コラム 暮らしを彩るワンポイント歌人・高田ほのかさんの
【あなたと私のための短歌】

第7回 
いいね!くらげ

なくてはならないのに、ときにリアルな生活にまで影響が出てくるのが、SNSです。誰もが感じている、あのこととは……。

しのぶれど色に出でにけるあの月は
海月くらげのなかに隠しています
高田ほのか

アイコン探し

SNSの投稿につく「いいね!」一覧を見られないことがある。見ない、のではなく、見られないのだ。心が元気なときは、たまにスマホ画面をスクロールして(あの人が「いいね!」してくれてる!わぁ、この人も!)と嬉しくなれるのだが、心が弱っているときは、「いいね!」してくれている人よりも、してくれていない人のほうに気持ちを持っていかれる。
結構仲が良いと思っている、野ばらのアイコンの人(仮名)から、何回か続けて「いいね!」がないことに気づくと、突如として不安に襲われる。過去の投稿まで遡り、必死になって「いいね!」一覧から野ばらのアイコンを探す。人差し指で何度も上下にスクロールする。ザッザッザッザッスーーッスーーーッ。
……ない。やっぱりないよ。
それから理由を探し始める。あのときのあの言い方が気に障ったのかな、ああ……そんなつもりで言ったんじゃないのに……でも、そう捉えられても仕方のない言い方だったかも……はっ今からメッセージで謝ろうか!いや、今さら「あの節は申し訳ございません」とか言ったら余計怪しいやろ……と、頭は〝野ばらの人〟でいっぱいになる。
逆に、ひとりの人が一気に10本くらいの投稿に「いいね!」をしてくれているのを見るとちょっとビビる。この大仏のアイコンの人(仮名)は、わざわざスクロールして、投稿一本一本にその人差し指で「いいね!」とか「超いいね!」とか「うけるね」とか「すごいね」とか押してくれたのだ。
そう考えると、「いいね!」が(あなたをお慕いしていますよ)、というサインのように思えてくる。いや、実際そうだろう。どんなに素晴らしい(?)投稿をしても、気のない人からは「いいね!」がつかないし、どんなにつまらない投稿でもファンだと公言する人はシェアまでしてくれる。そのサインは、実体のないくらげだ。
きょうもとうめいなくらげがSNSの海をふわふわ漂い、わたしたちは知らないうちに撫でられたり刺されたりしながら、喜んだり、痛い痛いと嘆いたりしている。
第7回 いいね!くらげ/歌人・高田ほのかさんの【あなたと私のための短歌】
イラスト・小沢真理
高田ほのか
高田ほのか(たかだ・ほのか)さん
大阪出身、在住。関西学院大学文学部心理学科卒。2010年より短歌教室「ひつじ」主宰。「未来短歌会」所属。テレビ大阪放送審議会委員。さかい利晶の杜(千利休・与謝野晶子のミュージアム)に短歌パネル常設展示。小学校、大学から企業まで幅広く講演・講義を行い、現在まで短歌の魅力を1万人以上の参加者に伝えている。短歌教室「ひつじ」は、2020年よりオンライン教室を開催。NHK「あさイチ」、関西テレビ「報道ランナー」、女性誌などから取材を受ける。関西を拠点に尽力する社長にインタビューし、その“原点”を「短歌で見つける経営者の心」と題するコラムにしており(産経新聞社)、大阪万博が開催される2025年に100社、100首を完成させ、歌集の出版と展示会を開催予定。著書に『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)。監修書に『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)。
Share
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る
美しく生きるヒントがきっとある

コラム記事

取り扱い先

取り扱い先を調べる

公式通販サイト

ご購入はこちら