第12回
認め合うこと
コロナ禍で生活が大きく変わりました。家族との過ごし方を見直し、「認め合う」ことを始めてみませんか。
変わる家族のカタチ
コロナ禍による大きな変化のひとつに、家族の関係が挙げられます。仕事が在宅勤務やテレワークに切り替わった人、リモート授業を受けている学生など、家で過ごす家族が増えたという家庭も多いでしょう。それを好ましく感じている家庭もあれば、小さなトラブルが続出して争いが絶えなくなったという家庭もあります。これまで家族それぞれが、外で忙しくしていたことで覆い隠されていた家庭の本質と向き合わざるを得なくなっているのかもしれません。みんなが無意識に避けていたことに直面しているのでしょう。
イラスト・三好 愛
相手の気持ちを考えていますか
争いが増えるのは、お互いを認め合えずに、自分の言うことに従うようにと相手に要求するからです。ところが、この「認め合う」というのが難しいのです。たとえば、人の持っている物を勝手に使ってはいけません。使いたいときは許可が必要です。しかし、その物が「生き方」や「思い」「考え」といったはっきりと形が見えない場合はどうでしょう。「そのやり方はダメだよ」と否定したり、「そうするんじゃなくて、こうするのよ」と指図したりします。あるいは、「しまっておいてね。片付けておいてね。とってちょうだい。注文しておいてくれ」などと一方的に命令し、相手が忘れると、「どうして、やらなかったのだ」などと責めたりしてしまいます。
自分の視点を見つめなおす
これらのすべてが、相手を尊重していません。相手の“心の領域”に無断で侵入しています。互いに相手の生き方を尊重できれば、どれだけ争いが減ることでしょう。しかし、「相手の生き方を尊重する」というのは、非常に難しいことかもしれません。かけがえのない人が間違った選択をしていたら、なにがなんでもそれを阻止したくなるでしょう。けれども、それは「自分の視点」からそう見えるだけであって、相手の選択のほうが正しいのかもしれません。もし、相手の選択が明らかに間違っていたとしても、それを強制的に禁止したり邪魔したりすれば、相手との関係は確実に悪くなるでしょう。
信じて、見守る
もし、「どうしても間違っている」ように見えたとしても、ときには、相手が「失敗」という体験をする必要がある場合もあります。私たちは、経験を通して学ぶことがたくさんあります。そういう意味では、失敗も失敗とはいえません。失敗しても、そのプロセスこそが貴重な体験だといえるでしょう。誰もが、自分で自分を育てていく力を秘めています。自分にとってかけがえのない人が無力に映るのだとしたら、それは、自分自身が相手の領域に無断で侵入して、その力を奪ってしまっているからではないでしょうか。信じて、あたたかい気持ちで見守ることが「本当の愛」と言えることもあるのです。
石原加受子(いしはら・かずこ)さん
心理カウンセラーの石原加受子さんに、かけがえのない人を大切にする方法を教えてもらいます。
心理カウンセラー。心理相談研究所「オールイズワン」代表。「自分を愛し、自分を開放し、もっと楽に生きる」ことを目指す「自分中心心理学」を提唱。仕事や家族、人間関係に悩む人に向けたセミナーやカウンセリングなどを30年続けている。「誰にも言えない『さみしさ』がすっきり消える本」(SBクリエイティブ)「やっかいな人から賢く自分を守る技術」(三笠書房)など著書多数。文庫化された本や翻訳本も含めると200冊以上を出版している。日本カウンセリング学会会員。日本学校メンタルヘルス学会会員。厚生労働省認定「健康いきがいづくり」アドバイザー。