大塚製薬株式会社

医療関連事業
2012年11月5日

遺伝性疾患である常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)を対象とした
トルバプタンの臨床第III相試験で主要評価項目を達成

  • 頻度の高い遺伝性の病気である常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、腎臓に多数の嚢胞ができ腎臓が大きくなる病気で、進展すると腎機能が次第に低下し、その結果、透析や腎移植などが必要となる深刻な疾患。現在、有効な治療薬は無い
  • トルバプタン(一般名)は、プラセボと比較して、ADPKD患者さんにおける腎臓の容積の増加率を約50%抑制
  • 試験結果は2012年度の米国腎臓学会議にて発表。またニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌オンライン版に掲載。今後、本試験結果を基に世界で承認申請を予定

大塚製薬株式会社(本社:東京都、代表取締役社長:岩本太郎)は、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD*1)を対象としたトルバプタン(一般名*2)の臨床第III相試験の結果が、サンディエゴで開催された米国腎臓学会議の年次総会にて11月3日(現地時間)に報告され、またニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌のオンライン版*3に掲載されましたのでお知らせします。

ADPKDは、腎臓に多数の嚢胞ができ腎臓が大きくなる病気で、高血圧や腎臓の痛み等を特徴とし、次第に腎機能が低下し、最終的に腎不全に至る遺伝性の疾患です。ADPKDは遺伝性の疾患のなかでも頻度が高く1,000〜4,000人に1人が患っていると推定されています。

この試験は、世界15カ国1,400名以上のADPKD患者さんを対象に3年間にわたりトルバプタンもしくはプラセボが投与された国際共同試験(TEMPO 3:4試験*4)です。本試験では、ADPKDに対する有効性と安全性、およびADPKDに伴う合併症の評価が行われました。その結果、トルバプタンは、プラセボと比較し腎臓の容積の増加率を約50%有意に抑制することが示されました。トルバプタンは、選択的にバソプレシンV2-受容体を阻害することによって、腎臓の嚢胞の増殖と増大を抑え、疾患の進行を遅らせると考えられています。

メイヨー・クリニックの腎臓・高血圧内科の教授であるヴィセンテ E. トーレス医師は、「ADPKDは、腎不全に至る遺伝性疾患であり、透析の原因疾患として4番目に多いことが知られています。この病気は腎臓で嚢胞が増殖し続け、腎組織を傷つけ、高血圧や激しい腎臓の痛みなどの合併症を引き起こします。今回の試験結果は、トルバプタン投与により嚢胞の増殖を遅らせ、腎機能の低下を遅らせることが明らかとなったばかりではなく、嚢胞の増殖に伴う腎臓の痛みを減らすことも認められました。この結果は、ADPKDを患っている患者さんにとって、腎不全の進行を遅らせ、最終的には透析への移行を防ぐことができる可能性を示す重要なエビデンスです。」と述べています。

大塚ファーマシューティカルD&C Inc.の社長兼CEOのウイリアムH. カーソンは、「今回の試験では、世界での承認申請に値する結果が得られました。トルバプタンは、日本の大塚製薬によって創製された化合物で、承認されればADPKDで苦しむ患者さんにとって世界で初めての治療薬となります。われわれは今後も大塚製薬にしかできない、ものまねをしない研究開発により患者さんへの貢献を目指します。」と述べています。

  • *1:Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease
  • *2:本剤は現在開発中で、販売名は未定です。
  • *3:www.NEJM.org
  • *4:Tolvaptan Efficacy and Safety in Management of Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease and its Outcomes

試験デザインと結果

TEMPO 3:4試験は、日本を含めた世界129の医療機関で行われた二重盲検プラセボ対照並行群間第III相試験です。本試験ではトルバプタンのADPKDに対する有効性と安全性が評価されました。合計1,445名のADPKD患者さん(18-50歳の男女)が登録され、うち961名はトルバプタン群(朝夕1日2回45 mg/15 mg、60 mg/30 mgまたは90 mg/30 mg)に、484名がプラセボ群に振り分けられ、3年間にわたり服薬を続けました。

主要評価項目は、プラセボ群に対するトルバプタン群(全ての用量群)の両腎容積の変化率としました。副次評価項目では、ADPKDの進展に伴いみられる高血圧、腎臓痛、アルブミン尿、腎機能悪化のいずれかが発現するまでの時間や、血清クレアチニン値から計算される腎機能の悪化の程度を評価しました。

主要評価項目である両腎容積の変化率(年率)は、プラセボ群が5.51%の増加であったのに対し、トルバプタン投与群は2.80%の増加であり有意な変化率の減少(49.2%)が認められました(p<0.001)。

副次評価項目では、ADPKDの進展に伴い高血圧、腎臓痛、アルブミン尿、腎機能の悪化のいずれかが発生する割合は、トルバプタン群でプラセボ群に比べて有意に低下しました(hazard ratio = 0.87、95% CI: 0.78-0.97、p=0.0095)。これら4つのイベントの中で、トルバプタン群ではプラセボ群と比較して、腎機能の悪化のリスクは61%(hazard ratio = 0.39、CI: 0.26-0.57、p<0.001)、腎臓痛の発現するリスクは36%抑えられました(hazard ratio = 0.64、CI: 0.47-0.89、p=0.007)。更に、腎機能が低下する速度を有意に抑えることが示されました(腎機能の指標として血清クレアチニン値の逆数を用いました。その場合1年当たりに腎機能が低下する速度はプラセボ群で-3.81(mg/mL)-1に対してトルバプタン群で-2.61(mg/mL)-1でした。p<0.001)。

本試験では、試験に参加した患者さんの80.1%(1,157名)が3年間継続して治験薬を服用しました(トルバプタン群77%、プラセボ群86.2%)。プラセボ群と比較してトルバプタン群では、水利尿作用による副作用を原因とした服薬中断が多くみられました(15.4%対5.0%)。頻度の高い副作用(>10%以上でかつプラセボに比較し有意に発生するもの)としては喉の渇き(55.3%対20.5%)、多尿(38.3%対17.2%)、夜尿(29.1%対13.0%)、頻尿(23.2%対5.4%)、多飲症(10.4%対3.5%)があげられます。一方、プラセボ群で多くみられた副作用には腎臓痛、血尿、尿路感染症があげられます。また、血清ナトリウム値の上昇(4.0%対1.4%)、尿酸値の上昇(6.2%対1.7%)、そして肝機能の指標であるALTまたはASTの上昇(4.7%対1.7%)といった臨床検査値の異常がトルバプタン群で多くみられました。

ADPKDについて

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、遺伝性あるいは遺伝子の変異により、腎臓に非悪性の嚢胞が多数発生する病態で、1,000〜4,000人に1人が患っていると推定されています。左右の腎臓で嚢胞が増殖し増大していくなかで腎機能は徐々に悪化し、50%近くの患者さんが末期腎疾患あるいは腎不全に陥ると言われています。ADPKDの症状は多くの場合、成人してから発現します。