油断できない結核
「結核低まん延国」になった日本
2021年の国の統計で、結核の罹患率(1年間に新たに診断される人の人口十万対率)が初めて10を割り、日本は国際的な基準でいう「結核低まん延国」の仲間入りを果たしました。先進国の中で唯一「中まん延国」の名に甘んじてきた日本でしたが、官民の努力が叶って、例えば米国などから遅れることおよそ40年にしてやっと到達した水準です(図1)。しかし、これで気を許せば、1997年~1999年の「結核逆転上昇」のような事態を招きかねず、現に米国でもこの水準に達した後、逆転上昇の苦い経験を味わっています。結核は「再興感染症」の名にふさわしい、しぶとい病気です。なぜなのか、どう対処すべきか、考えたいと思います。
結核「再興」の要因
こうした「結核再興」の中で新たな問題点がでてきています。
- 1集団感染の増加
若い世代で結核に対する抵抗力(免疫)をもたない人々が増えたこと、診断の遅れなどによる集団感染・院内感染が増加しています(図2)。
図2 集団発生:どこで起こっているか?(2009-2018年、のべ発生集団数622件)
結核集団感染は「同一の感染源が、2家族以上にまたがり、20人以上に結核を感染させた場合」と定義される。なお、単一の発端に関わり、2種類以上の集団にまたがる事例は複数回計数されている。
- 2重症化・重症発病例の増加
患者さんが発病するとたちまち重症化したり、重病にならないと診断がつかない場合があります。
しかも結核と診断されて治療を始めた人の約24%の患者さんがその後結核を含む何らかの原因で命を落とし、また約8%が診断後1年以内に結核のため亡くなっています(図3)。 - 3高齢者での発病増加
最近発病する患者さんの約70%が60歳以上です。その最大の要因は、この年齢層の人々の多くが戦前・終戦直後に感染を受けており、さらに加齢に伴うさまざまな健康問題などで結核発病が促されていることにあります。
- 4社会的経済弱者の発病増加
ホームレスをはじめとして社会的に弱い立場にあり、健康管理の機会に恵まれない人たちの発病が目立つようになってきました。
- 5多剤耐性結核の出現
薬に抵抗性のある結核菌による病気が世界的に問題になっており、日本にもその影響が及ぶおそれがあります。(「多剤耐性結核とは?」の項参照)
- 6外国生まれ結核患者の増加
日本よりも結核がはるかに多い発展途上国で生まれ育った人々が日本にきて結核を発病する例が増えており、2021年には日本で発生する患者の11%を超え、とくに20~29歳では70%にも達します。多くの欧米先進国ではこの割合は既に50~90%となっていますが、日本もそうした状況に備える必要がますます大きくなっています。(図4、図5)