コラム 暮らしを彩るワンポイント歌人・高田ほのかさんの
【あなたと私のための短歌】

第14回 
キャベツくんの真価

何気ない日々の暮らしから生まれる短歌。しみじみしたり、ほのぼのしたり。

「四〇〇円」貼られたキャベツを手に抱え
「やすいやすい」とあやしてみたり
高田ほのか

仕事帰りに

キャベツが高い。
信じたくないけれど、これはもう現実らしい。
かつては100円でドン!と売られていたあの丸い緑のかたまりが、ある日の仕事帰り、スーパーで「398円」の値札を背負っていて、わたしは思わず手を引っ込めた。
しかし、次の瞬間、なぜだか胸がキュッとなった。

そんな冷たい態度、キャベツくんに失礼じゃないか?

キャベツくんは、えらい。常に脇役に徹し、さまざまな調理法に自分を合わせる柔軟性を持っている。
千切りにすればシャキッと頑張るし、煮込めばまろやかなコクを滲ませ、炒めれば主役を引き立たせる絶妙な甘みを出す。
いつも全力で、そのポテンシャルを発揮してくれる。

キャベツくん=友蔵じいさん?

言うなれば、キャベツくんは野菜界の友蔵じいさんだ。
友蔵は『ちびまる子ちゃん』の家族、さくら家のなかで、主人公であるまる子の一番の理解者だ。
まる子の突飛な発想やわがままも懐深く受け止め、乗っかって一緒に楽しみ、主役であるまる子の魅力を上手に引き出す。
それでいて、自分のカラーは損なわず、読み終えたあとは芯の甘みをじんわり残す。
どんな場面にも自分を合わせる友蔵、いや、キャベツくんの柔軟性に何度助けられてきたことか。
それなのに。
わたしは値上がりしただけでドン引いてしまった。

頼もしい重み

「……キャベツくん、ごめんね」

心の中でつぶやきながら、ラップにぴったり包まれた鮮やかなグリーンを抱きかかえるようにカゴに入れる。
重い。
でも、その重みが今日はなんだか頼もしく感じる。

帰宅して、キャベツくんの外葉をすこし雑に剥がした。
内側から、やわらかく巻かれた黄緑色が覗く。
「自分の価値が400円って、どう?」と話しかけてみた。
キャベツくんは何も答えなかった。
それが、ちょっと助かった。
第14回 キャベツくんの真価/歌人・高田ほのかさんの【あなたと私のための短歌】
イラスト・小沢真理
高田ほのか
高田ほのか(たかだ・ほのか)さん
大阪出身、在住。関西学院大学文学部心理学科卒。2010年より短歌教室「ひつじ」主宰。「未来短歌会」所属。テレビ大阪放送審議会委員。さかい利晶の杜(千利休・与謝野晶子のミュージアム)に短歌パネル常設展示。小学校、大学から企業まで幅広く講演・講義を行い、現在まで短歌の魅力を1万人以上の参加者に伝えている。短歌教室「ひつじ」は、2020年よりオンライン教室を開催。NHK「あさイチ」、関西テレビ「報道ランナー」、女性誌などから取材を受ける。関西を拠点に尽力する社長にインタビューし、その“原点”を「短歌で見つける経営者の心」と題するコラムにしており(産経新聞社)、大阪万博が開催される2025年に100社、100首を完成させ、歌集の出版と展示会を開催予定。著書に『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)。監修書に『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)。
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