東京マラソンを支えた人たち東京マラソンを支えた人たち

大塚製薬が大学生に〝学びの機会〟を提供
東京マラソンで「産学連携」

いまや日本を代表するビッグイベントに成長した東京マラソン。
今年は約3万8000人ものランナーが駆け抜けたが、
その舞台の裏では多くのスタッフが大会運営に携わっている。
なかでも大会のオフィシャルパートナーを第1回大会から13年連続で務めている
大塚製薬は今回、提携している2大学の学生に〝学びの機会〟を提供。
学生ボランティアと連携し、共に活動した。

スポーツに関わる人材の確保・育成が課題となっている現在、
大塚製薬は東京マラソンという舞台をどう活用したのだろうか。

※こちらは月刊陸上競技(2019年4月号)に掲載された内容を一部修正したものです。

VOLUNTAINERチーム「大塚製薬株式会社」として20km給水所で給水ボランティアを行った青山学院大学と日本体育大学の学生たち

「競技会」の枠を超えた舞台

「東京がひとつになる日。」をコンセプトに13回目の大会を迎えた東京マラソン。13年の間に大会を取り巻く環境は大きく変化した。前身の「東京国際マラソン」は参加標準記録を突破したエリート男子選手のための大会だったが、2007年に大衆向けの都市マラソンへと姿を変えてからは回を重ねるごとに一般ランナーのエントリー抽選倍率が跳ね上がり、日本にランニングブームを巻き起こした。

一方で、この大会を単なる「競技会」というだけでなく、東京を舞台にしたビッグイベントとしてとらえる見方も広まっていった。第1回大会から13年連続でオフィシャルパートナーを務めている大塚製薬もその一つだ。
従来は自社製品の提供・配布のほか、レース本番に向けたコンディショニング情報を発信するなどしてランナーをサポートしてきたが、近年は視野を広げ、ランナーだけでなく運営スタッフやパートナー企業など、大会に携わるより多くの人々の健康をサポートする役目を担うようになった。

3万8000人が出場したビッグイベントを支えた学生たちは「とても貴重な経験ができた」と口を揃えていた

さらに、今回は産学連携協定を締結している2大学の学生を対象に〝学びの機会〟を提供した。具体的にはレース当日にVOLUNTAINERチーム「大塚製薬株式会社」として給水ボランティア活動や、沿道応援、事前イベントである「東京マラソンEXPO 2019」でのブース運営などで、大塚製薬と連携して活動できるというものだ。

実際に活動したのは青山学院大学(ラグビー部、アメリカンフットボール部、ラクロス部〔女子〕の各部員)と日本体育大学(昨年4月に開設されたスポーツマネジメント学部の1期生、ライフセービング部の部員)の学生計61人。将来もスポーツに携わりたいという意志の強い学生たちが、パートナー企業と共に大イベントの運営に携わった。
「学生たちは真摯に取り組んでくれましたし、両大学とも活動を前向きにとらえていただきました。今後も学生たちに何かを感じ取ってもらえるよう、期待に応えられる取り組みをしていきたい」と大塚製薬のソーシャルヘルス・リレーション部長は話す。手探りの部分はあったものの、まずは無事に大会を終えて初の試みは成功だったと言えそうだ。

「スポーツ立国戦略」と大塚製薬

そもそも大塚製薬が新たな取り組みを始めた背景には、文部科学省が2010年8月に「スポーツ立国戦略」を策定し、2015年にスポーツ庁を設立、2017年には「第2期スポーツ基本計画」を打ち出したことがある。これはスポーツを「する人、観る人、支える(育てる)人を重視する」というもので、スポーツに携わる人間を増やすことがスポーツの意義や価値を広め、それがスポーツ界のみならず社会の発展にもつながるという考え方だ。
従来、日本のスポーツ界は「する人」には焦点が当てられても、「観る人、支える人」に対してはアプローチが手薄になりがちだった。しかし、高齢化や医療費の増大が社会問題化し、2013年9月には2020年東京五輪・パラリンピックの開催も決定。スポーツとの関わり方がこれまで以上に問われる時代となった。
大塚製薬では昨年11月に「ソーシャルヘルス・リレーション部」を発足。『社会の健康問題を地域の組織や団体とともに解決していく』というミッションを掲げ、これまで社内に蓄積してきたノウハウを世の中に還元する取り組みを活発化させた。
東京マラソンで大学生に学びの機会を提供したのもその一環だ。製品の配布、情報提供といったランナーを対象とした活動だけでなく、より広い視野を持って「イベントとの向き合い方をとらえ直した」とソーシャルヘルス・リレーション部長。「東京マラソンという舞台を通じて生活者の皆様に健康価値を伝えられるのではないか」と考え、将来、スポーツを「支える」側に立つであろう人材の育成にも力を入れることになったのだ。

レース前の3日間、お台場特設会場で行われた「東京マラソンEXPO 2019」では学生たちが交替制で大塚製薬のブースに訪れて運営サポートをした

35.8kmの高輪折り返し付近では大塚製薬のスタッフと共に沿道応援を行った

提携大学と志向が一致
今後の展開にも注目

大塚製薬は昨年9月に青山学院大学と連携協定を、10月には日本体育大学と包括合意書を締結。スポーツや健康の分野において連携できる体制が整っていたことから、まずは昨年11月から両校で将来スポーツに携わる可能性が高いグループを対象に、東京マラソンで活動したいという学生を募集した。

年度途中での提案ということもあって活動を教育のカリキュラムに組み込むことはできなかったが、青山学院大学研究推進部の永見聡一朗氏は「今の大学教育には講義型だけではなく能動的学習が求められています。その意味ではこういう活動はありがたいですし、来年以降はさらに展開していきたい」と取り組みを歓迎する。
日本体育大学は2017年4月にスポーツの強化が中心だったスポーツ局を改編し、スポーツマネジメントや指導者養成などの機能を加えた「アスレティックデパートメント」を設立。アスレティックデパートメント長補佐を務めるスポーツマネジメント学部の佐野昌行准教授は「実践の場では勉強してきたことを発揮したり、新たな課題を見つけて次年度の学びにつなげることもできます。ちょうど1年が終わる時期にこういう機会をいただけたのは教育的な効果も大きいと思います」と総括した。東京マラソンEXPOのブース運営に携わった学生たちの活動を視察した際には、「外国の方とも積極的にコミュニケーションを取っていて、普段とは違った姿を見せてくれた」と成長を確認できた面もあった。
両校ともスポーツを〝支える〟人材の育成に力を入れ始めた段階であり、ビッグイベントを活用した産学連携は企業・大学の双方にさまざまなメリットがありそうだ。さらに、スポーツを支える企業間の連携も今回の東京マラソンを通じて活発に行っているという。このような取り組みが近い将来、日本のスポーツ界を動かす力となるはずだ。
(月刊陸上競技2019年4月号を一部修正)

学生リーダーのコメント

青山学院大学瀬尾太一さん(ラグビー部/経営学部2年)

「東京マラソンは多くのボランティアが支えていることを知ると共に、その重要性を知ることができました。 だからこそ『ありがとう』などと言われると、うれしさとやり甲斐も感じました。今回の経験から、支えてくださる多くの方々に感謝して競技をしていきたいです」

日本体育大学安田マリアさん(スポーツマネジメント学部1年)

「冷たい雨の中の活動となり、手が凍えてポカリスエットのキャップがうまく開けられないこともありました。そんな中、『がんばれ』の声掛けにランナーたちの表情が緩むことがうれしかった。ドリンクを受け取るランナーの笑顔のおかげで、寒さを忘れて活動を行うことができました」

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