をあげてね。幼稚園や保育園に迎えに来てもらったときの、あの満面の笑みを。そうしたら、親たちも、小言なんて言わなくなる。親たちの脳がひととき、子育ての黄金期に戻って満ち足りた気分になるから。そう考えると笑顔は、親にしてあげられる最高の贈り物かもしれない。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)『女女問題のトリセツ』(SB新書)『夫婦のトリセツ 決定版』(講談社)に続き、最新刊は『夫婦の壁』(小学館新書)。
Share
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る
美しく生きるヒントがきっとある

コラム記事

取り扱い先

取り扱い先を調べる

公式通販サイト

ご購入はこちら