私たちの体を守りケアする フェム・ヘルス研究室

2022.5.23

これはPMS? 生理前の「なんだか不調」
〈第1回〉調子は良くない日が多い。
これが私の通常運転。

頭痛や気分の浮き沈み、定期的にやってくる不調は、「体質だから」「生まれつきだから」仕方がないと諦めていませんか? そう受け入れてしまう前に、月経前に起こる不調、「PMS」について知っておきましょう。

PMSを知っていますか? 「月経前症候群」(PreMenstrual Syndrome)、生理の前の不調、ということまでなんとなく知っていても、自分にはあまり関係ない、と思っている人が多いようです。

PMSの症状は、仕事や家事の効率、さらには人間関係にまで影響を及ぼす可能性があり、本人だけの問題にとどまりません。

むくみ、頭痛や腹痛、腰痛などの不快な痛み、イライラや憂鬱の気分の浮き沈み……定期的にやってくるいろいろな不調を、「私の体質だから」「生まれつきだから」、仕方がないと諦めていませんか?

「なんだか不調」というお悩み、それ、実は、PMSかもしれません。そして、PMSは、緩和可能なのです。

CREAがPMSを考えるシリーズ第1回、PMSに詳しい医師・小川真里子先生に、まず基本のお話をうかがいました。

むくみ、頭痛、倦怠感、etc...。その不調、PMSなのでは?

●CREA読者のお悩み ケース1

なんだかいつも不調です。朝からだるい日が多いし、気圧のせいなのか頭痛も多いし、よくイライラしています。病院に行くほどではないと思うんですが、仕事のストレスなんでしょうか……。(会社員 30歳)

――このお悩みに代表されるんですが、女性読者の方々に心身の悩みについて聞くと、健康で問題なし! という方は、まずいないんです。皆さん何かしら不調があって、頭痛、腰痛、肩こり……。仕事をもつ忙しい女性が多いので、ストレスも多いんだと思います。美容的にも、なんだか顔や脚がむくんでいるとか、何歳になってもニキビができるとか……。

小川真里子先生「それは、一度、PMSの可能性も考えてみるのもいいかもしれませんね」

――でも、「PMSがしんどい」と言う人はあまりいないんです。

小川先生「他の病気が原因という可能性もありますが、本当にPMSだとしても、まだまだ結び付けて自覚している方が少ないのが、PMSなんですよ」

――PMSにはどんな症状があるんでしょうか。

小川先生「PMSは、女性ホルモンの変動によって月経前に起こる不調のことで、症状は身体的なものから精神的なものまで幅広く、すべてをリストアップするのが難しいほど。むくみ、頭痛、倦怠感、不眠、便秘などはPMSの代表的な症状ですが、どれも一般的によくある不調ですよね? だからこそ、それらの不調とPMSを結びつけて考える、という発想に至らない方が多いんです」

ーー生理は明らかに自覚ができますが、生理前だと、自分の体が「生理前」であるという認識がないまま、不調とともに過ごす、という人も多そうですね。

小川先生「まさに、PMSだと気づかずに過ごしている人が多いのです。さらに、多くの方が10代前半で初潮を迎え、年月を重ねる中で、体の変化と不調を受け入れ、慣れてしまっているのだと思います。月経前に頭痛がしても『私はそういうタイプ』と受け入れて我慢してしまう。婦人科を受診して治そうと考える人も、そもそも、その不調が治せると知っている人も、少ないのではないでしょうか」

この不調がPMSなのか、自分でわかる?

――不調がPMSによるものかどうか、自分で判断できるものですか?

小川先生「チェックするポイントは2つあります。まず、月経の3〜10日ほど前から症状が出て、月経が始まると波が引くように症状が治まっていくこと。そして、毎月このサイクルを繰り返していること。この2点に当てはまれば、どんな症状でも、PMSの可能性が高いです。手帳にメモするなどして、体調やメンタルの不調と月経の関連性をみていくと、『私のこの不調はPMSかも』と気づけるはずです」

ーー原因がPMSだとわかれば、対処できることもありますね。

小川先生「不調の原因がPMSだとわかっただけでストレスが減って、結果的にPMSの緩和につながったケースも実際にありますし、今は低用量ピルなど、治療薬の選択肢も多いのです。市販のサプリメントなどを活用して、自分に合った対策を探すこともできます。とはいえ、自己診断だけでなく、遠慮なく病院に行って相談していただきたいです」

ーーPMSは緩和していけるのだと、もっと皆さんに知ってほしいですね。

小川先生「それに、月経前に出やすい症状を把握すると、体調を考慮したスケジュール管理がしやすくなり、余計なストレスを抱え込まずにすむメリットもあります。たとえば、月経前に頭痛が起こりやすいならスケジュールを詰め込みすぎないようにするとか、気が散って集中しづらいなら細かい作業がその時期に集中しないようにやりくりするとか、体調に合わせて予定を調整するだけで、毎日の快適度が向上するはずですよ」

身近な人にぶつけてしまう、イライラの正体は?

●CREA読者のお悩み ケース2

すごくイライラしてしまう時があります。家族にもイライラして言葉がきつくなってしまったり。仕事でも何か言われると、イラッとしているのが顔に出ていそうで、いつかトラブルにならないか心配……。いつも穏やかな人でいたいのに、自己嫌悪です。(会社員 28歳)

――またこれは別の女性、20代の方です。イライラして、しょっちゅう家族に当たってしまっていて、ずっと、「自分の気質」、「自分にこらえ性がないのが悪い」と思ってきたのが、イライラは生理前に起きると気付いたそうです。

小川先生「PMSのせいで、ちょっとしたことにもイラ立って、家族に当たってしまう方は多いんです。そんな”被害”を被っている周囲の人のほうが、本人よりも先にメンタルのPMS症状に気づくパターンもあります。家族やパートナーに『もしかして、生理前?』と言われて、自分のイライラが月経前に集中して起こることに気がつき、受診するきっかけになったという方もよくいらっしゃいます」

――この方は、最近、クリニックに行ってPMSと診断されて、お薬を飲み始めたら、あきらかに効果があったそうです。生活が楽になって本当によかったと言っていました。

PMSが起こるのはなぜ? 「むくみ」が鍵!?

小川先生「なぜ月経前に不調が表れるのか、実はまだ解明されていないことも多いんですよ」

――えっ、女性ホルモンの変動のせいではないんですか?

小川先生「そうですね、不調が出やすいのは女性ホルモンの中でも黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が増える黄体期なので、PMSと何か関係しているであろうと考えられてはいますが、具体的にどう作用しているのかまでは解明されてはいないのです」

小川先生「また、むくみというのがPMSの症状のひとつですが、このむくみが頭痛やイライラなど、他の症状を引き起こしている可能性もあるんですよ」

ーーむくみが、イライラの原因になるんですか!

小川先生「体内に水分が溜まるのがむくみです。その水分貯留が頭痛を引き起こしたり、イライラを引き起こしたりする可能性もあると考えられているのです。実際、月経前の『むくみの症状』と『否定的な感情』に相関が見られたという調査があります」

ーーむくみ、つまり水分が、体内でパンパンになって痛みを引き起こすのは、言われてみればイメージが湧きます。でも、むくみとイライラの関係は意外でした!

小川先生「だから、PMSには、むくみ対策も鍵になりますね。ビタミンEの一種である『γ(ガンマ)-トコフェロール』、『γ(ガンマ)-トコトリエノール』に、むくみを軽減する作用が期待できるとされているので、配合されたサプリメントを活用してもいいと思います」

ーー仕事が忙しすぎるとか、ストレスなどもPMSに関係ありそうですよね。

小川先生「ホルモンの分泌をコントロールしているのは自律神経ですから、その働きと何か関連があると考えるのは自然なことだと思います。さらに、疲労やストレスなどの環境要因がPMSの症状をより強くしてしまうのではとも考えられています」

ーー生活の中で気を付けるといいことはありますか?

小川先生「自律神経のバランスを保つアプローチを心がけたり、ストレスを軽減する工夫を施すだけで、PMSが軽減するケースもありますよ。朝起きたら朝日を浴びるとか、ウォーキングをするとか、できることはたくさんあります。私が特におすすめしたいのは、1日のうち10〜15分でいいので、何もしない時間を作ること」

ーー何もしないのが意外に難しかったりしますよね…。

小川先生「気が付くとスマホをいじっていたり、頭では仕事のことを考え続けていたり、現代の生活では刺激やストレスから離れることが思いのほか難しいですね。だからこそ、10~15分の一定時間、強制的に自分と向き合う瞑想のような時間を持ってみてください。体の力を抜いて頭を休めることが、自分をいたわることにつながりますよ。何よりまず、PMSは緩和できるのだと認識して、積極的に対処していくことをぜひ検討してみましょう。そして、ご自身がしんどいと思うなら、いつでも病院に行っていいのだと、ぜひ覚えていてくださいね」

●お話を聞いたのは……東京歯科大学市川総合病院 産婦人科准教授小川真里子先生

福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学産婦人科を経て、2007年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教、11年同講師、16年より現職。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本心身医学会心身医療専門医、日本女性心身医学認定医などの資格を持ち、PMSや更年期などの診療にあたる。