〜注目の栄養素を深堀り!〜

研究室

ビタミンDが
妊娠率アップ&
流産率ダウンに関連あり

ビタミンD
驚きの研究結果とは!?

体外受精で生まれた子どもの年別の推移

体外受精で生まれた子どもの年別の推移
出典:日本産科婦人科学会

現在、日本における体外受精の治療件数は年間約45万件、生まれる子どもの数は5万人を超え、16人に1人が体外受精児です。※1こうした生殖補助医療(ART)は保険の適用外で1回あたりの平均費用は体外受精が38万円、顕微授精が43万円にも上る※2ことから、昨年、菅義偉首相が不妊治療の保険適用の拡大を掲げ、世間の関心が高まっています。
そんな中、ビタミンD充足群と未充足群を比較したところ、着床率・妊娠率・出生率、流産率に差が見られ、ビタミンDの状態とARTの治療結果に関連性が見られました。

  • 体内のビタミンD充足群は、着床率、妊娠率・出生率の向上に関連することが確認された
  • 更に、流産率(化学流産・自然流産)
    減少傾向にも関係
  • 免疫力が低下する妊娠中も
    感染症対策にビタミンD摂取がおすすめ
※1 日本産科婦人科学会「令和元年度 倫理委員会 登録・調査小委員会報告(2018 年分の体外受精・胚移植等の臨床実施成績)」
※2 平成30年度厚⽣労働科学研究「不妊に悩む⽅への特定治療⽀援事業」のあり⽅に関する医療政策的研究」 研究代表者︓前⽥恵理(秋⽥⼤学)

ビタミンDとは

ビタミンDは骨の成長を促進する作用や、血中カルシウム濃度を調節する役割のある脂溶性ビタミンです。またウイルスや細菌などの感染防御作用として免疫機能を高める働きも注目されています。そして、妊娠率や妊娠継続率にもビタミンDが関係することが明らかになりました。

ビタミンDの基本情報はこちら

ビタミンDと生殖補助医療(ART)の結果

出典:Vitamin D and assisted reproductive treatment outcome: a prospective cohort study.

ビタミンD充足群と未充足群では
着床率・妊娠率・出生率、流産率
差が見られ、ビタミンDの状態と
ARTの治療結果に関連

イギリスで2019年、体外受精や顕微授精など生殖補助医療(ART)の治療結果とビタミンDとの関連を調査した論文が発表されました※1。この論文の中で、体外受精を受けた500名の女性を血中ビタミンD濃度により3群(血中25(OH)D濃度が20ng/ml未満をビタミンD「欠乏群」、21-29ng/mlを「不足群」、30ng/ml以上を「充足群」と日本内分泌学会の指針とほぼ同じ区分)に分け、臨床成績を比較しました。

今回の研究に際し、対象者のビタミンD濃度を見てみると、欠乏群は53.2%、不足群は30.8%と全体の84%にも上り、ビタミンDが充足状態にある群はわずか16%と少ない状況でした。出生率で比較してみると、ビタミンD欠乏群、不足群、および充足群でそれぞれ23.2%、27.0%、および37.7%という結果となりました。着床率や妊娠率に関しても同様に、ビタミンD充足群がそれぞれ最も高い成績(48.1%、41.6%)を示し、欠乏群の成績を15ポイント以上も上回るなど、3グループ間で統計的に有意な差が検出されました。この結果と、ビタミンDの酵素と受容体が子宮内膜で発見されていることから、受精卵の着床にはビタミンDが重要な役割をしていると考えられています。さらに、流産率も充足群が最も低い結果となり、血中ビタミンD濃度の状態と妊娠および出産の可能性との間に関連性が見られました。また、ビタミンD欠乏状態では、子宮内膜症や多嚢胞卵巣症候群など不妊症の原因となる疾患リスクが高まるという報告もあります※2

※1 Justin Chu Reprod Health.2019; 16: 105.
※2 Chu J, Gallos I, Coomarasamy A. et al. Hum Reprod. 2018;33(1):65-80.

慢性的な
ビタミンD不足の日本人

「平成30年国民健康・栄養調査結果の概要」(1歳以上の男女計6,926人)によると、1人1日あたりのビタミンD平均摂取量は6.6㎍と、妊婦・授乳婦および成人の摂取目安量8.5㎍に対して不足しています。ビタミンDは太陽光線を浴びると皮膚で産生されますが、太陽光の照射時間は季節や地域により差があります。そのため、毎日の食生活から積極的にビタミンD を含む食品を摂ることが重要です。

ビタミンDの摂取目安(μg/日)

血清25(OH)D値とビタミンD10充足度の関係(概念図)
出典:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
補足:日本骨粗鬆症学会の治療ガイドライン2015年版では、10-20㎍/日の摂取を推奨している。ビタミンDは紫外線により体内で作られるので、その量を差し引き、1日の摂取目安量を8.5㎍/日とした。「日本人の食事摂取基準(2020年版)ビタミンD摂取目安量の策定概要」
ビタミンDが豊富な“魚やきのこ”の食材を油を使った料理で効率的に摂取

ビタミンDが豊富な
“魚やきのこ”の食材を
油を使った料理で効率的に摂取

乳児の体内ビタミンD量は母親のビタミンD量によって決まります。特に、妊娠中期の母親のビタミンD量は新生児の成長に関係するため、不足しないように注意が必要です。ビタミンDは魚やきのこ類、卵黄などに多く含まれます。ビタミンDは脂溶性なので、炒め物や揚げ物など油を使う料理でより効率的に摂取できるようになります。

監修:
東京大学医学部産婦人科 
教授 大須賀穣先生