コラム 暮らしを彩るワンポイント歌人・高田ほのかさんの
【あなたと私のための短歌】

第1回 
短歌とはコミュニケーション

気持ちを自由にのせられる解放感と、ひとりの寂しさを包んでくれる心地よさ。そんな短歌の魅力とは?

うどんがうまくすすれない夜
あなたの隣で疲れたっていいたい
高田ほのか

57577のリズム

仕事で疲れきって、なんとか自宅マンションまで帰ってきたある夜のこと。
おなかすいた、でももうなにもつくる気力ないよ、と冷凍庫をあける。四角い冷凍うどんが目にとまる、レンジに置く。「あたため」を押すと、ルーーーと回る。ルーーールーーー。チンっ。ふにゃふにゃのうどんが包まれたビニールをはさみで切り、陶器の黒い器にとぅるん。市販の白だしをかけ、箸で持ちあげる。口をすぼめ、すすろうとした、瞬間、うどんが箸をするりと抜け落ちた。
……ああ、わたし、こんなにも、いま、ひとりだ。

そのとき、この気持ちを無性に57577にしたくなった。
第1回 短歌とはコミュニケーション/歌人・高田ほのかさんの【あなたと私のための短歌】
イラスト・小沢真理

心との対話

自分の気持ちを57577に当てはめただけ。しかし、このリズムに乗せた瞬間、ちょっとだけ心が軽くなった気がした。短歌は、ひとりでいることの自由を許してくれながら、同時にひとりでいることの寂しさを救ってくれる。人間の根源的な欲望を同時に満たしてくれる、こんな贅沢な文学がほかにあるだろうか。

そこから、「あっこれも短歌のタネになる!」、「あ、これも……」。気づいたとき、ガラケーに打ち込むようになった。友だちにも話さないような些細な心のゆらぎを、短歌になら打ち明けることができた。それは、自分の心とわたしが対話できた瞬間だった。

ひとりじゃない

短歌教室「ひつじ」を主宰して、今年で14年。つくづくわかってきたことがある。
短歌って、コミュニケーションだ。

「ひつじ」では、生徒さんの短歌に対して、ほかの生徒さんたちがどのように感じたかを述べる時間がある。たとえば、こんな歌。

本心は言えないまんままんまるに
なれない月がこっちを見てる
黒瀬みよ

ひとりが、「月の光が本心を見透かしているのではないか」、別のひとが、「月は本心をわかってくれている。あたたかい目線もあるのでは」。詠んだ本人は、「わたしが考えた以上の解釈をしてくれて、そんな読みもあるんだと感動しました。月の欠けた部分が、本心が言えない自分とリンクしていて……」。生徒さん同士の対話から、31文字の物語がさまざまに展開していく。

後年、うどんの短歌を拙著『ライナスの毛布』(書肆侃侃房)に入れた。ある日届いたハガキに、こんな感想が書いてあった。「落ち込むことがあったのですが、この短歌を読んで救われました。あなたと同じ気持ちの人がいるよ、ひとりじゃないよって言ってくれてる気がしました」
知らないだれかが、わたしの短歌と対話していた。
高田ほのか
高田ほのか(たかだ・ほのか)さん
大阪出身、在住。関西学院大学文学部心理学科卒。2010年より短歌教室「ひつじ」主宰。「未来短歌会」所属。テレビ大阪放送審議会委員。さかい利晶の杜(千利休・与謝野晶子のミュージアム)に短歌パネル常設展示。小学校、大学から企業まで幅広く講演・講義を行い、現在まで短歌の魅力を1万人以上の参加者に伝えている。短歌教室「ひつじ」は、2020年よりオンライン教室を開催。NHK「あさイチ」、関西テレビ「報道ランナー」、女性誌などから取材を受ける。関西を拠点に尽力する社長にインタビューし、その“原点”を「短歌で見つける経営者の心」と題するコラムにしており(産経新聞社)、大阪万博が開催される2025年に100社、100首を完成させ、歌集の出版と展示会を開催予定。著書に『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)。監修書に『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)。
Share
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る
美しく生きるヒントがきっとある

コラム記事

取り扱い先

取り扱い先を調べる

公式通販サイト

ご購入はこちら