第15回
ちくわと、仲直りのしかた
食卓に上がる「いつもの一品」が、心を解きほぐすこともあるようです。
ゆるされることばをきっとしらなくて
ちくわの穴からちくわを覗く
高田ほのか
ちょうどいい存在
冷蔵庫を開けたら、そこにちくわがいた。
きのうも、おとといも、きっといてくれた気がする。
あんまり目立たないけど、目立たないまま存在してるって、すごくない?
ピーマンと炒めれば、色も食感もバランスよく整えてくれるし、おでんとして煮れば、大根のとなりでほどよく味を深めてくれる。包丁を持つ気力がない日でも、袋から出すだけで、おかずとして成立してしまう。
なんていうか、「できるけど、がんばりすぎてない感じ」が、ちょうどいいのだ。
きのうも、おとといも、きっといてくれた気がする。
あんまり目立たないけど、目立たないまま存在してるって、すごくない?
ピーマンと炒めれば、色も食感もバランスよく整えてくれるし、おでんとして煮れば、大根のとなりでほどよく味を深めてくれる。包丁を持つ気力がない日でも、袋から出すだけで、おかずとして成立してしまう。
なんていうか、「できるけど、がんばりすぎてない感じ」が、ちょうどいいのだ。
手間と手抜きのあいだ
ある日、スーパーでカートをひいて歩いていると、練り物コーナーでちくわが特売されていた。四本入り98円! 値上げの波が押し寄せる時代に、この価格。
「ちくわよ、ありがとう……!」
思わず心の中でお礼を言ってしまった。
小鉢の一つとして、ツナと塩麹、すりごま少々でちくわを和える。わたしは、こういう一品を、“ちょっとだけ自分をゆるす料理”と呼んでいる。手抜きでも手作りでもない、その中間の感じ。
ネコのかたちの小鉢に盛って、冷蔵庫から缶ビールを出す。録画してあったNHKの「ドキュメント72時間」を再生すると、夫がリビングにやってきた。
「ちくわよ、ありがとう……!」
思わず心の中でお礼を言ってしまった。
小鉢の一つとして、ツナと塩麹、すりごま少々でちくわを和える。わたしは、こういう一品を、“ちょっとだけ自分をゆるす料理”と呼んでいる。手抜きでも手作りでもない、その中間の感じ。
ネコのかたちの小鉢に盛って、冷蔵庫から缶ビールを出す。録画してあったNHKの「ドキュメント72時間」を再生すると、夫がリビングにやってきた。
「うん」で伝わること
その日の朝、夫とちょっとした言い合いをしていた。きっかけは忘れたけれど、ソファの角に足の小指をぶつけたくらいの痛みが残っている。
謝るタイミングを逃したまま、なんとなく夕食の時間になってしまった。
いつものようにテーブルに向かい合わせで座る。
テレビのなかの誰かが「こんな日もいいな」と言って、夫が「これ、やっぱこれうまいな」とちくわをつまみ、わたしは「うん」と言った。
うん?
いま、ほんのりしたやり方で、ちくわがわたしたちを仲直りさせてくれたような……?
ちくわは、すごい。
たぶん、ちくわのことは、信じていい。
謝るタイミングを逃したまま、なんとなく夕食の時間になってしまった。
いつものようにテーブルに向かい合わせで座る。
テレビのなかの誰かが「こんな日もいいな」と言って、夫が「これ、やっぱこれうまいな」とちくわをつまみ、わたしは「うん」と言った。
うん?
いま、ほんのりしたやり方で、ちくわがわたしたちを仲直りさせてくれたような……?
ちくわは、すごい。
たぶん、ちくわのことは、信じていい。

イラスト・小沢真理

高田ほのか(たかだ・ほのか)さん
大阪出身、在住。関西学院大学文学部心理学科卒。2010年より短歌教室「ひつじ」主宰。「未来短歌会」所属。テレビ大阪放送審議会委員。さかい利晶の杜(千利休・与謝野晶子のミュージアム)に短歌パネル常設展示。小学校、大学から企業まで幅広く講演・講義を行い、現在まで短歌の魅力を1万人以上の参加者に伝えている。短歌教室「ひつじ」は、2020年よりオンライン教室を開催。NHK「あさイチ」、関西テレビ「報道ランナー」、女性誌などから取材を受ける。関西を拠点に尽力する社長にインタビューし、その“原点”を「短歌で見つける経営者の心」と題するコラムにしており(産経新聞社)、大阪万博が開催される2025年に100社、100首を完成させ、歌集の出版と展示会を開催予定。著書に『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)。監修書に『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)。