大塚製薬株式会社

医療関連事業
2011年5月16日

新規抗精神病薬「OPC-34712」の大うつ病に対する臨床第II相試験で、有用性を確認
第164回米国精神医学会議(APA)にて試験結果を発表

大塚製薬株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:岩本太郎)と当社の米国現地法人 大塚ファーマシューティカルD&C Inc.(本社:ニュージャージー州プリンストン、プレジデント兼CEO ウィリアム H. カールソン、以下「OPDC」) が開発を進める、新規ドパミンD2受容体パーシャル・アゴニスト「OPC-34712」に関する臨床第II相試験の結果を本日第164回米国精神医学会議(APA*1)2011年度年次総会にて発表しましたのでお知らせします。

  • *1: APA(American Psychiatric Association)

「OPC-34712」は、既存の大うつ病の補助療法に比べ、優れた有効性と忍容性(例:アカシジア、落ち着きのなさ、不眠が少ない 等)を提供できる精神疾患の治療薬を目指して開発が進められている新規化合物です。モノアミン系に対し幅広い活性を持ち、ドパミンD2受容体におけるパーシャル・アゴニストとしての活性が小さく、特定のセロトニン受容体(5HT1A、5HT2A、5HT7)への親和性を強く示すという特性を持ちます。

このたび、APAで発表になった臨床第II相試験では、6週間にわたる二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験として「OPC-34712」の評価をしています。その結果、プラセボ投与群に比較し、既存の抗うつ薬で十分な効果が得られなかった成人の大うつ病患者さんへの補助療法として、1日1.5±0.5mg の「OPC-34712」投与群で主要評価項目であるMADRS*2総合スコアが改善しました(p=0.0303)。
本試験の結果を受け、OPDCのプレジデント兼CEO ウィリアム H. カールソンは、「今回の試験結果は、『OPC-34712』の開発コンセプトを実証し、従来の抗うつ薬治療では効果が不十分な患者さんへの大うつ病治療の補助療法としての可能性を示すものです。『OPC-34712』の開発を自信を持って臨床第III相試験に進めることができる、重要な結果を得る事ができました。」と述べています。

  • *2: MADRS (Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale; モンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度); うつ状態を評価するための10項目の評価尺度

本試験結果は、治験担当医師であり、ペンシルバニア大学医学部精神医学科のマイケル・E・セイス教授により発表されました。セイス教授は、「既存の抗うつ薬による治療で十分な効果が得られない大うつ病を患う多くの患者さんが依然として存在する中、補助療法として新たな化合物の開発が待ち望まれています。この結果は、既存の抗うつ薬による治療であまり効果が得られなかった患者さんに対する上乗せ治療の有用性について、我々の知見をさらに一歩進めてくれる結果となりました。」と述べています。

現在当社は、「OPC-34712」に関し、統合失調症ならびに大うつ病の補助療法に対する臨床第III相試験の準備を進めており、成人の注意欠陥多動性障害(ADHD)の補助療法に対する臨床第II相試験を実施しています。

大塚製薬は'Otsuka-people creating new products for better health worldwide'の企業理念のもと、世界の人々の健康に寄与してまいります。

「OPC-34712」の臨床第II相試験の概要

試験デザインについて

「OPC-34712」の臨床第II相試験は、多施設無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験として、これまで複数回(1~3回まで)にわたり、抗うつ薬単剤による治療では十分な効果が得られなかった大うつ病の成人患者さんを対象に実施されました。試験は、標準的な抗うつ薬への補助療法として、「OPC-34712」の有効性および安全性を評価するようにデザインされています。標準的な抗うつ薬としては、デスベンラファキシン、エスシタロプラム、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシンが用いられています。

本試験は、3つの段階からなる試験としてデザインされています。第一段階として、最初の7~28日間は、うつ症状に対し、これまでの抗うつ薬が十分に効果を発揮していない患者さんをスクリーニングしています。第二段階では、8週間の前向き試験として、単盲検下で既存の抗うつ薬への反応を評価しています。最後の第三段階では、6週間の無作為化試験として、既存の抗うつ薬に十分な効果を示さなかった患者さんを「OPC-34712」投与群ならびにプラセボ群に無作為に割り付け、二重盲検下で評価が行われています。8週間の単盲検下における抗うつ薬への不十分な反応の定義は、ハミルトンうつ病評価尺度の減少が50%以下と定めています。最終段階の無作為化の割り付けにあたっては、患者さんは3用量の「OPC-34712」群(0.15mg :62名、0.50±0.25mg:120名、1.5mg±0.5mg:120名)およびプラセボ群(126名)のいずれかに割り付けられています。

有効性の評価について

主要評価項目としては、無作為化から6週時点でのMADRS総合スコアの平均変化を評価しています。本試験は、プラセボに比較し、「OPC-34712」の0.50mg/日 投与群および1.5mg/日 投与群の有効性を分析することを目的として実施しています。その結果、「OPC-34712」1.5mg/日投与群ではMADRS総合スコアの改善がプラセボを上回りました(p=0.0303)。一方、「OPC-34712」0.50mg/日 投与群では、プラセボ群と比較し、MADRS総合スコアの差はありませんでした(p>0.05)。

安全性の評価について

本試験を最後まで終了した被験者の割合は82~87%と、全ての治療群で同様に高く、全般的に高い忍容性が認められました。副作用による中断は、全治療群で低く(0.8~3.2%)、プラセボ群では0.8%でした。「OPC-34712」投与群3群を合計して、5%以上の頻度で報告された有害事象(以下、括弧内はOPC-34712群:プラセボ群)は、上気道感染症(6.9%:4.8%)、アカシジア(6.6%:3.2%)、体重増加(6.3%:0.8%)、および上咽頭炎(5.0%:1.6%)でした。無作為化から最終観察時点までの体重の平均変化は、プラセボ群で0.77kg、0.15mgの「OPC-34712」投与群で0.91kg(p>0.05)、0.50mgの「OPC-34712」投与群で1.33kg(p<0.05)、1.5mgの「OPC-34712」投与群で1.66kg(p<0.05)でした。

大うつ病について

大うつ病性障害は、単回あるいは複数回のうつ病の症状で規定される疾患です(少なくとも2週間にわたる気分の落ち込みや興味の喪失に付随する少なくとも4種類のうつ症状)。米国では、約1,420万人*1の成人がこの疾患を抱えており、抗うつ薬による治療を受けています。
うつ病の治療には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)といった抗うつ薬が処方される事が一般的です。一方、多くの患者さんで十分な効果が得られないことがあります*2。
うつ病は米国において身体障害の最大の原因のひとつです。2000年には、うつ病の治療のための経済的な損失額の合計は、831億ドルに上るとされており、欠勤や疾患による生産性の低下など職場におけるコストがその62%を占めるといわれています。その他、31%にあたる261億ドルは治療に、54億ドルは自殺に起因する費用と推計されています*3

  • *1. Kessler, RC, Berglund, P, Demler, O, et al. The Epidemiology of Major Depressive Disorder Results From the National Comorbidity Survey Replication (NCS-R). JAMA. 2003; 289: 3095-3105.
  • *2. Rush, A, Trivedi, MH, Wisniewski, AA, et al. Acute and Longer-Term Outcomes in Depressed Outpatients Requiring One or Several Treatment Steps: A STAR*D Report. Am J Psych. 2006; 163: 1905-1917
  • *3. Greenberg, P. Kessler, R. et al. The Economic Burden of Depression in the United States: How Did It Change Between 1990 and 2000? J Clin Psychiatry. 2003; 64: 1465-1475.