若い頃は思いっきり都会が好きだったのに、年齢を重ねるにつれ、自然が好きになる………。
これは多くの人が感じている変化。でもそれ、一体なぜなのか?
じつはここにいくつかの説がある。科学的に証明されたものでは無くても、きっとこの中に“自分の場合”を見つけることができるのだろう。なるほど、と腑に落ちるものばかりだから。
まず、よく言われるように、一通りの経験をして、欲しいものも手に入れ、多くの欲がなくなった時、当たり前のように自然に回帰したくなる。それってまだ早すぎない?と言う人もいるのだろうけれど、中には20代でそういう境地に達している人もいる。物欲と反比例するように人は自然が恋しくなるのではないかという説も。
さらに言えば人類はこれまでの歴史のほとんどの時間、自然の中で生きてきたから。都会で生きるようになったのは、人類の歴史においてはつい最近のこと。だから私たち人間は本能的に、自然を求めていると言われるのだ。
また、もっと単純に人は年齢とともに、刺激よりも癒しを求めるようになる。心地よさこそに贅沢を感じるようになる価値観の変化とも、それはリンクする。
そしてとても面白いのは、耳に心地よいものも変わってくるという説。よく20代には聞こえて50代には聞こえない音があると言われる。じつはそれも、全く自覚は無いものの、聴力低下はなんと20代より始まり、年齢とともにある一定以上に周波数の高い音は、徐々に聞こえにくくなるからというのだ。
でもそれとは反対に、大人の耳には鳥のさえずりや川のせせらぎなどの自然音がより心地よく聞こえるようになるという説がある。確かに私自身ある年齢から、急に鳥のさえずりが大好きになり、森に行ってバードホイッスルで鳥の声を真似してみたり、川のせせらぎをわざわざ聞きに行くような日も増えてきた。
ちなみに鳥の声や川のせせらぎ、海の波音、木々のざわめきなどを心地よく感じるのも、いわゆる「1/fゆらぎ」の作用と言われる。自然界の1/fゆらぎを音で聴くと脳内がα波で満たされた状態になるからとされるのだ。ともかく、20世紀から世界中で研究が進んでいるテーマだけに、決して無視ができない。
でもそれこそが、私たち大人が自然界に心惹かれる最大の理由ではないかと思うのだ。
いや厳密に言えば、全員がゆらぎを感じる耳を持っていて、たまたまそれに気がついていない人がいるだけ。例えばだけれど、人の声やバイオリンの音が音楽の中で生み出すビブラート。それもまた1/fのゆらぎの1つであり、それを聞いた時にあー美しいと思うのなら、それこそがゆらぎを心地よく感じる耳。自然を心から讃歌する感性を持っているということの証なのだ。
海を見に行きたい、山歩きをしてみたい、
そんなふうに思ったら、自分の中でも自然との共鳴を必要とする本能が目覚めた証。思い切って自然の中に出かけていって欲しい。そうすることが、いまのあなたにとって、身も心も表情も、健やかに穏やかに美しく保つコツなのだから。そしてそれは多幸感への素晴らしい近道なのだから。
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『だから“躾のある人”は美しい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 セカンドステージ 63の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。