第6回
男性にある「モスキート音スイッチ」
「この人、私の話を聞いてないんじゃないの?」。パートナーや同僚、上司に怒りたくなること、ありませんか。実は、ちゃんと聞いてもらうには、しゃべり方にコツがいるのです。
私の声はモスキート音?
前回、狩りをしながら進化してきた男性脳にとっておしゃべりはストレス、男性は沈黙でストレスを解消する、というお話をさせていただいた。水や風の音の微かな変化も聞き逃さず、獣の気配をたどって森に行く狩人にとって、ベラベラベラベラしゃべる人が隣にいたら、危険極まりない。目的のわからないおしゃべりは、その解釈に労力が要る。脳のエネルギーと神経信号を奪われて、命さえ危ないのだ。
このため、男性脳は、身を守るために「目的の分からない話がしばらく続くと、音声認識機能を停止する」という手段を講じてくるのである。音声認識しないので、ことばには聞こえてこない。その上、音量さえも、聴覚野が勝手に下げてくれるらしいのだ。というのも、妻の会話が、モスキート音のように聴こえる、という男性がたくさんいるからだ。
つまり、目のまえの女性の声が、「フィーンウゥンホエホエ、ホエフェッホ~」みたいに聴こえているのである(!)。
このため、男性脳は、身を守るために「目的の分からない話がしばらく続くと、音声認識機能を停止する」という手段を講じてくるのである。音声認識しないので、ことばには聞こえてこない。その上、音量さえも、聴覚野が勝手に下げてくれるらしいのだ。というのも、妻の会話が、モスキート音のように聴こえる、という男性がたくさんいるからだ。
つまり、目のまえの女性の声が、「フィーンウゥンホエホエ、ホエフェッホ~」みたいに聴こえているのである(!)。
夫で実験
女性は、音声認識機能を停止することがほとんどないので、この事態は想像しにくいと思う。私は、夫で、実験をしてみたことがある。音声認識機能を停止したな、と、気づいたことがあって、桃太郎の話をしてみたのだ。「おじいさんとおばあさんがいてさ~、おじいさんは山に芝刈りに行ったんだって」「ふ~ん」「で、おばあさんは、川へ洗濯ね」「へぇ」てな調子で、話は、おばあさんが桃を拾うまで続けることができた(微笑)。
夫婦も阿吽の呼吸になってくると、どこで相づちを打ったらいいかが、だいたい読めるのである。「フィーンウゥンホエホエ、ホエフェッフェ?」「うん」「ホエフォッフォ?」「ああ」みたいによどみなく進んでしまう。
夫婦も阿吽の呼吸になってくると、どこで相づちを打ったらいいかが、だいたい読めるのである。「フィーンウゥンホエホエ、ホエフェッフェ?」「うん」「ホエフォッフォ?」「ああ」みたいによどみなく進んでしまう。
「言った」「聞いてない」事件
しかしながら、このモスキート音のところに大事な用事が入っていたらどうだろう。「あなた、来週の火曜日、保育園のお迎え、お願いできる?」「うん」「ほんとに行けるの?」「ああ」のように。
事件が起こるのは、翌月曜日の夜である。「あなた、明日お願いね」「え? なんのこと?」「保育園のお迎え、行ってくれるって言ったよね」「え、聞いてない」「言ったよ!(怒)」「聞いてない!(焦)」という事態に。
よくある「言った」「聞いてない」事件は、こうして起こるのである。うちの夫なんて「そんな単語すら聞いたことがない」と言うので、「嘘でしょ」と思っていた私だったが、男性脳が、音声認識の神経信号を落としてしまう画像を見て愕然とした。あれは、嘘でも言い逃れでもなかったのである。
事件が起こるのは、翌月曜日の夜である。「あなた、明日お願いね」「え? なんのこと?」「保育園のお迎え、行ってくれるって言ったよね」「え、聞いてない」「言ったよ!(怒)」「聞いてない!(焦)」という事態に。
よくある「言った」「聞いてない」事件は、こうして起こるのである。うちの夫なんて「そんな単語すら聞いたことがない」と言うので、「嘘でしょ」と思っていた私だったが、男性脳が、音声認識の神経信号を落としてしまう画像を見て愕然とした。あれは、嘘でも言い逃れでもなかったのである。
イラスト・いいあい
モスキート音スイッチを入れさせない
男性の「モスキート音スイッチ」。これは、本能の領域で起こる、命を守るための反射的な反応なので、意図的に止めることはできない。愛しているから、モスキート音にならないというわけじゃないのだ。
そんなわけで、モスキート音スイッチを入れない責任は、ひとえに女性の方にある。仕事の現場でモスキート音スイッチを入れてしまうと、「あの人、とっちらかってて、何を言ってるかわからない」と言われて、評価が下がってしまうので、本当に気をつけたい。
「こないだ、客先で、こんなことがあってさぁ」なんて前振りから入ると、本題に入るころにはモスキート音に変わってしまう。悪いのは、対話力の低い男性脳のほうなのに、悪評価は女性側についてしまう。脳に負担のないしゃべり方をすれば、男性は命を守らなくても済む。要は、男性脳の対話ストレスを下げてあげればいいのである。
そんなわけで、モスキート音スイッチを入れない責任は、ひとえに女性の方にある。仕事の現場でモスキート音スイッチを入れてしまうと、「あの人、とっちらかってて、何を言ってるかわからない」と言われて、評価が下がってしまうので、本当に気をつけたい。
「こないだ、客先で、こんなことがあってさぁ」なんて前振りから入ると、本題に入るころにはモスキート音に変わってしまう。悪いのは、対話力の低い男性脳のほうなのに、悪評価は女性側についてしまう。脳に負担のないしゃべり方をすれば、男性は命を守らなくても済む。要は、男性脳の対話ストレスを下げてあげればいいのである。
しゃべり方を変える
対話ストレスを下げるコツは2つある。1つめは、「結論(話の目的)から言う&数字を言う」。目的のわからない話は、予測演算がフル回転するので、脳に負担なのだ。目的さえわかれば、男性脳といえども、かなり耐えられる。それと、数字は、なぜか男性脳のカンフル剤になるようだ。数字を言うと、ちょっと集中力が高まるので、言ってみて。
たとえば、こんな感じ。「企画書の変更点について、話があるの。ポイントは3つ。1つ目……、2つ目……」「お母様の三回忌について相談があるの。ポイントは3つ。いつやるか、誰を呼ぶか、どこでやるか」 そして、もう1つは、3秒ルール。何かに夢中になっている男性は、音声認識機能を停止していることが多い。名前を呼んでから、本題に入るまでに3秒弱の沈黙を作るといい。音声認識機能が立ち上がるのに2秒ほど要るからね。
この2つを順守するだけで、「彼女はデキる」と言われるようになる。お試しあれ。
たとえば、こんな感じ。「企画書の変更点について、話があるの。ポイントは3つ。1つ目……、2つ目……」「お母様の三回忌について相談があるの。ポイントは3つ。いつやるか、誰を呼ぶか、どこでやるか」 そして、もう1つは、3秒ルール。何かに夢中になっている男性は、音声認識機能を停止していることが多い。名前を呼んでから、本題に入るまでに3秒弱の沈黙を作るといい。音声認識機能が立ち上がるのに2秒ほど要るからね。
この2つを順守するだけで、「彼女はデキる」と言われるようになる。お試しあれ。
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。奈良女子大学理学部物理学科を卒業後、コンピューターメーカーで人工知能エンジニアとなり、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。感性分析の第一人者として、さまざまな業界で新商品名の分析を行った。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究結果をもとに著した『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社+α新書)はベストセラーに。新刊『息子のトリセツ』(扶桑社新書)、『家族のトリセツ』(NHK出版新書)、『娘のトリセツ』(小学館新書)も話題。