大塚製薬 認知症特設サイト・インタビュー

認知症を正しく知ることから始まる、
共生社会への第一歩

認知症を
正しく知ることから始まる、
共生社会への第一歩

国立研究開発法人 国立精神・神経医療センター 神経研究所 所長
岩坪 威 先生

共生社会の実現に向けて、認知症基本法や認知症施策推進基本計画はどのような意味を持つのでしょうか。

共生社会の実現に向けて大切なのは、認知症を特別なこと、として扱うのではなく、誰にでも起こりうる身近な出来事として受け止める姿勢です。認知症は特定の人だけが直面するものではなく、加齢とともに誰にもその可能性があります。

また、共生という言葉が、認知症の人とそうでない人が会話や交流などをするといった限定的な意味で理解されることがありますが、そのような狭い概念ではありません。認知症を他人事として捉えるのではなく、社会全体で共有すべき課題として向き合うことが共生の本質です。認知症になったからといって、それまでの役割や生活が急に失われるべきではありません。本人の意思を尊重し、その人が望む生活をできる限り続けられるよう、本人が地域の中で役割を持ち続けられる環境づくりが求められているのです。

認知症基本法や認知症施策推進基本計画は、認知症とともに生きる社会を実現するために示された重要な枠組みです。これらは、医療や介護にとどまらず、地域や企業、行政を含めた社会全体で認知症を支える仕組みを整えることを目的としています。こうした法や計画があることで支援の輪が広がり、本人や家族が安心して暮らせる社会づくりが進んでいくと考えています。

認知症とともに生きる社会を実現するために、私たちはどのように認知症と向き合うべきですか?

認知症とともに生きる社会を実現していくためには、まず「認知症を知ること」が前提になります。多くの方が、認知機能が徐々に低下し、日常生活にさまざまな障害が生じる、という大まかなイメージは持っています。しかし、どのような原因で、どう進行し、なぜその症状が起こるのかといった背景に関する理解には、ばらつきがあります。

認知症を正しく知ることが、向き合い方を考える第一歩になります。そして、個々の人に焦点を当てた関わりへとつながっていきます。

認知症になったからといって、すべてのことができなくなるわけではありません。住み慣れた地域で仲間とつながりながら、自分らしく暮らし続けるという考え方は、広がり始めています。そのためには、病気そのものだけを見るのではなく、その人の人生や想いに寄り添うことが大切です。

具体的には、「どのようなことが好きなのか」「どのような役割を続けたいのか」を知ろうとすることが、向き合う第一歩になります。周囲が支援することで、趣味や地域社会の中での役割を続けられる場合も少なくありません。認知症と向き合う際には、まずその人を理解すること。そして、その人らしさを尊重するという姿勢が欠かせません。

認知症について正しく知り、そのうえで個々の人に寄り添う姿勢を持つこと。この二つが結びつくことにより、認知症の人も希望をもって地域で暮らし続けられる社会に近づいていくのだと思います。

認知症になってからも自分らしく暮らし続けるために、社会全体でどのような仕組みが求められるでしょうか?

認知症になってからも自分らしく暮らし続けるためには、医療・介護・行政・地域が連携し、支援の仕組みを一体的に整えていくことが求められます。医療者は診断や治療を担い、介護者は日常生活の支援を行い、行政は相談窓口や地域包括ケアの体制整備などを進めていきます。それぞれの専門性に基づいて連携していくことで、認知症の人が生活の基盤を維持しやすくなります。

また、本人が社会参画できる環境づくりも重要です。地域活動への参加支援や、本人の意見がまちづくりや支援の仕組みに反映される仕組みは、自分らしさを保ちながら暮らし続けるうえで欠かせません。政府でも当事者参画型のモデルが推進されており、本人が社会に参画している、自分の声が届いている、と実感できる環境が必要とされています。

現在、複数の省庁が横断的に取り組みを進めており、その方針を受けて自治体が都道府県計画や市町村計画を策定し、地域で具体的な施策として展開する流れが整えられてきています。すでに利用可能な仕組みも数多くありますが、一方で、認知症の人やその家族の方々がそれらを「知らない」というインフォメーションギャップが存在します。これは大きな課題です。せっかく仕組みが整備されつつあり、活用されれば認知症の人や家族が日々の暮らしを続けやすくなる可能性が十分にあるにもかかわらず、情報が届かず利用に至らないという現状があります。

このインフォメーションギャップは、共生社会の実現に向けて極めて大きな課題であると感じています。認知症になってからの暮らしを支える仕組みを整えるだけでなく、それらの情報が確実に本人や家族、地域社会に届くことが、自分らしい生活を続けるために不可欠だと考えます。

大塚製薬が掲げる『認知症を孤独な病気にしない』というメッセージは、どう受け止められましたか?

認知症というテーマを考えるとき、重要なのは、これを単なる医療・介護・福祉の課題として捉えるのではなく、より広い社会課題として理解することだと思います。認知症の人や家族、支援者が孤立してしまう背景には、偏見や情報不足など、複数の要因が存在します。

とりわけ孤立という状況には、スティグマ※が影響していることがあります。人は、戸惑いを覚える状況や、どう受け止めてよいか分からないものに直面すると、心理的な距離を置いてしまうことがあります。そうした積み重ねが、結果として孤独にしてしまう一因になり得ます。

だからこそ、認知症のさまざまな側面を知り、周囲の人も、私自身も含めて、できる限り理解を深め、積極的に関わっていく姿勢が大切になります。こうした関わりが、孤立させず、社会の中でつながりを保ちながら暮らしていける環境につながるのではないでしょうか。

この「問い」は、情報不足によって生じる構造的な孤立を見つめ直し、社会全体が関係性を再構築していくための一つのきっかけにもなり得ます。あわせて、この特設サイトを通じて多くの方に認知症について知っていただくことで、社会全体の議論が深まることに少しでも貢献できるといいですね。

孤立を防ぐことは、本人の尊厳を守るだけでなく、家族や支援者の心理的負担を軽減し、つながりを保ちながら暮らしていくための基盤にもなります。こうしたつながりが共生や共創を支える土台となり、孤立せずに暮らし続けられる社会づくりにも寄与するのではないでしょうか。

※特定の属性(病気、障害、人種、階級など)を持つ個人や集団に対し、周囲が否定的な意味づけや誤った認識を行い、不当な差別・偏見を与えること。

認知症とともに生きる未来に向けて、社会全体に最も伝えたいメッセージは何ですか?

認知症とともに生きる未来を考えるとき、社会全体にお伝えしたい最も重要な点は、認知症について正しく知っていただくこと、そしてその理解を基盤に、研究をともに進めていただくことです。認知症は脳の病気であり、研究は日々進展しています。その成果を社会の仕組みにどのように生かしていくかが、これからの大きな課題になります。まずは基本的な部分を押さえていただき、そのうえで何が必要なのか、何ができるのかを議論できるようになることが大切だと考えています。科学的知見と社会的な取り組みが連携してこそ、共生社会への道が開けるはずです。

こうした視点に立つと、研究の在り方そのものについても、常に問い直す必要があります。研究はさまざまなレベル、さまざまな分野で行われていますが、私は共生というテーマを軸に、それぞれの研究がどのように位置づけられるのかを振り返ることが重要だと感じています。直接的に共生に関わる研究もあれば、一見すると関連が薄いように見える研究もあるかもしれません。しかし、それらを共生という枠組みの中で捉え直したとき、どのような意義が得られるのか。こうした振り返りは、研究者にとって欠かすことができません。たとえば、研究について興味を持っていただくことだけでも大きな共生の一歩ですし、治験などに参加していただくことはより積極的な取り組みとなります。

また、こうした社会的課題に向き合うにあたっては、研究や企業活動の連携など、さまざまなステークホルダーの連携が重要です。企業がそれぞれ独立して取り組んでいるだけでは力が分散し、十分な成果につながりません。症状改善薬に取り組む企業と基礎研究を担う企業など、立場の異なる組織が連携して動ける枠組みが整えば、お互いにとって大きなメリットが生まれます。研究の進展を社会の仕組みに反映させ、支え合いの輪を広げていくためにも、こうした連携は欠かせません。

研究の進展によって認知症の理解や対応の選択肢は確実に広がっています。こうした知見を踏まえ、社会が認知症について適切に理解し、研究への協力を含めながら議論を深めていくことが、共生に向けた取り組みを着実に前へ進める基盤になります。私は、こうした協働の積み重ねによって、認知症とともに生きる未来をより確かなものにしていきたいと考えています。