

シチリア



自然と歴史と文化が
クリエイティブした町。
WORLD GO My WAY.第7弾。今回の旅の舞台は地中海に浮かぶイタリア・シチリア島。その地理から「文化の十字路」と呼ばれ、イスラムやローマ、ノルマンをはじめとする多くの文化が交差してきたエリアです。町中にある建物は、古ければ古いほど価値があるとされ、伝統や歴史を大切にしつづける街。ここには、雲の上の街エリチェという小さな街があり、雲海の上にそびえるノルマン城からは、空と海と街が織りなす絶景を望むこともできます。豊かな自然環境と趣ある建物に彩られた風景が見渡す限りに広がり、一瞬で心を掴まれました。そして、そこから少し車を走らせた場所で、シチリア陶器の工房を営む素敵なご家族に出会いました。


3000年前から愛される陶器。
素敵な環境が生み出す作品。
工房の眼下にはぶどう畑があり、その先には紺碧の地中海が広がっていました。なんて美しい場所なのだろう。こんな場所でモノづくりができたら幸せだろうな思いました。シチリア陶器の歴史は古く、誕生したのは約3000年前。紀元前1000年から人々に愛され続けてきた永き物語を持っています。陶器工房は、70歳くらいの男性が監修として工房内を取りまとめ、その息子さんや親族のみで、シチリア陶器の創作に励んでいました。監修の孫娘となる4歳の女の子も工房に訪れ、その空間の雰囲気は、笑顔と優しさで包まれていました。カラフルなデザインが印象的なシチリア陶器を拝見し、なぜ3000年もの間、愛され続けているのですかと監修に尋ねたところ2つの理由がありました。


実用品としての器。
アート作品としての器。
愛される理由のひとつは、シチリア人の生活にとって欠かせない実用性を器にもたすこと。そして、もうひとつはアート作品としても愛される芸術性を器に宿すこと。その対局にある2つの要素を兼ね備えることが、シチリア陶器が色褪せない魅力だというお話でした。この2つの両立が叶わなければ、シチリア人たちはこの陶器を買ってくれない。どちらかひとつだけでは満足してもらえないという考えの下、制作に励んでいました。この道55年の監修も、これまで多くの苦悩があったそうですが、シチリア陶器に真摯に向き合い工夫を凝らし、毎日毎日、楽しみながら努力を積み重ねることで、これまでやってきたそうです。


心から愛すること。
つづく理由はシンプル。
ひとつのことを続けるために必要なことは何ですか?と尋ねたところ、これもまた素敵な答えが返ってきました。そのモノを「心から愛すること」だそうです。それに尽きるそうです。想いがなければつづかない。想いがあるからこそ、シンプルに努力を積み重ねることができ、クオリティを高めていくことができるという教えがありました。愛するものと、共に歩むということです。良い器を人々に届けるために、現状に満足することなく、さらにより良いものしていく。その思いがあるからこそ、自分自身も永く制作に携われるし、シチリア陶器の歴史も未来へと繋げていくことができるという想いを語っていただけました。


受け継がれる想い。
この先も歴史をつくるもの。
工房内には、孫娘ちゃんがつくったシチリア陶器も飾られていました。イタリア人らしく、明るく楽しく、モノゴトを愛する想いは、人から人へしっかりと継承されていくことを感じ、監修から受けた教えと工房内の景色を見て感銘を受けました。写真家としては、普段、大自然を相手に撮影し、1000年以上変わらない壮大な風景を目の当たりしてきました。しかし、人が作った手に取れるようなモノで、3000年もつづいているモノに出会ったのは初めてだったからです。そして、工房で働くご家族の優しい笑顔を見て、シチリア陶器は、この先も、1000年、2000年と、愛されながら生きつづけるのだろうなと思いました。