第1回
栗のモンブラン風ポタージュ
食欲の秋です。おいしいものをたっぷり食べましょう。台所でのハプニングは「吉」と取って、新しいレシピに展開する福田さん。旬の食材「栗」を使ったなんともセレンディピティな料理を紹介します。
幸運な偶然は楽しい
昔から好きな言葉があります。それは「セレンディピティ」。serendipityは、なにかを探求しているときに、なぜか予想外のものを発見したり、探しものとは別の価値があるものを偶然見つけるといった、幸運な現象や能力のことです。ああ、なんかコレ、いい意味で射幸心を煽られるというか、くじ引き的な楽しさがあるというか、すごくよくないですか?カビを研究していたらペニシリンが見つかった、みたいな世紀の大発見は、もちろんセレンディピティだ。洗濯ばさみの効率のいい片づけ方を考えて、洗濯ばさみを嚙み合わせてたら、iPhoneを置くのにちょうどいい形になっちゃったんで、携帯ホルダーとして便利に使ってます、といったライフハック系の日常を支える発明もセレンディピティに数えていいと思う。
そしてわたしは今日もこう呟くんです。「なんかいい感じで、セレンディピティ起きないかな~」って。
そしてわたしは今日もこう呟くんです。「なんかいい感じで、セレンディピティ起きないかな~」って。

マッシュルームのポタージュに栗。この組み合わせを発見したのは、まさにセレンディピティ。
料理もセレンディピティ
素敵な偶然に出会ったり、ふとした偶然をきっかけに幸運をつかみ取ることは、料理中にもよく起こる。この場合のラッキーは、自分がおいしいと思えるレシピや、あるキッチン用品の新しい使い方を見つけたといったようなことです。だけど、このような幸運を掴むために、常に真摯な態度で、わたしが料理と向き合っているかといえば、そんなこともない。わりと大雑把な性格なので正直な話、面倒くさい、時間がない、勘違いといった理由で、よく失敗やズルや怠慢をやらかしてしまいます。だけどそれこそが、わたしの求める新しい“発見”に繋がることも多いのだから、料理は真にセレンディピティに満ちていると思う。

栗は皮を剥くのが大変だけど、茹でてから半分に割ってスプーンでかき出すと簡単。
わたしの簡単栗ごはん
秋の味覚といえば栗。大好物ですが、栗の皮をむくのが昔から苦手だ。固い皮に阻まれてどうしても手が痛くなる。だから、栗ごはんを作るときも、皮ごとゆでた栗を2つに切り、ティースプーンでほじった実を7分ほど火が通ったごはんに混ぜて、炊き上げることにしています。見栄えは少々落ちるけど、そのかわり栗はたっぷりと。手軽でなかなかおいしいんです。

全部中身を取りだしたところ。いろいろ展開できるのだけれど、今回はスープに。
栗粉をたっぷり使ったポタージュ
普通の栗の1/3くらいの大きさの小粒な山栗をゆでたときのことです。いつものように、スプーンでほじったら、小さすぎて全部が細かいクズになってしまった。これでは、ごはんに混ぜられない、どうしよう、と思いついたのが、このポタージュ。クズになってしまったのなら、さらに細かくすればいいんじゃない? と、マッシュルームのポタージュに網で漉した栗粉をたっぷり添えてみました。
スプーンで混ぜながら食べるセレンディピティな一皿です。マッシュルームの旨味に、もったりと粉気を感じる柔らかな栗粉のほの甘さは思いのほかよく合って、新しいおいしさ。
スプーンで混ぜながら食べるセレンディピティな一皿です。マッシュルームの旨味に、もったりと粉気を感じる柔らかな栗粉のほの甘さは思いのほかよく合って、新しいおいしさ。

玉ねぎとマッシュルームをオリーブ油で炒め、水を加えて5分煮る。粗熱が取れたら、牛乳を加えてミキサーで撹拌する。鍋に戻して火にかけて塩で味を調える。器に盛り、コショウとオリーブ油をふり、栗粉を添える。

福田 里香(ふくだ・りか)さん
福田里香さんの料理は、スイーツにしてもサラダにしても、独創的で繊細。Instagramで展開される美しい料理の数々に「いいね」は増え続ける一方です。福田さんが台所で偶然にも発見してしまったたまらなくおいしい料理をこっそり教えてもらいました。
菓子研究家。武蔵野美術大学出身。フルーツの専門店で勤めたのち、独立。果物を使ったオリジナリティあふれるスイーツや料理で注目を集める。雑誌でフードコラムを担当しながら、『いちじく好きのためのレシピ』(文化出版局)『新しいサラダ』(KADOKAWA)『R先生のおやつ』(文芸春秋)など料理本を多数出版。漫画への造詣も深く、作品に登場する食べ物の表現への考察は漫画ファンのみならず、漫画家からの評価も高い。美しい料理を次々とアップするInstagram(@riccafukuda)にはおいしいもの好きが集う。