私たちの体を守りケアする フェム・ヘルス研究室

2022.11.15

これはPMS? 生理前の「なんだか不調」
〈第5回〉今月の生理前、いつもより調子が
悪いのはなぜ?

PMSとは、「月経前症候群」(PreMenstrual Syndrome)、生理前の不調のことです。PMSの症状は、仕事や家事の効率、さらには人間関係にまで影響を及ぼす可能性があり、本人だけの問題にとどまりません。

CREAがPMSを考えるシリーズの締めくくり。今回は、季節や気象とPMSの関係について、小川真里子先生に聞きました。このシリーズが、皆さんの人生の質の向上につながりますように!

季節の変わり目、PMSが悪化する!?

●CREA読者のお悩み ケース7

毎月、生理前はPMSで頭痛とむくみに悩んでいますが、9月はそれがいつにも増してひどかったんです。考えてみると、台風が近づいてきている時でした。気候や季節って、PMSに関係あるんでしょうか?(会社員 29歳)

──お悩みのように、気候や季節はPMSにも影響するのでしょうか。

小川先生「はっきりとしたデータなどはまだありませんが、更年期ではそういう声もよく聞きますので、おそらくPMSも関係あるのだと思います。季節の変わり目に起こりやすい季節性感情障害(SAD)は、秋から冬にかけて発症しやすいという話もありますし、人間の体は気候や季節に影響を受けていると考えるのが自然なのかもしれません。周期的にホルモンバランスの変わる女性の体は特に、気圧の変化などに敏感に反応してしまうことも考えられます」

──低気圧頭痛、というのも聞きますね。

小川先生「天気や気圧、湿度など、気象の変化によって起こる不調は気象病や天気痛などと呼ばれ、近年、認知度が広がってきていますよね」

──季節の変わり目は、つまり気象が大きく変化するときですものね。PMS対策としてできることはありますか?

小川先生「まずは、自分の体が季節や天候にどの程度影響を受けているのかを知ることですよね。そのための対策となると長期にはなりますが、年間を通して体調の変化をメモしておくことが、もっとも手軽で確実です。手帳でもアプリでもいいので、『イライラがひどい』とか『頭痛でしんどい』とか、ちょこっと書くことを続けてみてください。3カ月くらいでPMSの傾向が見えてきて、半年続けると仕事と体調の関連なども今以上に可視化できる。そして1年続けると、季節による体調の変化を予測できるようになるはずです」

──気が長い感じもしますが、まだまだ生理との付き合いが続く世代の人は、年間を通して自分の体をわかっておくほうがいいですね。

小川先生「季節の変わり目など、調子を崩しがちな時期が把握できれば、そこに仕事を詰め込みすぎないようにするなどの対策が立てられます。とはいえ、仕事の調整は自分の都合だけではどうにもならない部分もあるでしょうから、プライベートな予定を加減するとか、ストレスの元となる事柄からはなるべく距離をおくことができるといいですよね」

──調子が悪くなりそうとわかっている時期に、少なくとも旅行やキャンプは避けたいですね!

小川先生「恒例行事があると、お友達やパートナー、家族に遠慮があるかもしれませんが、『毎年、この時期は調子を崩しやすい』と打ち明けてみたら、お友達からは案外、『私も!』という声が上がるかもしれません。それに、以前もお話ししましたが、パートナーのほうが先にPMSの症状に気づいているケースは多いので、打ち明けてみることで、まだ自分でも気づいていない状態を教えてくれるかもしれませんよ」

子どもの受験で、母のPMSが悪化することも!?

●CREA読者のお悩み ケース8

会社で部署を異動したら、PMSがひどくなった気がします。仕事量は減って少し楽になったと思うのですが……。(会社員 30歳)

──身の回りの環境の変化やストレスも、やはりPMSに影響するのでしょうね。

小川先生「それは大いにあります。ストレスはPMSの症状や重さに強く影響して、仕事の忙しい時期や、配置換えの直後などに症状が悪化して来院される方は多いです」

──お悩みのケースでは、仕事量は減ったということで、ストレスの自覚はなさそうですが。

小川先生「それでも、環境の変化が体に与える影響は小さくありません。人間関係が変わったり、新しく覚えることがあったり、知らず知らずのうちに心身が緊張していることも多いでしょう。頑張り屋さんだと特に、ストレスを自覚することなく働いてしまうというのもありがちなことです」

──仕事のストレス、家庭のストレス、みんないろいろな事情がありますよね……。

小川先生「家庭のことだと、親御さんの介護が始まった方もいれば、介護と小さな子どもの育児が重なって……という方もいます。あと、お子さんが受験生で、そのストレスでお母さん自身のPMSが悪化してしまった、という例も実際にありました」

──自身の仕事に加えて子どもの卒業や進学などが重なりがちな春も要注意なわけですね。転勤や引っ越しまであったりしたら、もう大変。

小川先生「春は季節の変わり目ですし、寒暖差や気圧の変化が大きなタイミングですからね。ただ普通に生活しているだけでもしんどい日があるのに、環境の変化まで加わったら一大事です。そういった時期はできるだけ自分を甘やかしてあげられるといいのですが……」

──新生活と家族のことで手一杯で、自分のケアには構っていられない状況、という人が多そうですね……。

小川先生「そうなんです。何度も繰り返しになりますが、PMSや生理がしんどいなと感じたら、ぜひ婦人科の医師にご相談いただきたいです。自分のことをずっと後回しにしてきた女性の多くが、『もっと早く、相談に来ればよかった』とおっしゃることが、すべてを言い表していると思います」

──環境を変えるのには時間がかかるけれど、自分の体のケアは、自分の意志で今すぐにでも始められますからね。

小川先生「まさに、そこなんです。PMSや生理のつらさを感じているのなら、それを当たり前と思わず、仕方がないと諦めて受け入れるのではなく、改善できる可能性は大いにある、ということを絶対に忘れないでいてほしいです。PMSや生理は多くの女性にとって毎月のことだからこそ、その時期を少しでも快適に過ごすことが、人生の質を高めることにもつながります。せっかく今は、“生理を自分でコントロールできる時代”なのだから、自分から積極的に情報を取りに行って、一人でも多くの女性が、一日でも早く、快適な毎日を過ごせるようになることを切に願っています」

●お話を聞いたのは……東京歯科大学市川総合病院 産婦人科准教授小川真里子先生

福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学産婦人科を経て、2007年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教、11年同講師、16年より現職。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本心身医学会心身医療専門医、日本女性心身医学認定医などの資格を持ち、PMSや更年期などの診療にあたる。