ー 免疫力を下げる生活習慣 ーライフステージ

年齢や人生のライフステージの変化、生活習慣が免疫力に関係しています。ここでは免疫機能が低下しやすい生活習慣についてみていきます。

1免疫力の弱い乳幼児や高齢者は注意が必要

人のカラダは「自然免疫」と「獲得免疫」によってウイルスや病原菌から守られています。 自然免疫とは人が生まれながらにして持っている免疫システムです。獲得免疫は後天的に形成される免疫システムのことです。

乳幼児の頃はまだ免疫システムが整っていないので、免疫力は低い時期と言えるでしょう。 乳児は母親からもらう母乳に含まれる免疫抗体 IgA により、細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入しないようにカラダを守っていますが、 その後の成長過程で、こうした異物に暴露されることにより免疫機能を獲得していきます。 このように乳幼児は、免疫を獲得していく段階にあるため感染症にかかりやすいのです。
免疫システムの成熟は18~39歳頃がピークで、それ以降は下がってきます。
好中球やリンパ球などの免疫細胞は、骨髄に存在する造血幹細胞から分化して生まれます。 しかし、加齢とともに免疫細胞に分化する力が落ちることで、免疫細胞の数が減少。 加えて、個々の免疫細胞の機能も若いころより低いため、年を重ねるにつれて免疫機能は低下します。 また、全身を覆っている粘膜で異物の侵入を防ぐ粘膜免疫は、20~39歳を過ぎると減少するという研究もあります。

グラフ1は健康な人116人の唾液中の免疫抗体IgA分泌量を測定した結果です。 唾液を採取して1分間にどれだけのIgAを分泌できるかを見たところ、80歳以上の高齢者では20~30代の半分以下しか分泌されていませんでした。 また、年齢群別のインフルエンザによる入院率を見ると、乳幼児や高齢者で高くなっています(グラフ2)。 【出典】
Naylor K, et al. J Immunol. 2005;174:7446-52.
Koga T, et al. J Immunol. 2000;165:5352-9.

【グラフ1】加齢とともに
唾液中の IgA が少なくなる

加齢とIgAの量
平均±標準誤差
分散分析
*p<0.02(vsグループA)

健康な116人を年代別に4つのグループに分け、1分間にどれだけの IgA を分泌できるか唾液を採取し調査した。 その結果80歳以上のグループは20-39歳のグループに比較して有意に IgA 分泌量が低下していた。
出典: Challacombe SJ, et al. Oral Microbiol Immunol. 1995;10:202-7

【グラフ2】高齢者と乳幼児は
インフルエンザによる入院が多い

インフルエンザ入院グラフ
出典: 国立感染症研究所、2009年7月28日~2010年3月10日

2妊婦も免疫力が低下しやすい

妊娠中も免疫力が下がります。 妊娠中はホルモンバランスが崩れる、つわりなどで食事を摂れず栄養状態が悪くなる、睡眠不足になりやすい、ストレスを感じやすい等、免疫力が低下しがちです。 また、母体側からみると非自己タンパクである胎児を異物として認識し、攻撃しないようにするため、マクロファージやNK細胞などの免疫機能が妊娠前に比べると相対的に低下すると言われています。 出典: Tsuda H, et al. Am J Reprod Immunol.2002;48:1-8

妊婦イラスト

3受験生や多忙なビジネスマンなどストレスを強く感じている人

強いストレスを受けると、自律神経のバランスが乱れるとともに、免疫機能の指標であるIgA分泌量が低下するなど免疫力が低下します。 精神的ストレスとなる勉強や仕事が、免疫に影響を及ぼすという報告があります(グラフ3)。 他にも、慢性の心理的ストレスは腸内細菌叢に影響を与え、IgA濃度にも変化を及ぼすという報告もあります。 出典: PLoS One. 2016;11:3

【グラフ3】ストレスが強くなると
唾液中のIgA分泌量が低下する

ストレスでIgA低下グラフ
歯学部1年生64人の精神的ストレスと唾液中のIgA分泌量との関係。 学期始め(9月)の低ストレス時、試験がある高ストレス時(3回)、ストレスから解放された学期末にわたって計5回測定した結果、高ストレス時のIgA分泌量が低いことが分かった。
出典: Jemmott JB 3rd, et al. Lancet. 1983;1(8339):1400-2
監修:新開省二先生(医師・医学博士 女子栄養大学 栄養学部教授)
監修:新開省二先生(医師・医学博士 女子栄養大学 栄養学部教授)