コラム 暮らしを彩るワンポイント歌人・高田ほのかさんの
【あなたと私のための短歌】

第10回 
ことばの骨格

短歌って、どうやって作るのですか? 難しそう……そんな声に応えて、高田さんから作り方のコツを教えてもらいました。

右耳にはめてくれたね802の
半分こして聴いたジングル
高田ほのか

整えるということ

短歌を添削することは、整体に似ていると思う。体の中の老廃物を流し(不要な言葉を削り)、骨盤や背骨などのズレを矯正し(57577を整え)、血流(韻律)をスムーズにする。血液の循環が良くなると、不思議なことに「骨盤の位置はここで、その上に背骨がS字カーブを描いていて……と、「本来の骨格の位置はここだったんだ(私が詠みたかったのはこういうことだったんだ)」という体の急所・ツボ(短歌の要点)がわかってきます。

さて、今回「ラジオ」というテーマ題から詠まれた短歌がこちら。

故郷にて火曜の夜のジングルに
濡れた制服のにおいをおも
亜佑子

【作品背景】
「ラジオ」にはたくさんの思い出があって、詠みたいことがたくさんあったのですが、一番強く感覚に残るものを歌にしました。高校生のころ、普段は自転車で通学していたのですが、帰宅時間に雨が降った日は、親が車で迎えに来てくれていました。助手席で聞いていたラジオから流れる印象的なジングルがありました。今も帰省したときに、たまたまその時間帯に車に乗っていると、そのジングルが流れてきて、助手席で、自分の濡れた制服の、なんともいえないにおいを思い出します。

ルールはたったひとつ

作者が経験したことが31音からリアルに伝わってくる、いい短歌だと思います。
一読してわかるのは、この短歌が感覚に基づいているということ。「ジングル」という聴覚に紐づけられた記憶と、「濡れた制服のにおい」という触覚と嗅覚的な要素。どれも個性的で、読者の記憶を刺激する力があります。

今回の添削のポイントは、歌全体に流れる説明くささをなくし、詩情を出すことです。

① 「故郷にて」。歌の背景として使いたくなる気持ちはわかりますが、あえて入れなくてもいい言葉なのではないかと思いました。短歌のおもしろいところは、すべてを言い尽くすのではなく、読者に想像する余白を残すこと。今回は、「故郷にて」を削っても、歌全体に漂う郷愁は伝わるように思いました。

② 「火曜の夜の」。具体的な曜日を入れるとリアリティは増すのですが、【作品背景】を読むと、火曜日というワードが出てこないので、ストーリーに絡んでいるわけではなさそうですね。むしろ、「の」が2回続くことで間延びした印象を与えてしまいます。ここも削りましょう。

③ 「懐う(または思う、想う)」。初心者の方は「おもう」という言葉を使いがちですが、短歌形式の中では、ほとんどの場合不要です。なぜなら、短歌そのものが、作者の思考や感情を形にする表現だからです。「おもう」は言わずもがななのです。

④ 【作品背景】に書かれている「助手席」というワードを入れてみました。「助手席」は、経済効率がいい言葉です。この一語があるだけで、車内にいること、また、運転席には自分以外の誰かが乗っていることが読者に暗に伝わり、歌の臨場感が増します。

そうしてできたのがこちら。

助手席にあのジングルが連れてくる
雨に濡れた制服のにおい

無駄な部分がそぎ落とされたことですっきりとした印象になり、場面がより鮮やかに浮かび上がってきたのではないでしょうか。「助手席」「ジングル」「濡れた制服のにおい」。これらの言葉が溶けこんだ世界に、読者は自然と自分自身の記憶を重ね合わせます。

短歌は季語を必要としません。ルールは、57577で詠むことのみ。
みなさんも、老廃物を流し、体のツボ(短歌の要点)を押さえて、骨格(57577の定型)を整えていきましょう!身体が整うと、呼吸も楽にできるようになってきますよ(定型のリズムを身につけると、短歌をつくるのが楽しくなってきますよ)。
第10回 ことばの骨格/歌人・高田ほのかさんの【あなたと私のための短歌】
イラスト・小沢真理
高田ほのか
高田ほのか(たかだ・ほのか)さん
大阪出身、在住。関西学院大学文学部心理学科卒。2010年より短歌教室「ひつじ」主宰。「未来短歌会」所属。テレビ大阪放送審議会委員。さかい利晶の杜(千利休・与謝野晶子のミュージアム)に短歌パネル常設展示。小学校、大学から企業まで幅広く講演・講義を行い、現在まで短歌の魅力を1万人以上の参加者に伝えている。短歌教室「ひつじ」は、2020年よりオンライン教室を開催。NHK「あさイチ」、関西テレビ「報道ランナー」、女性誌などから取材を受ける。関西を拠点に尽力する社長にインタビューし、その“原点”を「短歌で見つける経営者の心」と題するコラムにしており(産経新聞社)、大阪万博が開催される2025年に100社、100首を完成させ、歌集の出版と展示会を開催予定。著書に『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)。監修書に『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)。
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