コラム 暮らしを彩るワンポイント北欧フラワーデザイン協会・ヘンティネン・クミさんの
フィンランド花通信

第5回 
「友だちの日」に贈る花

バレンタインデーは、フィンランドでは「友だちの日」。感謝の気持ちを乗せる花は、春の訪れを感じさせるチューリップでした。

スパイシーな伝統菓子

年明けから2月5日頃まで、お菓子屋さんやスーパーには「ルーネベリタルト(Runebergintorttu)」が並びます。古くから愛されてきた伝統的なお菓子で、カルダモンやジンジャーなどのスパイスとお酒がきいたバターケーキ……と言えば想像できるでしょうか。不思議な味わいのお菓子でした。初めて見たときは「これがタルト?」と自分の知っているタルトとはまったく違う形に驚きました。国歌を作った詩人・ルーネベリさんの奥さんが、クリスマスにたくさん焼いて残ったスパイスクッキーをくだいて作ったのがはじまりなのだそうですが、2月5日、ルーネベリさんの誕生日には、家族や友だち、同僚などとみんなで食べる習慣があります。
第5回 「友だちの日」に贈る花/北欧フラワーデザイン協会・ヘンティネン・クミさんの【フィンランド花通信】
スパイスが効いているから食べるとカラダの中が温まる。チェリージャムが乗っています。

吐く息でガラスが凍る

この時期、私の暮らしていたエスポー市は、最も冷え込みが厳しく積雪量も多く、街は氷と雪におおわれてしまいます。毎日の出勤時間は朝7時頃でしたが、外はまだ真っ暗。空には星や月が輝いているのが見えたものです。屋外の駐車場に停めてある車にエンジンをかけ、走り出すと、自分の吐く息で車のフロントガラスが凍って真っ白になり、前が見えなくなるということも。運転しながら、ゴムでできたお好み焼きのヘラのような道具を片手に持ち、フロントガラスの氷をゴリゴリと削ぎ落とすというなかなか命がけの通勤をしていたのでした。
第5回 「友だちの日」に贈る花/北欧フラワーデザイン協会・ヘンティネン・クミさんの【フィンランド花通信】
雪に覆われたシラカバの木立に見下ろされながら、田舎道を走って通勤。モノトーンの景色が続きます。

花を大事にする国

フィンランドに移住する前、オランダの花屋で2年ほど働いていたのですが、さすが世界最大の花市場「アールスメール」がある国。各地でフラワーパレードが開催され、週末には男性も女性も自宅に飾るための花を買いに来るなど、人々が花とともに暮らす国でした。移住する際は、1年の半分が冬という国に花の需要はそれほどないのでは? と不安だったのですが、その予想は見事にハズレ。この国では1年のあらゆる行事で花が主役になるということがすぐにわかりました。その理由のひとつがバレンタインデーでした。
第5回 「友だちの日」に贈る花/北欧フラワーデザイン協会・ヘンティネン・クミさんの【フィンランド花通信】
チューリップの需要が最も高まるのが2月。まだまだ寒いですが、春の訪れを感じさせてくれます。

バレンタインデーは友だちの日

2月14日。バレンタインデーも花が主役のイベントのひとつ。バレンタインデーは、「ウスタヴァンパイヴァ(Ystavanpaiva)」と呼ばれ、直訳すると「友だちの日」。友だちへの感謝の気持ちをカードに託したり、ちょっとしたプレゼントを贈りあったりと、お互いの友情に感謝する大切な日なのです。街のショップには感謝を意味するハートの形のグッズが並べられ、花屋にはカラフルなチューリップブーケが並びます。日本のように女性から男性にチョコレートを渡すという習慣はありませんが、バレンタインデーには大切なだれかにチューリップを。それは、親友だけでなく、学校の仲間、お世話になっている仕事相手、家族、恋人まで広がり、感謝の気持ちであふれる1日になるのです。
第5回 「友だちの日」に贈る花/北欧フラワーデザイン協会・ヘンティネン・クミさんの【フィンランド花通信】
ハート型になるようにアレンジした深紅のバラに、リューココリーネとチューリップ を添えて。妻や恋人にはバラを贈る人も。
ヘンティネン・クミ
ヘンティネン・クミ(へんてぃねん・くみ)さん
フィンランドでフローリストとして活躍してきたヘンティネン・クミさんに、花を愛する人々の暮らしを聞きました。
北欧フラワーデザイナー。13歳より池坊生花を学び、国内大手百貨店内のフラワーショップに10年間勤務。イギリス、オランダへ花留学したのち、1998年からフィンランドへ。北欧フラワーデザインのパイオニアであるヨウニ・セッパネン氏の専属アシスタントを務めながら、フィンランド国立KEMPELE花卉園芸学校マスターフローリスト科を卒業。ヘルシンキ市内でフラワーショップとスクールを経営後、2007年に帰国。東京・新御徒町の「LINOKA Kukka」を拠点に北欧フラワーデザインの普及に尽力している。著書に『森の植物が教えてくれた 北欧フィンランドのフラワーデザイン』(六耀社)がある。
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