齋藤薫のエクエルダイアリー

Vol.12世界一座っている時間が長い
日本の私たちが、
今すぐ気づくべきこと。

世界でいちばん平均寿命が長い国………そう言われてから久しい。もちろん毎年順位は変動するけれど、長寿の国ではあるのは確か。それは、ヘルシーな日本食が世界的にブームとなるきっかけの一つともなったはずだけど、でもちょっと矛盾しているようにも感じるのが、座っている時間が1番長いのも、また日本人であること。
シドニー大学の研究によって、座ったままの時間は世界平均が1日5時間であるのに対し、日本人は7時間と世界で一番長いことが判明。ちなみに、この調査で座位時間が最も短い国となったポルトガルは、なんと平均2.5時間。一体どんな生活なのかそれはそれで不思議だけれど、日本人はその約3倍も長く座っていることになる。
そして、この調査結果が注目されるようになって、同時にクローズアップされたのが、座ってばかりいると、血行や代謝、筋肉に良くない影響をもたらしたり、健康リスクを高める可能性を指摘する研究報告があること。だから単純に1日8時間はデスクに張り付いているデスクワークの人は要注意であると。

以前、ウイーンのオペラ劇場でワーグナーを観劇した時のこと。ワーグナーの楽劇は恐ろしく長いことで有名で、演目によっては5時間をゆうに超える上に、歌手たちの動きも少ないだけに、ウトウトしてしまうこともしばしば。気がつくと熟睡してしまっていることまであったりする。
ところが、隣の席にいた70代?80代かもしれないマダムは、背筋をピンと伸ばして、舞台に集中している。重たそうなぶら下がりイヤリングに、幾重にも巻かれたチョーカー、肌見せドレスと、最大級のおしゃれをしていて、そのことだけでも、こちらは大いに引け目を感じていたが、身じろぎもせずに、オペラに没入しているその凛とした佇まいには、圧倒されるばかりだった。いや客席を見渡すと、そういうマダムの多いこと!
そして2回ある休憩時間も、30分以上という長さ。自分はホワイエですぐ椅子を探していたが、その華やかなマダムたちは、すっとした美しい立ち姿で、立ったままお酒を飲んでいる。当時まだ40代だった自分は、一体何がそんなに違うのだろうと考えこんでしまったほど。
もちろん、芸術に対しての理解や思い入れがそもそも違うということはあったのだろう。でも、眠らないし、座らない、それだけで、やはり生き物としての生命力の違いのようなものを見せつけられた気がしたのだ。
そこで思い出したのが、日本の電車の中では居眠りしている人がたくさんいること。安全な国だから?もちろんそう。海外では考えられないことだと言われる。でも、眠気ってやっぱり自然な生理だからこそ、単なる緊張感の有無だけを理由にはできない気がする。座る時間が長すぎるからこそ、体幹が鍛えられず、だから電車でもすぐ座りたくなって、そして座ると眠ってしまう。その悪循環があるのではないかと。

そういえば、欧米人が多く出席したパーティーなどでも、椅子に座ってしまっているのは、日本人ばかり。欧米人は座らない。いつまでも立ったままで、グラス片手に会話している。
オペラ劇場でのマダムたちも、そもそも座ることが好きでないからこそ、数時間座り続ける時も、椅子にべったりと体を預けることなく、背筋を伸ばして美しく座っていられるのだろう。その良循環が、70代80代にしてあの集中力と素晴らしい姿勢をもたらすのではないか?たっぷり寝ているからこそ、あの最大限のおしゃれができて70代80代でオーラを放てるのではないかと思ったのである。

座っていれば座っているほど、座りたくなる。人間の体はそういうもの。だからもっと楽々立っていられる体作りを始めたいのだ。確かに昨今、こういう提案を見ることが多くなった。デスクワークでも、30分に1度は立ち上がること。時々はスタンディングで仕事をすること。私自身も、あまりにも座ったきりなので、デスク周りに何もかもが手の届くところにあることがマズイのだと気づき、逆に多くを遠ざけた。例えば、チョコレートを食べたくなったら、一かけらずつキッチンまで取りに行く。資料なども別のところに置いておいて、その都度取りに行く。それを始めたら、否応なしに頻繁に立ち上がるようになった。そもそもが、家事のほとんどは立ってやるもの。料理も掃除も洗濯物干しも。だから、座りすぎない生活のためにも、家事は嫌がらず、有り難くやるようにしようと心に決めたのだ。
そうやって立ち上がることに慣れていくと、座り続けていることに逆に苦痛を感じるようになってくる。気がつけば、電車でも空席を探すことが少なくなったりする。座り続けることが苦痛な体を作ること、新しいテーマである。

美容ジャーナリスト/エッセイスト
齋藤薫

女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『だから“躾のある人”は美しい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 セカンドステージ 63の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。

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