私たちの体を守りケアする フェム・ヘルス研究室

2022.9.15

これはPMS? 生理前の「なんだか不調」
〈第4回〉婦人科ってちょっと行きにくい
なるべくなら、行かずにすませたい。

PMSとは、「月経前症候群」(PreMenstrual Syndrome)、生理前の不調のことです。PMSの症状は、仕事や家事の効率、さらには人間関係にまで影響を及ぼす可能性があり、本人だけの問題にとどまりません。

CREAがPMSを考えるシリーズ第4回、女性の人生でずっと体をサポートしてくれるお医者さん、「婦人科」について、小川真里子先生に聞きました。

婦人科、行ったことありますか?

●CREA読者のお悩み ケース5

「婦人科に行けばラクになるのかな……という症状がいくつかあります。でも毎日忙しく、婦人科はなんだか敷居が高いこともあり、結局、まだ行ったことがありません。生理前にはいつも頭痛などの不調がありますが、市販の鎮痛剤でやりすごしています」(会社員 27歳)

──雑誌でも、婦人科受診を!という記事を作っていますが、「なるべく行きたくない」という声は多いです。婦人科は他のお医者さんと比べても、よりプライベートをさらさないといけないような感覚もあって、どうしても行きにくさを感じてしまいます。

小川先生「婦人科は女性の一生とも深く関わりますし、本当は、些細なことでも相談できるかかりつけ医がいたほうが安心できるはずなんです。発想の転換で、行きにくい場所だからこそ、あらかじめかかりつけ医を決めておく、と考えていただけるといいのですけど」

──かかりつけ医どころか、定期的な婦人科検診を受けていない方もとても多いようですね。

女性にとって婦人科はいちばん身近なはずの診療科でありながら、「婦人科検診を定期的に受診している人」や「かかりつけの婦人科医を持っている人」は驚くほど少ないのが現状(「女性の健康推進プロジェクト」より)。

小川先生「やはり、内診への抵抗感が強くあるのでしょうね。もちろん、検査内容によって内診を避けて通れない場合もありますが、たとえばPMS(月経前症候群)のご相談であれば内診は必須ではありません。『内診はしたくない』と意思表示していただければ、無理強いをすることもありません」

──「内診はしたくない」と伝えてもいいものなんですね。

小川先生「多くの方が悩んでおられるPMSでしたら、診察というより、相談しに行く、くらいの気軽さで来ていただけるのが理想です。症状の重さにかかわらず、婦人科系の不調によって自分が少しでもつらい思いをしているのならそれは改善したほうがいいでしょうし、改善したい気持ちが少しでもあるのなら婦人科医を頼ってほしいです」

──些細な不調でも、毎月あるのとないのとでは、生活のクオリティが段違いですね。

小川先生「本当にその通りで、私の患者さんでも、婦人科に通うようになってQOLが上がったという方がたくさんいます」

──どのような場面で生活の質がよくなったと感じるのでしょうか?

小川先生「PMSや月経困難症の改善に対しては、低用量ピルをご提案することが多いのですが、低用量ピルは不調をやわらげることに加えて、月経のコントロールが可能になります。
すると、大事な試験や仕事、旅行などのイベントと月経が重ならないようにもできるので、当然、QOLは上がりますよね」

──確かに、生理にまつわる憂鬱から解放されますね。でも、現実的には、低用量ピルについても、診察同様、ハードルが高いと感じている人が多い印象です。

小川先生「ピルの種類は複数あるので、自分に合うものを見つけることができますし、もちろん、ピルに抵抗感のある方には漢方薬や処方薬のご提案もできます。

ただ、低用量ピルをおすすめするのは、月経の回数を減らす方法も選べるから、ということもあります。120日間飲み続けられるタイプのものでしたら、うまくいけば月経を4カ月おきにすることもできます。

子宮内膜症などの病気は、月経回数の多さが一因だとも言われていて、ピルで月経回数を減らすことで、そういった病気を予防することもできるんですよ」

──婦人科へ行くことで正しい情報を医師から直接聞き、どうしていきたいかを自分自身で判断することが大事ですね。

「かかりつけ婦人科」をもって人生の質を上げる

●CREA読者のお悩み ケース6

「かかりつけの婦人科医がいて、体のことをなんでも気軽に相談しているという先輩がいて、少しうらやましいです。私もちょっとした不調はあるのですが、現状ではお医者さんにかかるほどではない気がして、第一歩を踏み出せずにいます」(会社員 31歳)

──ちょっとした不調はあるけれど、まだ婦人科へ行くほどではないのではないか。そんなふうに受診をためらっている方もかなり多そうです。

小川先生「生理前に生じるむくみや頭痛、イライラ、腹痛。どんな症状であったとしても、不調という自覚があるのでしたら、それは受診理由になります。こんなことくらいでと躊躇せず、まずは受診の予約をしてしまいましょう」

──いざ受診となったとき、どこの婦人科へ行こうかというのが次にくる悩みです。自宅近くか職場の近くか、どちらで探すのがいいか迷ったりもしますし。

小川先生「ご自身の通いやすいところがいちばんですが、20歳以上になると自治体から婦人科検診のお知らせがくるはずです。お住まいの地域で検診できるクリニックのリストが同封されているので、かかりつけ医を探す下見も兼ねて、気軽に検診に行ってみるとよいと思います」

──地元で信頼できるかかりつけの婦人科が見つかれば最高ですね。

小川先生「自治体の検診以外にも、たとえば、出張や旅行に合わせて月経移動をしたいと思ったら、ピルを処方してもらうためだけに婦人科へ行ってもいいんです。これなら基本的に内診の必要もなく、気軽に足を運ぶことができるのではないでしょうか。そこで、このクリニックや先生とは相性がよさそうだと感じたら、次に何か気になることが出てきたときに相談に行けば、そこがかかりつけ医になっていきますよね」

──何かあったらあのクリニックに行けばいいと決まっていれば、安心感が違いますね。

小川先生「安心感はストレスの軽減にもつながるので、それだけでもQOLは上がります。実際、一般的なセルフケアと婦人科を中心とする医療機関を利用している女性のほうが、仕事や家事のパフォーマンスが安定しているという調査結果があり、先ほどもお話しした通り、私の患者さんでも受診後にQOLが上がったという実感を持つ方はとても多いです」

セルフケアを何もしていない人に比べて、セルフケアに加えて婦人科などを受診している人は、仕事や家事のパフォーマンスが安定していると感じる人が多い結果に(「女性の健康推進プロジェクト」より)。

──月経にまつわる不調は毎月のことで、それが何十年と続いていくわけなので、やはり少しでも気になることがあれば、その都度、相談できるのが理想ですね。

小川先生「婦人科とうまく付き合うことが生活の質、ひいては人生の質を上げるという視点を多くの方に持っていただいて、受診の足がかりにしていただけたら私も嬉しいです」

●お話を聞いたのは……東京歯科大学市川総合病院 産婦人科准教授小川真里子先生

福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学産婦人科を経て、2007年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教、11年同講師、16年より現職。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本心身医学会心身医療専門医、日本女性心身医学認定医などの資格を持ち、PMSや更年期などの診療にあたる。