妊娠期の栄養
PREGNANCY PERIOD
妊娠期の栄養は赤ちゃんの正常な発育そしてママの健康を保つためにもとても重要です。食事・栄養について正しく理解することは、ママの適切な体重管理や、妊娠糖尿病など病気の予防にもつながります。

監修
東京大学大学院医学系研究科
母性看護学・助産学
教授 春名 めぐみ 先生
妊娠期の体重管理と栄養
妊娠期はバランスの良い食事から栄養を摂りながら、適切に体重を管理していく必要があります。
ここでは体重管理の必要性や栄養摂取の方法などについて紹介します。

体重管理
妊娠中の体重管理は、ママや赤ちゃんの健康にとても大切です。妊娠期における望ましい体重増加量は、妊娠前のBMI([Body Mass Index)によって異なります。日本産科 婦人科学会の「妊娠中の体重増加指導の目安」 を参考にし体重を管理しましょう。

出典:産婦人科診療ガイドライン産科編2023
●やせすぎ
ママの体重増加が少なすぎると、早産の原因や出生体重が2500g未満の低出生体重児の原因になります。低出生体重児は、子ども自身の将来の生活習慣病の原因となることが明らかとなっていて注意が必要です。
以前は、妊娠中の体重増加をできるだけ抑えることが、安産になると考えられていましたが、適切に体重を増やさないとむしろ早産や低出生体重児の原因となることから、最近では適切な体重増加が推奨されています。

●太りすぎ
一方で妊娠中のママの急激な体重増加は「妊娠高血圧症候群」や「妊娠糖尿病」などになりやすくなります。
ママの肥満もまた低出生体重児の原因にもなりますし、出生体重4000g以上の巨大児になるリスクを高め、やはり将来の生活習慣病のリスクになります。そのため、栄養バランスの良い食事をとって、上手に体重コントロールを心がけましょう。

体重管理のコツ
毎日の生活でとり入れやすいポイントを紹介します。
•「妊娠中の体重増加指導の目安」を参考に目標体重を設定し、それに併せた計画的な食事管理を することが重要です。
• 体重が増えにくい妊婦さんは、毎日3食しっかりとるよう心がけ、十分な食事がとれないときは、食事の回数を増やしたり、5大栄養素がバランスよくとれる栄養補助食品などの間食をとったりするのもおすすめです。
• 体重が増えやすい妊婦さんは、ゆっくりかんで食事をとる、間食を控える、ムリのない範囲でウォーキングなどの定期的な運動をする、といったこともおすすめです。

特に妊娠期に不足しがちな栄養素
ママの健康と赤ちゃんの健やかな発育のためには、タンパク質、脂質、糖質、ビタミン類、ミネラルの5大栄養素をバランス良くとることが基本です。必要に応じて乳製品や果物などを追加し、一日の栄養バランスを整えましょう。それでも、様々な理由で適切に栄養を摂れないこともあるかと思います。
妊産婦にとくに不足しがちな栄養素として、胎児の脳や神経の発育に重要な「葉酸」、筋肉や臓器などをつくるために必要な「タンパク質」、骨をつくるために必要な「カルシウム」や「ビタミンD」、血液をつくるために必要な「鉄」、脳や神経の働きに影響する「オメガ3系脂肪酸」などがあげられます。
●葉酸
胎児の成長に不可欠な「葉酸」が不足してしまうと、神経管閉鎖障害という先天異常が起こりやすくなり、胎児が正常に育たないおそれがあります。
※神経管閉鎖障害の原因は葉酸の不足のみではなく、複合的なものです。葉酸のサプリメントや強化した食品の利用だけで発症予防ができるものではなく、また記載量を摂取すれば必ず予防ができるというわけではありません。
・摂取時期と量
葉酸は、一日の摂取の推奨量は18歳以上の女性で240μgとされていますが、妊娠を計画している、あるいは妊娠している女性は、追加摂取が推奨されています。すると、トータルの推奨量は、妊娠前から初期は640μg、妊娠中期から後期は480μg、授乳期は340μgになります。


・摂取方法
葉酸を多く含む食品は、ホウレン草、アボカド、枝豆、イチゴなどがありますが、食事だけでは推奨量を補うことが難しく、また食事に含まれる葉酸は消化の過程が異なるなどが原因となり体内ですべて利用されるとは限りません。妊娠を計画している、あるいは妊娠の可能性がある女性、妊娠初期の女性は、厚生労働省は食品に加えて、栄養補助食品、サプリメントなどからも摂取することを推奨しています。

●その他重要な栄養素
葉酸以外の栄養素における摂取の推奨量も時期によりことなり、妊娠期は摂取量が増える時期もあります。そのため、時期に応じた適正量の摂取が重要です。

●タンパク質
体づくりの基本となるタンパク質の一日の摂取の推奨量は、妊娠初期50g、妊娠中期55g、妊娠後期75g、授乳期70gとなっています。とくに妊娠中期以降は肉類、大豆、乳製品などを多めにとりたいものです。

●カルシウム
カルシウムは、妊娠初期から授乳期まで一日の摂取の推奨量650mgで変わりませんが、カルシウムは不足しがちなミネラルであるため、乳製品、大豆製品、小魚どを積極的にとるとよいでしょう。

●鉄
鉄については、妊娠初期は一日9.0mg、妊娠中期から後期は16.0mg、授乳期9.0mgが摂取の推奨量となっています。妊娠中は赤ちゃんの発育に使う鉄の量が増加するため、ママは貧血になりやすくなります。ふだんから赤身肉、あさり、ホウレン草などの食品をメインのおかずにとり入れるのがおすすめです。

●ビタミンD
妊娠期におけるビタミンDの摂取目安量は非妊娠期と同じ8.5μgです。ビタミンDは食事から摂取される他に日光(紫外線)を浴びると生成されますが、最近は紫外線を避ける傾向が強く、妊婦のビタミンD不足が問題視されています。赤ちゃんとママの健康のため、ビタミンDを多く含む食品の摂取や適度な日光浴がおすすめです。

●オメガ3系脂肪酸
妊娠中のオメガ3系脂肪酸の摂取目安量は1.6gです。オメガ3系脂肪酸には、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)α-リノレン酸、などがあり、体内で合成できない必須脂肪酸です。妊婦は胎児の成長のため、多くのオメガ3系脂肪酸の摂取が必要なので注意しましょう。

●食物繊維など
ママの体は出産に向けて、さまざまな体調不良が起こりやすくなります。ふだんから便秘に悩む女性は多いものですが、妊娠中はホルモンの影響を受けて消化器官の運動が鈍くなりやすいので、さらに便秘に悩まされる方は増える傾向にあります。そんな便秘でお困りの方は、ゴボウ、サツマイモ、しいたけなどの食物繊維を多く含む食品や、発酵食品など腸内環境を整える食品を取り入れた食事を心がけるといいでしょう。

不足するとどのような問題がある?
葉酸なら胎児の脳や神経の発育、カルシウムは骨などそれぞれの栄養素が発育に影響しますので、特に不足しがちな栄養素については、先ほどの時期による栄養所要量を意識して栄養を摂取しましょう。
ただ、栄養素が不足したから必ず何か問題が起こるという訳ではありませんので、過度に心配しすぎる必要はありません。
例えば、つわりがある方は思うように食事が摂れないこともあるかと思います。
赤ちゃんの栄養という観点から心配になる方もいらっしゃるかもしれませんが、最近の研究結果で、「つわりでご飯が食べられない!」は、赤ちゃんの発育に影響しないことがわかっています。妊娠初期に、吐き気や嘔吐がひどく食事がとれず、体重が減ったとしても、その後、体重が適切に増えれば、心配はしなくてもよいといえるようです。


つわりとその対応
つわりや吐き気は、主に妊娠初期に起こりやすくなります。
妊娠によって生じる、ホルモンバランスの乱れや代謝の変化などに体が適応できないためと考えられています。無理をしないことがこの時期は大切で、食べられる物を食べ、少しでも栄養を摂取するように心がけたいものです。食事からの摂取が基本となりますが、つわりで食欲がないときは、市販の液体やゼリー状の栄養補助食品などをうまく活用するのもよいでしょう。水分摂取も重要です。水も飲めないようなときは受診するようにしましょう。

妊娠中の食事で注意したいこと

妊娠すると免疫力が低下するので、食中毒にかかるリスクが高まります。とくに注意が必要な病原体として、トキソプラズマ原虫とリステリア菌があります。これらの多くは、原因となる病原体が付着した食品を食べることで起こります。日頃から食品を十分に洗浄し、できるだけ加熱したものを食べるようにするなど、取り扱いに注意しましょう。

そのほか摂取を避けたい、注意が必要なものは、マグロやキンメダイなどの大型の魚介類、レバーやうなぎに多く含まれている動物性のビタミンA、海藻や魚介に含まれるヨウ素、アルコールやたばこ、コーヒー、お茶、チョコレートなどに含まれるカフェインです。これらのリスクを知っておきましょう。
参照:厚生労働省 「妊娠中、育児中のご自身の食事や赤ちゃんの食事に関する情報提供:これからママになるあなたへ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/01_00004.html

妊娠中に食欲旺盛な事は喜ばしくもありますが、塩分や糖分、カロリーの摂りすぎには注意が必要です。食品に記載されている栄養成分表示を見て選択するようにしましょう。
妊娠期と朝食
毎日3食の食事が重要ですが、朝食は栄養バランスそして体内時計という観点からも重要です。妊婦においても朝食を抜く方がいらっしゃいますが注意が必要です。朝食を抜くと、1日に必要な栄養素やエネルギーをとることが難しくなります。そのため、バランスの良い朝食をとることは、ママのみならず赤ちゃんの健康にとってとても大切です。
朝食の重要性ページへバランスの良い食事を心がけましょう
ママの健康と赤ちゃんの健やかな発育のためには、毎日3食、主食・主菜・副菜のなかで、5大栄養素をバランス良くとることが基本です。食事からの摂取が基本となりますが、「がんばりすぎはストレスのもと」です。妊娠中、がんばりすぎるのはママにも赤ちゃんにもよくありません。つわりなどで食がすすまないときや栄養のバランスが気になるとき、時間がないときなどは、市販の栄養補助食品などをうまく活用するのもよいでしょう。


栄養補助食品

サプリメント

東京大学大学院医学系研究科
母性看護学・助産学
教授 春名 めぐみ 先生