コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第28回 
AI時代のエリートスキルは、なんと女子力だった!

米国のOpenAIが開発した「ChatGPT」など、さまざまなコンテンツを生み出すことができる「生成AI」が話題になっています。生成AIを使いこなすコツは、なんと「女性脳」。黒川さんに紐解いてもらいましょう。

生成AIを使いこなす能力

2023年8月7日、経済産業省がAI人材育成の新たな指針策定に乗り出したことが発表された。その方針の中で、生成AIを使いこなす人材に必須のスキルとして、対話力が挙げられている。脳科学的に厳密にいえば、「母語の対話力」であり、「質問力」と言い換えてもいい。
さらにもう一つ、「物事を批判的に考察する力」も必須とされている。脳科学的に厳密にいえば、「疑う力」。つじつまの合わない何かを直感でとらえるセンスである。何せ、生成AIは平気で嘘をつくからね。
デジタル・テクノロジーが究極にまで進化してきた今、人間に必要とされているのは、デジタル・リテラシーなんかじゃなく、「対話力」と「疑う力」――そう、私たち女性が、何千年も得意としてきた脳の使い方なのである。

弊社の生業であるネーミングの現場では、既に、生成AIが大活躍してくれている。
新商品の名称を発案する現場では、ネーミング対象の新規性や将来性を策定し、ネーミングの方向性を定めたら、その後、名称候補を考案するフェーズに入る。ここは従来は人海戦術だったのだが、なんと生成AIが大得意なのだ。
こちらがうまく質問してやれば、素敵な名称候補をいくつも挙げてくれる。それに触発されて、人間の側のアイデアも溢れ出る。非常にクリエイティブな相棒なのだ。語彙が豊富どころか完璧(あらゆる言語のあらゆるワードを知り尽くしている)なのだから、人間が叶うわけがない。
ただし、全知全能のAIは、なんでも答えてくれる代わりに、つまらない質問にはつまらない答えしか返ってこない。「うわ、これいいね」を得るには、人間の側に質問力が要るのである。わが社のチーフ・ネーミング・デザイナーには、その能力があるが、私にはないらしい。彼の手元では、チャットGPTが有能なコピーライターになるが、私の手元ではそんなわけにはいかない。
第28回 AI時代のエリートスキルは、なんと女子力だった!/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

実行力から対話力へ

私が若き日を過ごした20世紀、社会が企業人に求めていたのは、「言われたことを素直に呑み込んで、シャカリキに頑張れる歯車人間」だった。上司に言われたことに「それって意味あります?」なんて聞き返すことは許されなかった時代だ。けれど、それでよかったのである。あの時代、製品やサービスの機能が単純だったし、デジタルアイテムも未成熟だったので、企業人のほとんどは発想力よりも実行力を求められたのだから。
今や、歯車仕事はAIがやる時代。人間は、AIに何をさせるかを考える側に立つ。何でもできる生成AIに何をさせるか。どんな質問をして、「私だけの素敵な答え」を引き出すか。そこに、人類の知的作業が集約してきた。
さらにもう一つ、生成AIはしれっと嘘をつくので(意図的についているのではなく、連想を重ねていくうちに、嘘になってしまうことがある)、今までの対話の流れや言いぶりから、「これは怪しい」と感じ取るセンス=危機回避力も重要なのである。
対話力と発想力と危機回避力は、同じ脳神経回路を使う。右脳と左脳を連携する回路(プロセス指向共感型回路)である。
この回路は、多くの女性が、基本の優先回路として使っている。理由は、生殖の役割に適した回路だからだろう。人類の子育ては、女たちのコミュニティの中で遂行されてきた。おそらく、対話力があり、想像力が働き、危機回避力が高い女性たちが、無事に子どもを育て上げる確率が高く、遺伝子を多く残してきたはず。その結果、21世紀に、プロセス指向共感型回路を優先して使う女性が圧倒的に多いのである。今生、子どもを持たなくても、この能力は大いに発揮できる。
豊かな対話力でクライアントのニーズを引き出し、しなやかに発想を広げ、AIにうまく質問してヒットを飛ばす。それこそが21世紀のビジネスエリートの脳の使い方だ。男女雇用機会均等法から40年近く経ってやっと、「女性が、女性らしい感性のまま、無理せず活躍できる」時代がやってきたのである。
ちなみに、男性も共感を教わって育つと、その能力は高くなる。なんなら二次的に手に入れた男性たちのほうが、意図的に、自由自在に使えたりしている。
対話力は「共感」してもらうことで育ち、質問力は「質問」を祝福されることで育つ。幼子のどんな質問も「そう来たか(笑顔)」「いいところに気づいたね」と喜んであげたい。自分自身のAIとの対話もさることながら、子どもや部下への口の利き方も気を付けないといけないね。次世代の対話力を育てるために。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)『女女問題のトリセツ』(SB新書)『夫婦のトリセツ 決定版』(講談社)に続き、最新刊は『夫婦の壁』(小学館新書)。
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