コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第4回 
女性の話は長い?

「女性がいると会議が長くなる」との発言について、黒川さんから見たこの一件、必読です。

発言。いや、ぼやき

「女性がいると会議が長くなる」というぼやき。
私にとって、あの発言は、目新しいものじゃなかった。「女性取締役の話が長くて、取締役会が迷走してしまう」などという悩みを相談されることがけっこうあるのである。
実際のところ、女性の話は確かに長い。そんなこと、女性だって知っている。しかし、無駄に長いわけじゃない。私に言わせれば、先の発言は、そこがわかっていないところがダメなのである。

競争ではなく共感

脳の中には、プロセス指向共感型とゴール指向問題解決型という2種類の神経回路モデルがある。女性は前者を、男性は後者を使う人が多い。
プロセス指向共感型回路を使う人の話は、どうしても長くなる。プロセス(紆余曲折、過去のいきさつ)の中から、真理を見つけ出す回路だからだ。
共感型の人は、過去のいきさつを語り合う。他人のそれに、自分のそれを重ねて共感しあうことで、事象が抽象化され、より洗練された「真理」が浮かび上がってくるからである。
「女性は競争心があるようで、誰かが発言すると、自分も自分もとしゃべりだす」なんて発言もあったが、競争心だなんてとんでもない。それぞれに関連する記憶を出し合って、共感による「真理の抽象化」を試みているのである。男性たちには、女性たちがどんなに崇高な会議をしているのかが、見えなかったのだろう。
ちなみに、ゴール指向問題解決型の人の話が長くなる理由は、確かに競争心からだ。成果(ゴール)を競うから、お手柄話が長くなる。それこそ、まさに無駄な時間。同じように見えて、会話の目的と、それが生み出すものの種類が違うのである。
競争のための長い会話は、私たち女性もお断りだが、共感のための対話時間を許さない会議では、発想がシュリンクしてしまう。社内の会議に生産性がないと嘆く企業は、もう少し共感型対話を増やした方がいい。

外される女性

一方で、出世したいのであれば、女性の方にも、作戦が要る。
この世のすべての会議が、「発想のための会議」ではないからだ。「忖度と合意」の会議のほうが数は多いのである。
ゴール指向問題解決型の回路を使って行う、‶想定ゴールを目指して、情報を整理していく会議〟である。「感情」と「主観」を極力省いて、合理的な結論に至ることを目的としている。記憶を語り合い(=主観)、共感しあって(=感情)、真理を探索する会議とは、水と油。まったく相容れない。
つまり、常にプロセス指向共感型回路を全開にしていると、「彼女が発言すると、会議が迷走する」と思われてしまう。昨今のマナーのいい男性たちは、それを口にはしない。しかし、重要なポストから、さりげなく滑り落ちていくのである。プロジェクトの中枢にいた女性コンサルタントが、それで消えていくのを、私は何度か目撃している。「彼女は才能がありすぎて、このプロジェクトにはもったいない。他のところで活躍してもらおう」と男性たちは言う。発想が豊かなので、本当にそう思われているのかもしれない。しかし、別の舞台が用意されることはない。
第4回 女性の話は長い?/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

女性の底力を見せるとき

デキる女性と言われて、中枢に身を置くつもりならば、「この度の会議」が、ゴール指向問題解決型なのかプロセス指向共感型なのか、それを見極める必要がある。
ゴール指向問題解決型すなわち「忖度と合意の会議」だと見破ったならば、「過去のいきさつ」を語るのを止めて、「結論からいう」「数字を言う」に徹するべきだ。
しかしながら、2021年現在、この国の会議は、ゴール指向問題解決型に偏りすぎている。だから、話がシュリンクして、新発想が生まれない。男性たちも、そのジレンマをひしひしと感じている。
というわけで、ここぞというときには、私たちが得意な、プロセス指向共感型の導入を試みよう。
しかしながら、いきなり気持ちや紆余曲折を語り出しては、男性たちがついてこれない。最初に前置きをしなくてはね。たとえば、会議の中で、自分自身が経験したことを語りたかったら、「最近、興味深いことがあって(気になることがあって)。その話をしたいんですが、少し時間をいただけませんか?」というように。
導入さえうまくできれば、女性の「主観」と「感情」は、新発想と真のリスクヘッジを産み出し、企業の武器になる。コロナ禍とAI導入で世の中が激変している今、女性の底力を、女性自身が蔑視していてはいけない。「話が長い」と言われて腹が立つ? それって、自ら女性の才能を蔑視してないだろうか。「女性の話が長い? 当たり前じゃない。男性の見えないものを見ているんだもの」くらいの気持ちでいてほしい。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんが、女性脳と男性脳の違いを語ります。
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社+α新書)はベストセラーに。新刊『息子のトリセツ』(扶桑社新書)、『家族のトリセツ』(NHK出版新書)、『娘のトリセツ』(小学館新書)も話題。
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