無酸素運動と有酸素運動の違いとは?
運動には「有酸素運動」と「無酸素運動」があります。
2つの大きな違いは、筋肉を動かすためのエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を作り出すために、「酸素」を使用するか、しないかです。ここでは、それぞれの運動の特徴や酸素の利用の違いについて解説します。
無酸素運動と有酸素運動の違い
無酸素運動とは?

「無酸素運動」とは、短距離走やレジスタンス運動、ダンベルを用いた筋力トレーニングなどのように短時間で強い負荷がかかる運動のことです。呼吸を止めて行う運動という意味ではなく、筋肉を収縮させるためのエネルギー源「ATP」を、体内の糖から酸素を使わずに作り出すためこのように呼ばれています。
高強度の無酸素運動を持続できる時間は1~3分程度で、さらに運動を続けるには十分な酸素が必要です。
有酸素運動とは?

「有酸素運動」とは軽~中程度の負荷のかかる運動を、長時間継続して行う運動を指します。代表的なものとして、ジョギングや、水泳、サイクリングなどがあります。
これらの運動は筋肉を収縮させるためのエネルギー「ATP」を体内の糖や脂肪から酸素とともに作り出すことから有酸素運動と呼ばれています。
有酸素運動では、肝臓や筋肉に貯蔵された糖(グリコーゲン)が酸素によって二酸化炭素と水に分解され、その過程で作られたATPをエネルギー源として使います。
しかし、体内に貯蔵されている糖には限りがあるため、長時間の運動時は体内に大量に貯蔵されている体脂肪を分解してATPを作り出す方法に切り替わります。
体脂肪を分解するには大量の酸素が必要となるため、より多くの酸素を体内に運ぶためには心臓と肺のはたらきが重要になります。
無酸素性エネルギー供給系と有酸素性エネルギー供給系
ATPの産生や再合成を行ってエネルギーを供給する経路には、次の3つがあります。
- ATP-CP系
- 解糖系(乳酸系)
- 有酸素系
このうち、「ATP-CP系」と「解糖系」は、エネルギー供給に酸素を使わないため「無酸素性エネルギー供給系」と呼び、エネルギー供給に酸素を使う「有酸素系」は「有酸素性エネルギー供給系」と呼ばれます。
では、それぞれの系について詳しく説明します。

無酸素性エネルギー供給系
ATP-CP系
ATPが分解された時に生まれるADPと、筋肉に蓄えられている「クレアチンリン酸」という物質を利用し、ATPを再合成する経路がATP-CP系です。しかし、筋肉に貯蔵されているクレアチリン酸の量はごくわずかなため、このATP-CP系だけで運動を継続することはできません。そのため、ごく短時間で瞬発的に最大筋力を発揮するような運動に向いているとされています。
解糖系(乳酸系)
筋肉に貯蔵されている糖(グリコーゲン)をピルビン酸という物質に分解し、酸素を使わずにATPを作り出す経路で、その過程の中で「乳酸」が生まれます。この解糖系(乳酸系)は、運動時間が数十秒から数分間くらいの高強度の運動に向いています。
有酸素性エネルギー供給系
有酸素系
糖質が分解されてできたピルビン酸や、脂肪が分解されて遊離脂肪酸から生成されたアセチルCoAという物質が、ミトコンドリア内のクエン酸回路、電子伝達系という2つの経路を経て、酸素を利用してATPを産生する経路です。
複雑な経路のため、エネルギーを供給するまでの速度は遅くなりますが、糖質と体脂肪があれば、長時間、大量のエネルギーを産生できるため、マラソンやウォーキングなど、継続時間が長い持続的な運動で活躍します。

有酸素運動と無酸素運動の転換点とは?
長時間のランニングのような持久運動を続けるには、酸素を継続して筋肉に送り届ける必要があります。走るスピードを上げるなど運動強度が高くなると、あるポイントを境にエネルギー産生に必要な酸素の供給が追いつかなくなっていきます。このポイントを「無酸素性作業閾値(AT)」といい、「有酸素運動」から「無酸素運動」に切り替わる運動強度を示す値となります。
このATを表す指標に「乳酸性作業閾値(LT)」と「換気性作業閾値(VT)」があります。
運動強度が上がり、有酸素運動から無酸素運動へシフトすると、ATPを作りだす過程で「乳酸」と「二酸化炭素(換気量)」が増加します。この転換点を「乳酸性作業閾値(LT)」および「換気性作業閾値(VT)」と呼び、運動強度の目安として用いられることがあります。
「無酸素性作業閾値(AT)」は、スポーツ選手など、日頃からトレーニングを積み、心肺機能が強化されている人の場合は、強度の高い運動を継続しても酸素不足になりにくく、一般の人よりも高くなります。
また、AT値は簡易的に年齢による予測最大心拍数から求めることができます。
AT値 = {(220 – 年齢) – 安静時心拍数} × 0.75 + (安静時心拍数)
およそこの心拍数を境に有酸素運動と無酸素運動が切り替わるとされています。
自身のATを把握することは、有酸素運動と無酸素運動の境界を引き上げるトレーニングを実施するためにも有効です。
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