コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第13回 
女が大人になるということ

会話の中でのピリピリしたやりとり。大人の女性だったら……と考えてみましょう。

毒母の一撃

先日、同世代の女友達が、80代の母親の悪意ある曲解にため息をついていた。
母親が、タンスから出してきたセーターを眺めながら「派手よね」と言ったので、「そんなことないよ。お母さん、色白だから、何でも着こなせるもの」と答えた。なのに、後日、母親が「あなたは、私に、年寄なんだから、セーターの色なんてどうでもいい、って言ったわよね」とからんできたという。
彼女は、「大人になる、って、どういうことなのかしら」とうなだれた。
――母は、DVの激しかった父に苦労した、本当にかわいそうな人なのに、どうしても優しくしてやれない。大人にならなきゃと思うのに、どうしたってなれない。
私もとっさには答えが出せず、ただ黙って、手元のグラスを見つめるしかなかった。

大人の条件

その晩、床の中で、私は答えを見つけた。大人になる、ってことの回答。
布団の中で、私はまず、自分の母が、彼女の母と同じセリフを言ったシーンを想像してみた。自分なら、どうするのだろうかと。
で、わかった。私なら、「お母さん、なに言ってるの。全然違うでしょう~(笑)。お母さんが色白だから、何でも似合うって話よ」と言ってあげる。
だって、私の母がこんなふうにからむとしたら、それは、「色白だから、何でも似合う」をもう一度、言ってほしいからだ。〝おねだり〟なのである。
私にだって心当たりがある。「あなたは、私のことなんて、どうでもいいって言った」と恋人にからむ。相手が大人の男なら、優しい顔で「そんなこと言ってない。どうでもいいって言ったのは、メニューのことだよ。あなたがどうでもいいわけがない」と言ってくれる。まだ子どもなら、イラついて反撃してくる。
そう、愛しいひとに攻撃されたとき、それがおねだりに聞こえたら、それが大人になった証拠なのではないだろうか。
従来、からむのは女性の特権だったのだが、最近は男もからむ。キャリアウーマンなら、部下から(とくには上司にも!)からまれることだってある。実家の母親にからまれたくらいで、ひるんでいる場合じゃないかも。

「おねだり」が「威嚇」に変わるとき

いっぽうで、からむほうにもアドバイスがある。
これが、「おねだり」に見えるのは、少女のうちだけ。20代は、ぎりぎり恋のアクセントに使えるが、30過ぎてこれをすると、威嚇に見えてくる。
おねだりのつもりなら、目が笑っていなきゃね。世の中をちょっと面白がっているようなお茶目な瞳でどうぞ。大人の女には、からかうようなトーンで言う「あなたは、どうだっていいって言った」だけが許される。
悲しいことに、脳は、自分が変化していることに気づかない。本人は、少女のままのつもりでいるのに、周囲からすれば十分に迫力が出てしまっているのである。
人は年齢を重ねることによって迫力が出てくる。肌や体型などの見た目の問題じゃない。脳の判断速度が速くなり、それが周囲に伝わるからだ。
28歳を過ぎると、脳はとっさの判断力を高めるモードに入る。脳神経回路が洗練され、判断するスピードと、単位時間に判断できる事象の量が圧倒的に多くなるのである。このため、眼力が強くなり、ことばにも潔さが出て、揺るがない感じが漂ってくる。「人間のプロ」=大人になってきたのが、周囲にもわかるのだ。

女の年齢は「潔さ」でわかる

ある心理学の専門家は、「女性の年齢は、肌ではなく、言い切りの潔さでわかる」と言った。20代のうちは、ものごとに白黒をつけるとき、「これは白です(ですよね? だと思うんだけど)」という感じが漂う。30歳を超えると、「これは白です」になり、40歳を超えると「これは白です(決まってるでしょ)」になり、50過ぎると、「それは黒ですよ」と指摘されても「白で悪いの?(なにか?)」という迫力がある、と。
本人の感覚は、14歳の時と変わらないのに、脳は確実に「人間のプロ」として完成していくのである。
本人は鳩のつもりで、公園に舞い降りて、餌をねだっているのだけど、周囲には鷹に見えている……という事態。冷や汗ものでしょう? 女は、30過ぎたら、多かれ少なかれ、そうであることを意識した方がいい。
第13回 女が大人になるということ/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

からみ癖は早めに捨てよう

「あなたは○○って言ったよね」とか「どうでもいいと思ってるんでしょ?」のような、相手の「そんなことないよ」を期待するセリフ。もう捨ててしまってはどうかしら。
早めにそれを捨てておかないと、やがて、はなっから、そう聞こえるようになってしまう。冒頭の母親の耳には、娘のセリフが、最初から「どうでもいい」に聞こえているのである。「えっ、それって、どうでもいいってことよね」なんていう段階を踏まずに。そんな脳になっちゃうなんて、恐ろしいことでしょう?
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。2021年11月には『母のトリセツ』(扶桑社新書)を刊行。母の「言わんでもいいこと」「余計なお世話」を優しく止める秘術。最新刊、『仕事のトリセツ』(時事通信社)も話題。
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