コラム 暮らしを彩るワンポイント人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの
女の人生のトリセツ

第30回 
いい子ちゃん症候群から抜け出せ

何をしてもつまらない。いつもだれかがうらやましい。そんな自分を卒業したい!黒川先生に背中を押してもらいましょう。

いい子ちゃん症候群

いつだったか、小田急線新宿駅のホームでロマンスカーを待っていたときのこと。入線してきた車両を見て、私の傍らにいた5歳くらいの女の子が、母親を見上げて「ママ、なんでこのロマンスカーは赤いの?」と尋ねた。
彼女の母親は、携帯電話の画面に夢中で、彼女の質問を二回無視した。そして、三回目の「なんで」に「うるさい!あなたに関係ない」と言い切った。
あらま、と、私は声を上げそうになった。ここまで見事に、子どもの質問をシャットアウトする文言があろうとは、思いもよらなかったので。
質問を叱られると、子どもは質問力を失ってしまうことが多い。質問力こそ人間力の源、脳の底力なのに……。彼女の将来が心配になって、その顔を見てみたら、大丈夫だった。「はぁ?この世に、私に関係ないことなんてないわ」という感じの、負けん気にあふれた顔をしていたから。彼女なら大丈夫、私は、心の中で「がんばれ!あなたの質問力」とエールを送った。

子どもの質問を侮ってはいけない。こういう自然に脳に浮かんだ質問を叱られると、素直な子どもは質問を口にしなくなる。そして、恐ろしいことに、質問を口にしなくなると、発想することをやめてしまうのである。脳は無駄なことをしない装置だから、出力しないことを演算しないから。
自ら発想しない子どもたちは、母親の顔色をうかがい、先生の顔色をうかがい生きていく。親や先生の意図通りに行動するので、とてもいい子に見える。親や先生の評価は高いけれど、本人は自己肯定感が低く、いつも他人の目を気にして生きていく羽目に。発想力に蓋をして「いい子」「いい人」であることに重きを置いているので、やがて、自分が「何が好きなのか」「何をしたいのか」を見失っていく。
子どものうちは、優等生はめられるのでまだいいが、大人になると、「できる社員」「できる妻や母」は、それが当たり前だと思われて、周囲から感謝されなくなる。他者の評価をかてにしている脳なので、それでは日々の充足感が足りず、人生がそこはかとなく虚しく感じられる。他人がうらやましい、このままでは嫌だ、かといって、何かやりたいこともない。そんなモヤモヤを抱えて生きる。自己充足と自己肯定感が低い人生。これが「いい子ちゃん症候群」である。

高度成長期の母たちの功罪

教育熱心で、「理想の子ども像」がしっかりしている成果主義の母親に育てられると、いい子ちゃん症候群に陥ってしまうことがある。母親が、自分の理想から外れた子どもの言動にイラつき、逆に理想の言動をしたら機嫌がいい――そんなふうだと、子どもは、母親の機嫌におびえて、それを基軸に生きていくことになるから。
実は、日本では、1960年代くらいから、成果主義の母親が一気に増えた。高度成長期の経済下では、社会全体がそうなってしまうから。
1960年代以降に生まれた日本の女の子たちは、しっかりと教育を受けて、1986年から始まった男女雇用機会均等法の波に乗ってキャリアウーマンになっていった。これは、高度成長期の母たちの恩恵である。一方で、いい子ちゃん症候群も多発している。「いい母」「いい妻」でありながら、人生を虚しく感じて、「何かしたい、どうにかしたいが、どうしていいかわからない」と悩む50代、60代もたくさんいる。あなたは、大丈夫?
第30回 いい子ちゃん症候群から抜け出せ/人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さんの【女の人生のトリセツ】
イラスト・いいあい

いい子ちゃん症候群からの抜け出し方

まずは、母親と心の中で決別することだ。母親の不機嫌に引きずられないこと。子どもを支配してきた母親は、会えば、心配と愚痴を垂れ流す。「来月、イタリアに行ってくる」なんて楽しいことを告げても、きっと眉をしかめる。「大丈夫なの?そんな散財して」とか「コロナやインフルエンザは大丈夫なの?」とかね。大人になったら、母親のリスクヘッジは不要、いやそれどころか人生のブレーキになってしまう。母親の不機嫌な顔でがっかりするのをやめよう。「この人の意見なんか、自分の人生に何ら関係ない」と、心の中で三回唱えてみて。
そして、自分の「好き」を発見して、ことばにしよう。最初は、アイスクリームのような些細なことでいい。自分の推しを見つけて、それを口に出す。ひとりごとから始めてもOK。やがて、SNSで発信したり、友だちに言ってみたりしてほしい。いろんな推しが見つかるころには、「自分らしさ」が確立しているはず。
あなたの人生は、あなたのものだ。この星は、あなたが楽しむためにここにある。人にどう思われるかよりも、自分がどう思うかのほうが一万倍大事。どうか、勇気を出して。
黒川伊保子
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した家族のトリセツシリーズ(『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『息子のトリセツ』『娘のトリセツ』『家族のトリセツ』)は累計90万部を超えるベストセラーに。『母のトリセツ』(扶桑社新書)『仕事のトリセツ』(時事通信社)『女女問題のトリセツ』(SB新書)『夫婦のトリセツ 決定版』(講談社)に続き、最新刊は『夫婦の壁』(小学館新書)。
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