今、ボイストレーニングに通う人がにわかに増えている。なんとなく歌うのではなく、しっかりと声を出す。正しい発声法で歌う。それがじつは良いことづくめ、驚くほど広範囲なエイジングケアとなる上に、不思議なほど幸福感につながるからなのだ。
歌うことは、言うならばもっともプリミティブな行為。何の道具も使わずに、いわば身体という楽器を使って、メロディを奏でつつ感情まで伝えてしまう圧倒的な表現行為と言える。しかも、ちょっと節をつけたり、リズムを取ったりするだけで声は歌になるわけで、歌唱は人類の歴史とともに始まっていると言ってもいい。
なぜ人が歌うようになったのかに関しては、鳥のさえずりを真似たという説もあるし、神様に祈りを伝えるためという説もある。どちらにしても人間にとって、すばらしい表現方法に違いなく、人生において歌うことはオプションに過ぎないけれど、歌わないより歌う方が心身ともに良いことがたくさんある気がしてならないのだ。
まずなんといっても、どんな歌い方であれストレスは減っていく。数々の幸せホルモンが活性化されて、心が自然にポジティブになる。それも歌うと自然に深呼吸を繰り返している状態になり、副交感神経が優位になることが一つのスイッチになっているからなのだ。
加えて、きちんと腹式呼吸を意識して歌うと、お腹の筋肉が鍛えられ、腹筋運動したような効果があると考えていい。
ちなみに1つのデータとして、正しく腹式呼吸を使って1曲歌うと、100メートルを走ったのと同じ位の運動量となり、約20キロカロリーの消費ができるとも言われる。そして続けて歌えば歌うほど1曲に消費するカロリー量は多くなるとか。そして軽い調子の歌よりも、張り上げ系のバラードやクラシックの方がカロリー消費は多いらしい。
一方で、歌を歌う習慣を持つと腹式呼吸と筋肉運動で、血行が良くなるのは容易に想像ができ、それはいわゆる巡りが良くなる状態と考えてもよいのではないか? 実際に、歌を歌えば体がぽっぽと暖かくなる。
そして何より重要なのは、歌うことによる感情の高まり。時には自分の歌に感動を覚えるほどの高揚感を得られるのだろう。また1人で歌う喜びもあるけれど、いわゆる合唱によって人々と声を合わせること、ハーモニーを作ることによる感動は、安心感、一体感、達成感など、他のことではちょっと置き換えの効かないほどのものがある。
言うまでもなく、歌唱はメロディーに乗せて詩を読むような歌詞があるわけで、その内容によって、ある種のカタルシスに身を投じることもできる。ましてや、歌詞に合わせた声の抑揚、演技するような表現力、リズムやアクセント、本当に様々な要素が凝縮するのが歌だからこそ、とても有意義なものなのだ。
そして、40代位から何だか声が太くなってくる一方で、美しくハリのある声の持ち主は、それだけで若々しく見える。そういう意味でも、歌は立派なエイジングケア。
確かにある程度、上手に歌えないと喜びにまでは至らないのかもしれないけれど、どんな人でも練習によって歌は必ず上手くなる。美しい声の維持のためにも、思い立ったら歌い始めよう。生きるための、1つのテクニックとして。
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『だから“躾のある人”は美しい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 セカンドステージ 63の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。