何を着ていいかわからない、何を着てもなんだかピンとこない、お洒落が面倒くさくなってきた………そんなふうに思う時期が多分誰にでもあるはず。
私の場合は40代、まさしく何を着ても似合わない、だから何を着ていいかわからなくなって、いきなりファッションに苦手意識を持つようになったことがあった。お洒落は大好きなはずだったのに、自分にもそんなことってあるのだと、それ自体を意外に思ったほど。
でも今振り返れば、それこそが1つのエイジング、歳をとるということであり、体重は変わらないのに体型が変わるというタイミングにあったからの変化だったのだと思う。
少なくとも、トレンドを追うような服の選び方はもうやっぱり違うし、かと言って、歳をとったことを意識するような服の選び方は絶対タブーだし、何かもっと違う新しい手がかりが欲しくなったのに、それがなかなか見つからなかった。どっちにしろ、生まれて初めてお洒落に迷いが生まれていたのは確かだった。
そんな頃、アドバイスをしてくれたのが、友人のスタイリスト。「困ったら、ひたすらワンカラーコーデにすればいいのよ」
ワンカラーコーデ………説明するまでもなく、同色あるいは同系色のコーディネートのこと。使用する色をなんとなくでも一色に統一すること。合わせすぎも、うっかりすると野暮ったく見えるけれど、なるべくワンカラーという位のゆるいルールを作って望んだコーデは結構うまくいく。
例えば、トップスとボトムスに同じようなピンクを選んでも、当然のようにピンクの色味が微妙に違ってくることで、同系色濃淡のワンカラーとなるからだ。
同系色の装いが上品な上に華やかで、間違いなく洗練されて見え、正装度も高いのは誰でも知っている。でもその反面、ロイヤルファミリーの公式な装いもワンカラーコーデが基本だったりするだけに、かしこまりすぎたり大げさな印象が生まれがちで、印象が強すぎるからハードルが高いとも思われてきた。
でもだったら、こんな考え方はどうだろう。あくまでもカジュアルでワンカラーコーデを狙うこと。真っ白なシャツにアイボリーのパンツ、白いスニーカー、サマーニットの微妙な乳白色………まさにカジュアルなのに大げさにはならないワンカラーコーデは、間違いなく「素敵」のインパクトを放つはず。
ふと思い出したのが、コロナの時にマスクの色をトップスと同色にするだけで、なんだかものすごくお洒落に見えたこと。
同じブルーでも、ニットのブルーとデニムのブルーでは、色調が微妙に異なってくるはずで、そういう“同系色”こそが結果としてセンスある着こなしにつながってくるのだ。
以来、私は出来る限りワンカラーコーデを心がけている。そのほうが楽。別のカラーを合わせる難しさを考えたらそのほうがずっとずっと楽なのに、結果的にその方が「素敵」に見えるのは確か。その方がはるかに緻密なお洒落をしているように見えることも覚えていて欲しい。
以前に、辛口ファッション評論家がワンカラーコーディネートを、「なんだか安易ね」と言ったのを覚えている。しかしコーディネートのプロが異なる色を組み合わせれば高度なお洒落ができるけれど、そうでないなら、安易で結構、失敗がなく、なのに確実に洗練された印象が出来上がるからこそ、私たちにとっては理想的なのである。
そんなふうにお洒落の新しい手がかりが見つかると、服選びにも困らなくなり、改めて着ることが楽しくなっていく。ファッションに苦手意識が生まれると、だんだん外出するのに気が重くなったり、朝から気持ちが晴れなかったり………。お洒落が楽しいって、実は生きる喜びに近いものなのだと改めて気づかされたのだ。
それ以降、年齢を重ねるほどに、ワンカラーコーデへのこだわりが強くなっている。それは結果としてそうした方がなんだか毎日気持ちが穏やかになるから。間違っているかもしれないコーデをしてしまった日は、やっぱり1日落ち着かない。心がモヤモヤしたまま。でもワンカラーは間違っているはずがないから、安心していられる。心にゆとりもできる。これだけは間違いないのだ。
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『だから“躾のある人”は美しい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 セカンドステージ 63の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。