大塚製薬 認知症特設サイト・インタビュー
できることを、一緒に。
認知症と向き合う家族の視点から
できることを、
一緒に。
認知症と向き合う
家族の視点から
和田 誠 代表理事
認知症の人が自分らしさを失わずに暮らし続けるために、ご家族や支援者の方々が特に大切にして頂きたい姿勢や関わり方について教えてください
まず申し上げたいのは、認知症と診断されても、その方の人格や価値観が変わるわけではないということです。
認知症になってからも、その方は、自身の人生の主人公です。私の家族の場合でも、父は父のままだったのです。家族や支援者はその事実を心に持ち続けることが大切だと考えています。
この経験から、特に大切だと考える3つの姿勢についてご紹介します。
・できること・やりたいことを一緒に見つける姿勢
認知症になったとしても、本人は自分のことは自分で決めたいと考えています。ご家族は不安になると思いますが、本人が「何ができるか」、「何をしたいか」、という視点を持つことが、本人の心と自分らしさを支えます。
・本人のペースに合わせる姿勢
介護は効率を求めがちですが、ゆっくり進めることが尊厳を守ります。私たち「認知症の人と家族の会」では待つことが最も大切な支援だと伝えています。言葉を探す時も動作が遅い時も先回りせずに待つことが、「あなたを尊重しています」、というメッセージになります。
・本人を孤立させない姿勢
認知症の最大の課題は孤立だと感じています。一人ではない、つながっている、と実感できることが、その人らしさを支えます。私たちは全国で本人や家族の集いを年間4,300回以上開催し、約45,000人が参加しています。同じ立場の人と出会い、自分だけではない、と気づく経験が人生を前向きに生きる力になります。
介護する側の心身の安定も欠かせません。家族は懸命に支えようとして、自分自身が疲れてしまい、関係が揺らいでしまうことがあります。完璧を求める必要はなく、一緒に笑い楽しむことが大切です。家族だけで抱えず、専門職や地域、仲間とつながることが、家族だけでなく本人の孤立をも防ぎ、その人らしさを守る確かな方法です。
本人が諦めない環境をつくり、それを家族・支援者・社会で支えること。その積み重ねが認知症になってからも安心して暮らせる社会へつながると信じています。
認知症の人やご家族が直面する課題を軽減するうえで、「認知症の人と家族の会」が果たしてきた役割について教えてください。
私たちの会が40年以上続けてきた根底には、認知症になってからも、介護する側になっても、人としての尊厳を守り一人にしないという思いがあります。認知症そのものだけでなく、誰にも話せないという孤立が、本人と家族を苦しめてきました。その孤立を少しでも軽くすることが、私たちが担ってきた最も大きな役割だと考えています。
活動の柱は、集い・会報・電話相談です。集いは、本音を安心して話せる場であり、本人や家族が自分だけではないと感じられる場所です。弱音や失敗も共有でき、仲間に受け止めてもらえることで家族の心が軽くなり、本人への関わり方にも良い変化が期待できます。会報は長年、外に出ていきにくい方の心の拠り所となり、電話相談は「今、誰かに聞いてほしい」「どこに相談していいかわからない」という方にとっての最初の相談先として寄り添ってきました。
さらに、認知症の人と家族の声を制度や社会に届ける役割も担ってきました。認知症基本法において、認知症の人や家族の意見反映や参画が位置づけられるよう働きかけてきました。また、認知症の人が前に出る時代を後押しする活動も続けています。かつては家族が前に出て本人は後ろにいるのが当たり前でしたが、講演・座談会・研究会で本人が想いを語る機会や、ピアサポート※、行政・企業との協働につながる場をつくってきました。こうした取り組みは、認知症になったら何もできないという古い認知症観を大きく変える力になっています。
これからは、若年認知症の人、ヤングケアラー、シングル介護など、支援が届きにくい方々への取り組みをさらに進めていきます。誰もが自分事として認知症を捉え、支え合う社会を目指し、本人・家族・地域・行政・企業の皆さんとともに歩み続けたいと考えています。
※同じ経験を持つ人が、その経験を生かして他の人を支える相互支援のこと。
認知症とともに生きる社会の実現に向けて、和田代表ご自身が大切にしてこられた想いや、「認知症の人と家族の会」として守り続けたい価値観は何でしょうか?
私が大切にしてきたのは、本人と家族がそれぞれの人生の主人公であり続ける社会を実現したいという思いです。「認知症の人と家族の会」の理念には、「認知症になったとしても、介護する側になったとしても、人としての尊厳が守られ、日々の暮らしが安穏に続けられなければならない」という一文があります。私たちの判断や行動の基準は、常に本人と家族が幸せになるかどうかにあります。私はこれを、決して忘れてはないようにしたいと思っています。
さらに、私たちが守り続けたいことは本人と家族の心から離れないことです。そして、互いに励まし合い、助け合いながら実りある人生を続けていこうとする価値観です。認知症になったからといって人生が終わるわけではありません。介護する側になったからといって、自分の人生をあきらめる必要もありません。互いに支え合いながら生きていくその姿勢を、活動を通じて、これからも形にしていきたいと考えています。
認知症とともに生きる社会は、一朝一夕には実現しません。ときには後戻りしそうになることもあるでしょう。それでも、認知症になってからも、介護する側になってからも、人としての尊厳が守られる社会をつくるという原点を忘れず、本人・家族・社会全体とともに歩み続けたいと思っています。その思いを胸に、これからも代表理事としての役割を果たしていきます。
大塚製薬が掲げる『認知症を孤独な病気にしない』というメッセージや認知症への取り組みについて、どのような部分に期待したいと思いますか?
この問いをいただいて最初に強く感じたのは、「ようやくここまで来たか」という想いです。製薬企業が自社の薬のことだけでなく、「認知症を孤独な病気にしない」という関係性の領域に踏み込み、正面からメッセージを掲げたことは、非常に大きな意味を持つと受け止めています。
認知症は絆がほどけていく病気でもあります。本人と家族、家族と社会のつながりが弱まり、誰もが孤立していく姿を、現場で見てくる中で、私たちが40年以上の活動で見てきた最大の課題も孤立でした。本人の孤立、家族の孤立、そして社会の無関心という形での孤立です。その目に見えにくい領域に製薬企業が光を当て、「認知症を孤独な病気にしない」と社会に問いかけていることは、社会全体への大きなメッセージだと思いますし、当事者団体として心強く感じています。
私たちは本人と家族の心から離れないという立場から、これからも率直に意見を交わしながら、共に「認知症を孤独な病気にしない」社会づくりに一緒に取り組みたいと考えています。